メロウ・1





祈れば叶うなら。
言って全てが伝わるなら。
端からそうするさ。

泣いてどうにかなるなら。
それで前に進めるなら。
泣きゃ良いんだよ。

願いを捨てたつもりは無い。
信じているのかと疑るのは神の方だ。
伝えたい事が無い訳じゃねぇ。
伝える前に、聞く耳の無い馬鹿しかいない。
涙など持っていないと決め付けたヤツは誰だ。
ただ。無駄な事をしないだけだ。
もっともその無駄が必要になる時があるとしたら。それは世界の終わりかもしれねぇな。

それでも。
どんなに大きな器にも、受け止められる最後の一滴が必ず存在するように。
その、次の一しずく。
心に収まりきらなかったほんの少し。
両手が掬い損ねたほんの少し。
その少しが零れる時も、たまには有るけどよ。





メロウ





「見ーつけた」


ゼブラはギョッとして周囲を見回した。
誰もいない。
一人腰を落とすこの荒れ野に、生き物の気配は一切無い。
・・・はずが。

「見ーちゃった」

「っ!?てめぇ!!・・・!」
瞬きの刹那、目の前に突如現れた声の主を認識したゼブラは、慌ててその相手から顔を逸らす。
・・・が。
「テメェ・・・いつやった」
顔を覆うはずの手と立ち上がろうとした足がピクリともしない事にギリと歯軋りをし、ゼブラのこめかみがぴくりと揺れた。
「気付くの遅いなー。と言うよりもレベルが高いって事かなぁ?」
消命ノッキング!!と自身の指をピストルに見立てたその人物は、ニッコリと微笑むと静かに歩み寄り、男の隣に座った。


「しかし久しぶりだな〜元気にしてたか?」
「・・・・・・」
「あれ、ハニープリズンに行かなかった事、怒ってる?」
「別に」
「所長のラブさんとラブラブさんなんだって?」
「殺すぞ」
「お。こわー」
ピシピシと空間を破壊せんばかりの殺気に微塵も動じず。逆に屈託の無い笑顔でその人物は、ゼブラの顔に鼻を寄せる。
「何だよ」
「んー・・・不思議な匂いがするぞ」
「・・・勝手に触んなよ」
「そして昔懐かしい匂いでもあるなぁ。」
「・・・・・・」
「コラ。何とか言えって」
「・・・・・・」
「もー。駄々っ子ちゃんは」
「・・・・・・」
「ん?泣き虫くんだったっけか?」
「調子乗んな!」
射殺さんばかりの眼力で相手を睨み返したゼブラだったが・・・
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
ゼブラがこのにらめっこに勝てない事。それは最初から、もといとうの昔から分かっていた。
ハァ〜・・・と肺から全ての酸素を吐き出して、それでも素直になれない心が、ぼそりと悪態をついた。
「テメェには関係ねぇ」
「そんな涙が散らかった顔で言われても、拙者は引き下がらぬよ」
「拙者?!」
「最近ニンジャがマイブームでござる」
「・・・・・・」
「見たいか?拙者の忍法。目ん玉飛び出るぞ!・・・でござる」
「・・・・・・」
ハァ〜・・・と再び大きく息を吐き出したゼブラは、呆れと観念の入り混じった頭を項垂れた。
「何だよノリが悪いなぁ。トリコならノって来るぞ」
「あぁ。分かってる」
「ちなみに今この場でできる忍法は」
「分かってるから、早く用件を言え」
「ちょっとはノれよ」
「チョーシ乗ってねぇでさっさと言え!」
チェ。と小さく開いた唇は一瞬の後きゅっと閉じられた。そして、再びゆっくりと開かれる。


「おめでとう。ノルマ達成」



500人の指名手配犯の確保と、100種類の新種食材の発見。
それが、ハニープリズン出所の際にゼブラが科せられた出所条件だった。
そう簡単に達成できはしないと誰もが思っていたものだったが・・・
つい先日。ゼブラはその最後の一つを叩き付け、文字通り自由になっていた。






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