血迷った(平和バージョン)
2013/08/28 21:49
適当に歩けば、偶然にも目的地に到着した。
その大きく、長い年月を感じさせる建物は学校――――ザルディーネの王立学院やヒノモトの寺子屋のような物らしい。
人目を憚(はばか)りつつ校舎の中に侵入した有間は、数字の書かれたプレートを見上げながら、一つ一つ教室を確認していった。
「やっぱ、一階は完二達のクラスしか無いのかー……んじゃ、二階かな。二年生だし」
腕から下げた弁当を揺らし、有間は階段を二段飛びに上った。
廊下に立って左、右、と首を回す。
「確か、雪子のクラスは二組、だったかなぁ……と、あれか」
歩き出そうとすると、丁度けたたましいチャイムが鳴らされた。授業が終わったらしい。
二組の教室の扉に駆け寄り、開かれるのを待つ。
と、もう一つの扉から片手に人形をはめた男性――――しかも、人形とこの男性、とてもそっくりだ――――がのんびりと奥の昇降口へと歩いていった。
次いで、双方の扉から見知った制服を来た生徒達がぞろぞろと出てきた。皆一様に有間に気付いてぎょっとし、不躾に眺めていく。
……ウザいな。
好奇心まみれのその眼差しに嫌悪を抱いたが、表には決して出さずに教室の中に入った。
目当ての女子生徒はすぐに見つけられた。
人を避けながら彼女に歩み寄った。
「雪子」
「え? ――――きゃっ」
「あれ、有間ちゃんじゃん」
有間に驚いた長い黒髪に赤いカーディガンを着た淑やかな女子生徒と、短い茶色の髪に緑の上着を着た女子生徒。
前者が有間の探し人、天城雪子。後者が彼女の古い友人である里中千枝。
「どうしたの、学校まで来ちゃって。目立っちゃわなかった?」
「ん、現在進行形で目立っちゃってる。女将さんからこれ。雪子さんの忘れ物」
「あっ、お弁当! 私、忘れてたんだ……」
「……気付かんかったんかい」
千枝が、呆れたように雪子を横目に見る。
「ありがとう、有間ちゃん。有間ちゃんが来てくれなかったら、お弁当が無駄になってたね」
「いいえー」
「あれ、有間じゃん」
帰ろうかと思えば雪子のクラスメート、花村陽介が会話に混じった。その後ろには鳴上悠が。
ひらりと片手を振ると、花村にぽふぽふと頭を叩くように撫でられた。
「一人でここまで来たの、初めてじゃね?」
「雪子が弁当忘れて届けに来た。目的は終わったからもう帰るよ。これ以上目立つのも面倒臭いしさ」
「じゃあ」と歩き出せば、教室を出たところで鳴上が横に並んだ。
「ん、何?」
「菜々子が、有間のいた国のことを聞きたがってる。また時間がある時に遊んでやってくれ」
「あー……別に良いけど」
菜々子とは、鳴上の従妹に当たる少女だ。町で犬に襲われていたのを助けて、泣き止ます為にちょっとした占いをしてみせたところ、懐かれてしまった。
おまけに鳴上が、彼に以前ちらっと話したカトライアのことを話してしまったようで、会う度にせがまれる。
満更でもないので話しはすれど、菜々子と話した後は決まってカトライアが――――ティアナが恋しくなる。
それが少々辛いので、あまり、頻繁には話したくはない。
が、菜々子の期待は裏切れない。
無表情の下で悩んでいると、鳴上が有間を呼んだ。
我に返ったその刹那。
眼前に所々が錆びた鉄の壁が迫っていた。
「ぶふっ」
止まれずにぶつかってしまう。
「大丈夫か?」
「……何で教えてくれなかったのかな」
「何度か呼んだ」
「…………マジか」
顔を押さえて一歩後退した有間は、鳴上をきっと睨め上げた。
鳴上は、弛く瞬きし、苦笑を浮かべた。
○●○
前回の平和一番バージョン。
夢主の制服姿を思い浮かべつつ……雪子達にスカートを無理矢理着せられて逃げ出すところを想像しつつ。
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