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「すみません! あのお料理を食べたら関羽様も喜んで下さるでしょうか!」

「うん! だっておいしいもん!」

「すみません、私頑張ります! 頑張って関羽様に喜んでいただきたいです! すみません! あ、あのあのっ、趙雲様!」

「っ! あ、ああ……何だ、○○殿」


 珍しく自分から勢い良く迫った○○に趙雲は僅かにたじろいだ。片手を両手でしっかり握られ、頬に朱が走った。


「すみません! 私、関羽様の為に頑張るので! また連れて行って下さい!! すみません!!」

「……、ああ。任せてくれ。○○殿の為なら、いくらでも協力させていただく」


 一応、握り返しはしないでおく。


「すみません! ありがとうございます! すみません!」


 嬉しそうなのに、やはりお礼にすら謝罪がついてくる。
 劉備のお影で○○の気分が明るくなったことは良いことだが……と、猫族は皆苦笑する。


「昔からだけど、必ず謝罪を付ける癖、どうにかならない?」

「すみません、頑張ります!」

「うん。今ので無理だって分かったから良いや……」

「え……すみません! すみません!」


 蘇双に謝罪する○○を見、趙雲は目を細める。安堵したように吐息をこぼした。


 が。


 そこで、○○は己の行動に気付いたらしい。
 暫し沈黙し、顔が青ざめ――――真っ赤になった。
 ぶるぶると震え出し、趙雲の手をぱっと放してきびすを返した。

 一瞬で一つ目三つの尾の獣の姿に変じ、一目散に逃げ出した。
 迎えに来ていた白虎が、猫族の足の間を縫うように抜け、呆れ果てた様子で彼女をゆっくりと追い始めた。

 世平は赤い顔を片手で隠し俯く趙雲に苦笑を向け、


「そういうことだ。また、機会があったら頼むぞ、趙雲」

「……ああ。次こそは、任せてくれ……」


 彼女にはいつも笑っていて欲しいんだ。
 好意を寄せる相手から思わぬ攻撃を受けた趙雲は少しばかり恥ずかしそうに言い、世平に頭を下げてきびすを返す。

 世平は足早に帰って行く彼を見送り、肩をすくめた。


「あいつも厄介な奴に惚れたもんだな」

「確かに」


 ぽん、と後ろから世平の肩を叩く者が在った。


「関定」

「『彼女にはいつも笑っていて欲しいんだ』って……良かったな、世平。最近二人共笑ってなかったもんな」

「そうだな。……帰りのことを趙雲は気にしてたが、俺は感謝しているよ。何せ、あんなに楽しそうな二人は、久し振りだったからな」

「関羽、早く帰ってくると良いなー」


 関定が空を仰ぎ、呟く。

 世平も同様に顔を上げ、「そうだな」と。


「ところで、趙雲は見込みありそう?」

「○○の性格を知っていてそう言うか」

「分かってるけど敢えて訊いてる」


 関定の頭を、軽くはたいた。


「ま、あいつが諦めない限りは見込みはあるだろ」

「諦めなさそー……」

「それとも趙雲以外の誰かに嫁いで欲しいのか?」

「あー……趙雲が一番性格的に良いと思うから余所の男は却下で――――って言わないと猫族全員敵に回す気がする」

「よく分かってんじゃねえか」


 関定は、苦笑した。

 そこで、○○の甲高い鳴き声が聞こえた。



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