周瑜


※兌州にて劉備達と合流以前から、周瑜と付き合ってる設定。



「――――あの、暑苦しいのですが」


 樊城にて、幽谷は厄介な男に捕まっていた。

 後ろから抱き締められ、膝の上に座らされている。人気の無い区域の空き部屋だからほとんど人目には触れないが、外で、いきなり、こんな風に密着されて、あまり良い気分ではない。

 腹に回った手を軽く叩いて背後の男を振り返ると、彼は外套の下から幽谷を恨めしそうに睨んだ。
 怒っているのは、多分新野城で狂気地味た夏侯惇にしつこく狙われていたからだろう。理由も分からないのに幽谷を異常に求める彼に、気分を害するのも、まあ分からないでもなかった。……こちらとしてはとても怖かったのだけれど。

 腕を剥がそうとするがより力を込められて拘束が強まってしまう。これは、長時間になりそうだ。
 幽谷は溜息を漏らして彼に凭(もた)れ掛かった。


「周瑜殿。いつまで拗ねておられるのです」


 男――――周瑜は、答えの代わりに首筋に噛みついた。
 身体が震えた瞬間に舌が這い出し、手が乳房を鷲掴みにした。

 幽谷はぎょっとして周瑜を振り返る。


「! なっ、何して……んっ」


 手を剥がして身を捩ると、今度は後頭部を掴まれて無理矢理に口付けられる。舌を捻じ込まれ乱暴に口内を暴れ回る。
 息すらも奪われ、幽谷は掠れた声を上げた。強引に彼の頭を押し退け、抗議した。

 だが周瑜は幽谷の身体を持ち上げ寝台に放り投げた。覆い被さり双肩を押さえつけてくる。

 幽谷は痛みに呻き、周瑜の顔を見上げる。
 そして――――瞠目。


「……なんて顔をしているんですか。良い歳をした男が」


 外套を剥がし、両手で頬を包む。
 周瑜は情けない顔をしていた。大事な物を取られた子供のようにも見えて、幽谷は苦笑する。


「あの程度のことで、情けない姿を晒さないで下さい。呉の都督ともあろうお方が」


 上体を起こすと、彼はまた口付けてこようとする。それをすげなくかわした。

 縋るようなしつこさに幽谷は吐息を漏らして、周瑜の首に腕を回した。頭を抱き寄せ、撫でつける。


「大丈夫です。私は、ちゃんとあなたの傍に戻ります」


 子供をあやす如(ごと)、穏やかに言い聞かせた。

 周瑜は幽谷の腰に腕を回した。沈黙し、大人しくなる。
 これで少しはマシになったか。
 そう思ってほっと息をつくも一瞬――――。


「……っ!?」


 また、押し倒された。
 それだけではない。
 右の太腿を撫で、持ち上げたのだ。
 徐々に上がってくるのに冷や汗を流し幽谷は周瑜の肩を押した。


「何をしているんですか!」

「え、言って良い?」

「言う前に止めて下さい――――ちょ!?」


 付け根をいやらしく撫でられ、ひくりと咽がひきつった。
 万年発情期――――いつだったか、彼にそう言ったことがある。今更そのことを思い出しても、何の意味も無い。

 周瑜はいつの間にか口角をつり上げ、艶然と笑っている。さっきまでの弱々しい態度は何処へ行ったのか。無性に腹が立つ。

 胸元に顔を落とし舌を這わす周瑜に、幽谷はいよいよ慌てた。

 そんな幽谷に、


「……なあ、幽谷。アンタはオレのものだよな。これから先も、ずっと」

「は……?」

「アンタのこと、オレは愛してる。誰にも渡さない。奪われるくらいなら何処か誰の目にも触れない場所に閉じ込める。それくらい、オレはアンタに惚れ込んでる」

「周瑜殿」

「けどな、夏侯惇に攫われそうになっていた時、オレは一瞬、考えたんだ。オレが先に幽谷を殺してしまえば、誰のものにもならないってさ。だけど、そうなると――――」


 オレとアンタで《家族》を作れない。
 幽谷は柳眉を顰めた。


「周瑜殿……私は、」

「種族が違うから子供は難しいかもしれない、だろう? でもそれ、甘寧達にはまだ訊いていない。まだ確かな答えは無い訳だ。なら、諦めるつもりは無いね。オレは、絶対にアンタを孕ませる」

「物騒な言い方はしないで下さい」


 孕ませる……嫌な響きだ。
 まるで幽谷はその為だけにいるみたいな、そんな印象を受ける。……まあ、周瑜の中の優先順位を考えればそれも致し方がないことなのだけれど。

 周瑜は会えば必ず幽谷に愛を囁く。それに嘘は無いと分かっている。
 けれど――――たまに、幽谷はその言葉に疑問を抱くのだ。
 彼は愛する幽谷との間に子供を欲すると言うが、実際はどうなのだろうかと。

 以前、関羽に言い寄っている姿を見た。それは挨拶のようなものだと本人は言っていたけれど、子孫を残すことに重きを置いているのなら、自分よりも関羽や猫族の娘を選んだ方が良い筈だ。
 幽谷よりも、確実に《家族》を作れるから。

 幽谷の身体を欲するのも、とどのつまりは自分の子供を作りたいからだ。

 そこに彼の口から出たような感情があるのか、最近は分からなくなっている。
 そうなると、周瑜も分からない。

 本当は騙されているだけで、こちらだけの一方通行なのではないか、と。


「……幽谷?」

「……すみません。今は状況を考えてもそんな気分になれないので」


 様子の変わった幽谷に周瑜は怪訝そうな顔をした。
 それに苦笑混じりに謝罪し、周瑜を押し退ける。


「夏侯惇殿については、気を付けておきます。あなたも、これから曹操軍に追われる猫族の側で成り行きを傍観しているのでしたら、十二分にお気を付けて。決して孫権様に危害が加えられぬようお願い致します。私達も、満足に動けない可能性がございます故」

「……どうしたんだ?」


 周瑜の声がややキツくなる。

 幽谷は寝台を降りて扉に手をかけた。


「いえ。本当に、気分ではないんです。……すみません」


 好きだ、付き合って欲しいと言ってきたのは周瑜だ。受け入れた幽谷が、疑うのは失礼に当たる。
 けれど――――。


「では、私はこれで失礼致します」

「おい、待てよ幽谷っ」


 幽谷は周瑜に会釈して部屋を出た。周瑜が追いかけてくる前にと、大股に周泰達のもとへと戻る――――……。

























 疑わなくて良いと思うけれど、私は――――どうしても疑念を晴らせないでいる。



●○●

 微妙〜な関係の周瑜×夢主でした。
 恋愛感情があるのか分からなくなってる夢主と、関羽に興味を持ってるけど夢主に対して病みかけてる周瑜。

 ここに甘寧が「よし別の男と身を固めろ」とか言い出したらもうカオス。


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