日向に、飛び出してしまう。


「あなた、は……私とは違う。日の下に生きる方……ですから」

「ならばお前も出れば良い。恐いなら、俺がしっかりと手を握っていよう。何があっても、お前を守ろう。だから、俺と共に洛陽を出よう。右北平に、戻ってくれ」


 親指で、いつの間にか濡れていた目元を拭われる。
 けれど涙が堰(せき)を切ったように溢れ出してしまうのだ。

 私はこの人のものになりたい――――……。

 それが、胸を、頭を占めていく。

 嗚呼。

 駄目だ。

 もう。

 想いが膨れ上がっていく。

 抑えられない。

 抗えない。


「俺の名は、趙雲。お前の名前は?」

「……○○、です……」

「○○。俺はお前を、妻に迎えたい」


 彼が――――趙雲様が、顔を寄せてくる。

 私は、逃げることが出来なかった。
 逃げるには、私はもう、自分の想いに雁字搦(がんじがら)めにされていたから。



 日向の存在に包まれる感覚を、涙を流しながら享受(きょうじゅ)する――――。



‡‡‡




 その日。
 数人の下女と共に商家の妻が洛陽から姿を消した。

 報せを受けて急遽帰宅した夫は髪を振り乱し、必死の形相で洛陽の街を妻の名を叫びながら走り回ったという。

 妻は、とうとう見つからなかった。



→後書き+レス


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