お題でif『内緒で〜』続き
2012/09/17 13:35
関羽は修羅を燃やした。
激しい厭悪が胸の中をのたうち回るように暴れ、強い不快感を催す。
それに加え、噎せ返るような血臭に吐き気が誘発される。
関羽は憎悪凄まじい瞳で目の前に佇む女を睨め上げた。
「あなた……っ! どうしてこんなことを!?」
その女は、かつて、関羽が今抱き抱えている男の部下だった。名前は知らないが、軍の中では特に秀でた武人であったと彼が自慢げに語っていたのを覚えている。
それが、何故。
曹操の軍に加わり、このような地獄を作り上げたのか。
女と関羽以外に、この城に生存者はいないのではないか。
そう思わせる程に全ての部屋、回廊が赤に染め上げられた。
関羽の愛おしい夫すら、この女に無惨に殺された。
憎い。
憎い。
憎い!
関羽は激情のままに偃月刀を手にした。裂帛(れっぱく)の気合いを以て女に突進する。
女の、赤と青の双眸が関羽を捉えた。
女は手首を捻り匕首で軽々と偃月刀を弾いた。
「く……っ」
「猫族の村にいた頃は、あなたはここまで弱くはありませんでした」
「え?」
「以前のあなたの瞳は強く、山を流れる川の水のように澄んでおりましたのに、今は澱み、何も見えなくなってしまった」
何を、言っているの。
怪訝に女を見やると、女は口角を弛めた。
泣きそうなその笑顔に、既視感。
「趙雲殿や世平様は勿論、張飛様や劉備様が悲しまれますよ」
趙雲。
世平。
張飛。
劉備。
――――誰?
「あな、たは……っ」
「私が憎いですか? あなたの全てを壊し尽くした私が」
微笑みながら女は問うた。
関羽は困惑しつつ、小さく頷く。
「なれば、私を殺しなさい。私を追いかけて、敵を討つことを糧に生きなさい」
そう告げて、女は関羽のうなじに手刀を落とした。
直後、脳が震動し、意識が急激に混濁する。
駄目。
この人を討たなければいけないのに。
袁紹様の、仇を……。
……暗転。
‡‡‡
○○はかつての主を優しくその場に寝かせると、そのままきびすを返した。
すると、彼女を呼び止める者が在る。この城の中で、生存者は関羽だけではなかったようだ。
「○○」
「……顔良殿」
○○は向き直って一礼する。
「何故私を生かしたのです」
顔良は無表情に問いかけた。彼の声音は堅く、まるで何かを表に出すまいと堪えているかのようだ。
○○は目を細め、彼に背を向けた。
「……あなたには、世話になりました。それに―――― 」
沈黙の後に答えた彼女は足を踏み出し、その部屋を後にした。
その背中を見つめながら、顔良は自らの得物をゆっくりと持ち上げる。
しかし、彼女に斬りかかりはしなかった。
細く吐息を漏らした彼は悲しげに微笑む。
「……あなたは、やはり卑怯な方ですね」
あなたを憎みたくとも憎めないではありませんか。
掠れた呟きを漏らし、顔良は関羽の側に膝をついた。背中と膝裏に手を差し込んで抱き上げる。
「袁紹様、文醜。弔うのは、もう少し待っていて下さい。曹操軍が去ってから、丁重に弔わせていただきます」
主の亡骸に頭を下げ、彼は静かに退出する。
『あなたの身体から流れる血を、見たくはありませんでした故』 彼の頭から、○○の言葉は暫く離れずに中で反響し続けた。
○●○
この後袁紹達を弔った顔良と関羽は夢主を捜す為旅に出ます。関羽は夢主を殺す為、顔良はただ単純に彼女に会いたい為です。
関羽は夢主のことを完全に忘れてしまい、また袁紹によって怯えるようになります。
夢主はそれが耐えきれなくなってしまったんですね。袁紹軍を抜けた後、各地を放浪し曹操軍に落ち着きました。
それからは関羽を袁紹から離した方が良いのではないかと思い、曹操軍の将として袁紹軍との戦に望んだのです。
袁紹無しでは生きられない程に依存しきってしまった関羽を生かす為どうすべきか考えた結果、自分を憎ませることにしたのでした。
夢主に愛着があるだけに、夢主の心中まで書けませんでした。私の精神が持たなかったです。
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