6 家に帰ると、何やらリビングの方が騒々しい。 訝ってリビングに入ればテレビゲームで白熱する関定と張飛の姿が。その後ろでは劉備が二人を応援している。 今日は二人が遊びに来るとは聞いていなかったのだが……これはどうしたことか。 扉の前に立ち尽くして首を傾げると、 「ああ、お帰り。幽谷」 「蘇双様」 台所で水を飲んでいたらしい蘇双が、コップを片手に幽谷に近付いてくる。 幽谷ははっと向き直って頭を下げた。 「二人は今日泊まるんだってさ。迷惑なら追い返して良いから」 「いえ、それは構わないのですが……何故?」 「さあ、急に張飛が泊まりで遊びに来たいって言い出して、自然にこうなった。劉備様も乗り気になっちゃって、……ごめん」 蘇双がすまなそうに頭を下げる。 しかし、幽谷は本当に迷惑だとは感じていない。むしろ、家が賑やかになると劉備が喜ぶので嬉しく思う。 幽谷は首を左右に振って微笑を浮かべた。 「謝らないで下さいませ。では、関羽様は?」 「食材が足りないからって、世平叔父と一緒に買い物に行ったよ。あ、世平叔父は今日は仕事が早く終わったんだってさ」 「左様でございますか。それでは私は張飛様達のお部屋を掃除して参ります。何かございましたらお呼び下さいませ」 そう言うと、蘇双はぐにゃりと顔をしかめる。「二人にやらせれば良いのに」と言ってくれるけれど、楽しんでいるのだから彼らの邪魔をしたくはない。 一応、菓子が台所の棚の中に入っていると伝えて幽谷は二階に上がった。着替えようかとも思ったが、その前に部屋を掃除してしまおう。 幽谷は階段を上がって自室の前を通り過ぎる。 納戸から掃除機を取り出して二人がいつも泊まる部屋に入ると、部屋の隅に二人の荷物が寄せられて置いてあった。 彼らがこの家に泊まり込みで遊びに来る頻度は高い。着替えなどは彼らが家から持ってくるのだが、洗濯はこちらで担っている。 つい四日程前にも彼らは泊まった。その時は、関定が借りてきたホラー映画をリビングで観ていた。そのおかげで劉備が夜一人でトイレに行けなくなってしまっているようだ。 荷物をテーブルの上に載せて、幽谷はコンセントを刺し掃除機を起動させた。 ‡‡‡ 「ただいま、幽谷!」 「おかえりなさいませ、関羽様。世平様」 二人が荷物を両手に提げて帰ってくると、劉備がそれに気が付いてぱたぱたと関羽に駆け寄った。 「おかえり、関羽!」 「ええ。ただいま、劉備。今ご飯の準備をするわね」 劉備が荷物を持とうとするのをやんわりと断って関羽は世平と共に台所に入った。 幽谷も調理を手伝おうと台所に入る。 「世平様。後は私が」 「ああ、悪ぃな。俺はちょっと書斎に籠もる。準備が出来たら呼んでくれ」 「分かりました」 世平は袋から取り出したキャベツを幽谷に手渡すと台所を出る。そのままリビングを出ていくのかと思ったが、その前に張飛と関定の頭を叩いた。 「うわっ、何だよおっちゃん!」 「……あれ、いつの間に着替えたんだよ」 「お前らがゲームに夢中になってる間に、だ。あんまりし過ぎるなよ。誰が電気代払ってると思ってんだ。電気代は安くねぇんだぞ」 張飛達はぞんざいな返事を返し、今度は拳骨を落とされてしまう。抗議するとまたもう一発。 世平は溜息をついてリビングを出ていった。 張飛はそれを横目に睨みつけながら唇を尖らせた。殴られた頭をそろりと撫でた。 「いってぇー……、おっちゃんってば何度も殴んなよなー」 「これ以上馬鹿になったら困るもんな」 「うるせー!」 「いてっ! オレを殴るなよ!!」 ダイニングテーブルで本を読んでいた蘇双が顔を上げ、一言馬鹿と呟く。それにも張飛は噛みついてきた。勿論蘇双は無視である。彼の抗議など黙殺して読書へと戻ってしまう。 彼らの様子を眺めながら、幽谷は口角を弛める。 それを見た関羽が微かな笑声を漏らした。 「幽谷、張飛達が泊まりに来るととても嬉しそうね」 はたとして関羽を見やる。首を傾けた。 「表に出ていますか?」 「ええ。いつもより笑ってるもの」 幽谷はゲームを再開した彼らに駆け寄る劉備を目で追って、目を細めた。 「……そうですね。劉備様がお喜びになりますし、孤児院にいた頃のことを思い出しますから」 「そう。また今度遊びに行ったらどうかしら? もう随分と行っていないんでしょう」 言われ、記憶を手繰った。確かに、前回行ったのは一ヶ月以上も前だ。そろそろ行こうか。そう思って一つ頷く。 「今週の日曜日にでも、行こうと思います」 「犀煉や皆によろしくね。あ……孤児院の子達にお菓子を作っておくわ」 「ありがとうございます。きっと喜びます」 幽谷のいた孤児院を訪れる時、関羽達はついては来ない。ただ関羽だけでなく世平達も何かしらを幽谷に持たせてくれる。それはきっと、彼らなりの気遣いだろう。そんな風にしてくれなくても良いのにと、申し訳なく思う。 「ところで、関羽様。今日は何をお作りになるおつもりで?」 「今日は鍋よ。世平おじさんがもつ鍋を食べたいって」 ホルモンの入れられた大きなトレーを二つ持って幽谷に見せてくれる。半額のシールが左上に張り付けてあった。その辺はしっかりしている。 幽谷は笑い、「分かりました」と頷いた。 「じゃあ、準備をしましょう」 「はい」 . |