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「おら――!! 突っ込めー!! 門をぶっ壊すんだ!!」
「うおおおお!!」
大勢の兵士が大木を抱えて堅く閉ざされた門に突進する。
下邱はもはや、風前の灯火であった。
「くそぉ!! このままでは門が破られる!」
「みんな! 門を押さえるんだ!! ここを破られたら、呂布軍が町に入ってくるぞ!」
必死の体で門を押さえる徐州軍や猫族を、世平が励ます。
援軍はまだ来てくれない。趙雲は一体何をしているのか!
まさか、やはり公孫賛から援軍はもらえず、曹操のもとに行っているのではなかろうか。そこで、手間取っているとすれば、望みは薄い。
世平はぎりりと奥歯を噛み締めた。
しかし――――。
「うわあああ!!」
「ぐああ!! 門が!?」
なんと言うことだろうか――――先程までとは比べものにはならない衝撃に吹き飛ばされたかと思えば、堅牢な門がひしゃげて開門してしまったではないか!
地面に座り込んで呻きを漏らした彼らは、門を見、愕然とした。
そこには妖艶な女性――――凶将呂布が戦斧を持って佇んでいる。
彼女は嗤(わら)いながら優雅に門の中に入った。
「こんにちわ。猫のみなさん」
「ヘンタイ女!!」
「……くそぉ! 門が一撃で破られただと!?」
「わたくしもう戦に飽きてしまいましたの。そろそろ関羽ちゃん達と遊びたいと思っているんですけれども」
わたくしの可愛い可愛い子猫ちゃんと饕餮(とうてつ)ちゃんは一体どこにいるのかしら?
猫族、兵士らを見渡しつつ、彼女はうっとりと問いかけた。彼女はすでに、二人との凄絶な戦いを予測しそれだけで武者震いを起こしていた。
そんな彼女に、悔しげに眦をつり上げた張飛が答えた。誰よりも早く立ち上がって構えを取り、闘志を露わにした。
「ここにはいねーよ!」
呂布は笑みを消し、張飛を見やる。
「……どういうことですの? わたくし、折角ここまで来ましたのに、子猫ちゃん達はいないんですの……?」
もう一度周囲を見渡し、落胆したように吐息をも漏らす。
その後ろから、張遼が現れた。
呂布と同様に見回して納得したように頷いた。
「あの方達だったらこんな時、まっさきに前線に出てきそうです」
「そんな……! 本当に子猫ちゃん達はここにいませんの!?」
声を張り上げ、呂布は興醒めし悲しげに目を伏せた。
彼女にとって関羽と幽谷と刃を交えられないのであれば、この徐州に用は無い。
呂布はすぐに、片手を振って前へと倒した。
途端、呂布軍の荒くれ者達は津波の如く町に押し寄せる――――。
‡‡‡
陥落し、蹂躙される徐州を城門の上から眺める、一つの影。
泉沈はつまらなそうにその様を見下ろしながら、己の手にした《同胞の身体》を持ち上げた。
「……どういうことな訳?」
その身体は、生気無く心臓を動かし続けている。矛盾している。
ぴくりともしないその身体を睨みつけ、泉沈は舌打ちする。
「何で《魂が抜けてる》んだ」
城から出た時はちゃんと入っていた。
だのに、夜明けと共に気付けば中身(たましい)が消えていたのだ。
術では泉沈に及ばない犀煉にこんな細工は出来ない筈だ。
ならば――――ああ、あいつだ、恒浪牙だ。
あの地仙止まりの男が荷担していたのだ!
彼ならば泉沈にも対抗出来ない程の術を操れる。そして、犀煉にいたく協力的である。
ああもう、あのクソ野郎……今まで大人しくしてやがったのにこんな時になってこちらの邪魔をしてくるだなんて。
何処まで僕を苛立たせるんだ。前に進むことを止めた地仙如きが!
憤怒を金と黒の瞳にたぎらせて、その身体の首に手を伸ばしかけて止めた。
「――――落ち着け、僕。ここでこれを壊したら、永久にこのままだ」
緩くかぶりを振って身体を地面に投げ落とす。
それを見つめながら、泉沈は町中を堂々と歩いていく女を見下ろした。ああ、男を殺した。
「……あいつなら、これどうにか出来るかも」
言って、名案だと嗤った。
如何に天仙に匹敵する地仙と言えど、彼女ならばこの身体にかけられた術などの類は看破出来る筈だ。
どうせあの女には自分達の使命などとうの昔に知られている。その上、退屈しないと言う理由でそんな存在を喜々と受け入れたのだ。
今更こそこそ隠したって意味が無い。
「……ん、そうしよう」
泉沈は頷くと、その身体を片手で持ち上げて星河と共に歩き出した。
女は城を目指す。金髪の青年と小さな少女を後ろに従えて、人々の悲鳴に酔いしれながら。
しかし、泉沈はそこで首を傾げるのだ、
「――――あれ? 犀煉がいない……?」
周囲を探ってみても、彼の気は少しも感じられない。
犀煉は何処に行ったのだろうか。
情報収集に出ていると言っても、呂布の動きには敏感である筈なのに。
幽谷を隠した後、呂布のもとに戻っていたとばかり思っていたのだけれどそうではなかったらしい。
彼女に直接訊いてみるか。
泉沈は、眉根を寄せて彼女を鷹揚に追いかけた。
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