血迷ったorz
2013/08/28 21:48





 ここが一体何処なのか。
 空気も建物も何もかもが奇異な世界のさなか、幽谷は匕首を片手に油断無く周囲を見渡していた。

 不快な空間だ。
 この世界に足を踏み入れてから臓物が重たく感じ、眩暈も何度も起こした。

 あの、曹操の城に突如として現れた亀裂に触れたのが間違いだった。
 見慣れない長方形の建物に、見慣れない文字の長い旗……こちらの家屋に似たようなそれもあるが、僅かに似ているだけで見たことは無い。
 生き物がいるような気配も、今のところ微妙だ。所々で何かが蠢いているのは確かだ。だが、生き物とはまた違う気配で気味が悪い。

 不可解極まる世界だけれども、あまり長居して良い場所ではないことだけは確かだ。


「……早く関羽様のもとに戻らなければ――――」


 刹那である。

 背後で邪気に良く似た気配が膨れ上がった。
 さして驚くことも無く、幽谷は匕首を片手に身体を反転させた。

 幽谷の背後には複数の球体が浮いていた。
 黒と白の縞模様に全体を占める大きな口からは気味の悪い舌が飛び出している。

 嫌悪に唇が曲がってしまう。
 幽谷は腰を低くし、駆け出した。彼らに攻撃される前にと、先制攻撃をしかけた。

 目の前に浮遊する一体を左に蹴飛ばし、右手から襲いかかった一体の口の上に匕首を突き刺す。黒い血が吹き出したのに、直ぐ様距離を取った。毒が含まれているかも分からない不気味な血だ。嫌悪に顔を歪めた。

 至近距離で斬りつけるのは止めた方が良いのやもしれぬ。
 幽谷は匕首を外套の下に戻すと飛ヒョウに持ち換えた。左手の腕輪に内蔵した毒を、適当な種類を塗りつけた。

 こちらに突進してきた一体の口の中に投擲(とうてき)した。
 呑み込む。あれに食道が存在するのかどうか怪しいが、確かに口を閉じてごくりと嚥下した。

 それから間を置かずして地面に落ちる。何度か跳ねて転がった。

 他も同じように、毒を付けた飛ヒョウで傷付ければ、同様に苦悶し、地面に転がる。


「……毒は、効くのね」


 ならば方術は?
 この奇異な世界では方術は扱えるのか。

 確かめようと、札を取り出した彼女は残りの球体に投げつけようとした刹那。


「イザナギ!」


 低めの声と共に雷撃が目の前を走り抜けた。
 驚いて数歩後退すると、前に少年が立った。灰色の髪を丸く整えた、見慣れぬ装いの、恐らくは関羽や張飛と同じ歳程の少年だ。

 敵かと身構えると、「大丈夫ですか!」と緑の上着に丈の短い下の服をまとう少女が隣に立った。
 その後から、癖っ毛の少年も駆けつけてくる。

 少女は幽谷の姿を深刻そうな顔で眺め、前に立った少年へ声を張り上げた。


「鳴上君! 怪我は無いみたい!」

「分かった。……イザナギ!!」


 少年が片手を薙いだ瞬間である。
 背後から巨大な人型が現れ、巨大な剣で全ての球体を一刀両断した。
 その人型に、不可思議な力を感じ、幽谷は目を細めた。

 彼らは敵なのだろうか、味方なのだろうか――――。
 確かめるように、三人の様子を窺った。



●○●

 以前書いたペルソナ4ネタです。
 この後クマが出てきて敵と判断して攻撃したり何たりして互いに猜疑を抱いたまま別れることに。

 この後に巽完二のダンジョンで再会します。ペルソナ4を知ってる方は分かるかと思いますが、あのある意味危険な大浴場です。

 ちなみに幽谷はペルソナやアルカナは無いです。幽谷自身、抑圧した意識が妙幻という扱いなので。仮にも応龍妙幻がシャドウになる筈もない、といった感じです。



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