「・・・あ、戻って来たみたい」 「ホントだ。・・・あれ?」 荷物を部屋に運んでロビーに戻って来た二人は、何処かおかしかった。 トリコくんが残念そうと言うか、納得がいかないと言うか、とにかく複雑な表情を浮かべていた。 ココさんはと言うと、それを見てしきりに不思議がっている。 「ココさん?トリコくんどうしたの?」 「それが、聞いても答えないんだよね」 「変なの」 一体何だろう。と思ってトリコくんを見ると・・・トリコくんは、アタシとココさんを交互に見て、ニヤリ。と笑った。そして何やら納得したようにうんうん、と頷いた。燈子に聞かれてもニヤニヤしたまま、理由は一向に話さない。 「?」 「分からないでしょ?」 「うん・・・」 「まーいーじゃねーか!ほら、遊び行くぞ!」 旬の話題を攫うだけあって、テーマパークの混雑ぶりはもの凄かった。 アトラクションだけでなく、園内には色々な工夫がなされていた。点々と置かれているベンチや花壇、移動中の道の隅っこから何気無い標識にまで、クスリと笑ってしまうような仕掛けが有ったりして。途中で買ったソフトクリームのカップの形とか、ごみ箱や自販機にも楽しさが凝縮されていて、アタシと燈子はきゃあきゃあと興奮しながら園内を巡った。 ココさんのはしゃぎっぷりもなかなかのもので、あれは何これは何と、あちこちで屈んだり手を出したりしていた。大きな体を伸ばしたり縮ませたりしているココさんを前にして、いつも真っ先にハメを外すトリコくんの方が苦笑していた。ココさんはアタシが見落とした仕掛けにも気が付いて、その度に嬉々として教えてくれた。そんなココさんの笑顔に最初は戸惑ったけど、いつの間にか一緒になってしゃがみこんだりして。燈子と3人でマンホールを囲んでいたら『幼稚園児か!』とトリコくんにツッコまれた。 そんなこんなで遊び疲れたアタシたちは、すっかり夜になってから両手にお土産袋を下げてホテルに戻って来た。 「明日は今日行けなかったコースで宝探しね!」 「ココさんには負けないからね」 「ボクは2連覇目指すよ」 「そのためには今日はしっかり休まないとね」 燈子が小さく欠伸をした。アタシも。眠いかも。 「明日ちゃんと起きられるか心配だな」 「じゃあ、ナマエちゃんの携帯にモーニングコールするよ」 なんて話をしながらカードキーをフロントで受け取って、エレベーターに乗り込んだアタシたち。 ふと、トリコくんがココさんを見て、プッと噴き出した。 「何だよトリコ」 「べっつに」 「変なヤツ」 「言っとくけど、オレは何もしてないからな?」 「は?」 「ココの言う事に従っただけだからな?」 エレベーター内の鏡に映ったトリコくんは、口を押さえて笑いをこらえていた。・・・何で? ・・・その疑問は、部屋の前で一気に解決した。 「トリコ、カード」 「さんきゅ」 エレベーターから降りた時、ココさんがトリコくんにカードキーを渡した。 笑いを堪えているトリコくんに何なんだ一体、と小さく呟いて、ココさんは先に進み出した。 「ね、部屋番号いくつ?」 案内板を見た燈子が、先頭を進むココさんに聞いた。 「1029と30番だよ。一番奥の、廊下を挟んで向かい合わせ、で、」 ココさんが突然立ち止まった。 ココさんのすぐ後ろにいたアタシは、背中にドン、とぶつかってしまった。ゴメンねと言おうとして覗いたココさんの顔が・・・みるみる真っ赤になった。 と、次の瞬間もの凄い勢いでトリコくんに詰め寄った。 「トリコ!お前・・・!!」 「はははははは!オレは何もしてねぇじゃねーか!!」 「分かってたんだったら言えよ!!」 「良いのか?ってちゃんと聞いただろ!!」 「だからって・・・・・・!!」 本気で拳を握りかけたココさんを3人で宥めた後、その理由を知ったアタシは・・・ ・・・ココさんと同じように真っ赤になってしまったの。 ◇◇◇◇◇ 『トリコ、このカードで開けて』 『おぅ』 『入り口に置いてすぐ戻ろう』 『・・・ココ?』 『何?』 『良いのか?』 『何が?』 『何がって、そっちの部屋で良いのかって』 『え?こっちが良いの?』 『そうじゃなくてよ?』 『30の方が覚えやすいだろ?』 『だからそうじゃなくて・・・・・・まぁ良いか』 『・・・変なヤツ』 ◇◇◇◇◇ ココさんは、自分のカードで開けた部屋からアタシの荷物を取り出すと、トリコくんの手からカードを奪い取って・・・ ・・・1030番に置いてあったトリコくんの荷物をひったくるように抱えて、自分の部屋に投げ入れたの。 ← あとがき→ |