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燐西が自分達と同じ側だったなら――――ぞっとしない話だ。
妹達という枷があればこそ、彼女は人外の知能を彼女らの為だけに振るい、世俗からの引き際を定められたのだ。
けれどだからこそ、○○も、他の妹達も、長女を心から慕う。
彼女が孤独に死ぬことを、妹達は許さない。
「間諜集団の最年長の男に、医者を燐西殿のもとへ連れて行かせた。これで良いのかい」
「ああ。思い通り死なせてはやらねえよ。○○様が泣く」
「それに、かの凶将もひとかたならず悲しむだろうからね」
ぎろりと睨めつけると賈栩は肩をすくめて両手を挙げた。
「○○様以外に、心が動く訳ねえよ」
「そうかい。それは残念だ」
「言 っ と く が。俺は一生お前を認めねえからな」
「別に構わない。俺があんたに遠慮する理由が無い」
「……」
「……」
蔡剛はこめかみをひくひく痙攣させる。
やはりこいつとはソリが合わねえ。こいつ殺してえ。
懐の匕首に手を伸ばしそうになるのを堪え、蔡剛は背を向ける。賈栩とはもうこれ以上一緒にいたくない。うっかり殺しそうになる。
それは賈栩も同じだったようだ。
蔡剛とは逆の方向へ歩き出す。
「そちらの用は終わったなら俺は失礼するよ。この後○○に呼ばれているんでね」
蔡剛は足を止めた。
「……あ゛あ?」
「言っておくが、彼女の方から二人で話をしたいと誘われた」
だから邪魔をするな。
言外にそう言われ蔡剛は今度こそ匕首を抜いた。
「上等だてめえここでぶっ殺してやる!!」
「断る。先程燐西殿にご助言いただいたばかりでね。殺される訳にはいかないんだ」
その声は、微かな響きでしかないが、楽しげだ。
明らかに馬鹿にされていると分かる彼の態度は蔡剛の神経を逆撫でする。
ややあって、蔡剛の怒号が城中に響き渡り、猫族総動員で蔡剛の暴走を押さえ込む事態と発展する。
その隙に、賈栩はまんまと○○の部屋に約束通り訪れるのである。
彼女が何を言うつもりなのかある程度の予想がついていながら、恐らくは緊張に落ち着かない状態であろう彼女を気遣って何も知らぬフリをする。
『あの子、ようやっと自覚したみたいだから、分かっていても無理に急かしたり迫ったりしないで、自分であなたに告げるまで、気付かないフリをして待ってあげて下さいな。それ程お待たせしない筈ですから』
それ程待たされないと言われたが、待つ程の時間すら無かった。
賈栩は自覚していなかった。
我知らず期待感が滲み出ていたのだろう。
うっすらと、微笑が浮かんでいた。
幸い、蔡剛は猫族が拘束してくれる。密かに張飛にそう頼んでおいた。
この間に、話を済ませてしまおう。
知らず早足に、賈栩は廊下を行く――――……。
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