タコですか?





「トリコくん、まだ言ってるの?」
「頼むからよ燈子〜。勝ったらさ?・・・な??」
「だってみんな見てる前でしょ〜?」
「良いじゃんか〜」
「・・・考えとく。まぁまだ勝つって決まってないし」
「勝つって!」


「何なの?トリコくんは」
「もーホントに子供みたい。困ったやつ」
燈子はそう言いつつも、目はトリコくんの試合から一瞬も離れない。
今日。アタシと燈子は、ココさんとトリコくんの試合の応援に来たの。
二人が小さい頃から続けている格闘技。二人ともかなりの腕前で、この歳にして早くも一目置かれる存在なんだって。
・・・ちなみにココさんの実力は、以前この目ではっきりと確認済みなアタシ。
そんなココさんは勿論のこと、トリコくんもずば抜けた強さでトントン拍子に勝ち進んで。

「ついに決勝だぜ!」
「まぁ当然かな」

二人で決勝戦となった。

「惚れ直しただろ燈子?」
「ハイハイ」
「ハイハイって・・・」
「大丈夫!トリコくんかっこ良かったから!」
「こういうトコ蒼衣は優しいよな〜」
トリコくんのぼやきに、燈子がチクリと刺す。
「次を勝ってから言わないとだよね〜。手強いよ最後の相手は」
そう言って首を傾げた先には、余裕の笑顔のココさんが。
「そうだね。まぁ勝てないだろうね」
自信満々に返したココさんに、トリコくんも負けじと不敵な笑みを浮かべた。
「『ボク』って主語が無ぇぜココさんよ?」
「あれ?トリコはいつから自分をそんな風に呼ぶようになったんだ?」
「・・・言うねぇ、ココ?」
「今更、遠慮はいらないだろ?」
一触即発?とハラハラしながら会話を聞いていたアタシ。燈子は逆に「良い緊張感!」と満足そうに言った。
と、開始までまもなくの放送が入った。
「応援しててね、蒼衣ちゃん」
「勿論!頑張ってねココさん」
決勝への闘志を内に封じたココさんの拳を、アタシはギュっと握った。
その隣では、腕をブンブンと回しているトリコくん。
「燈子!約束だかんな!」
「まだ言ってるの?!・・・分かったわよ!」
「よっしゃぁっ!」



二人の試合は、周囲のどよめきが治まることの無い、激しい攻防戦となった。
だけど、二人は親友同士。やはり性格もクセも知り尽くしているのか、これと言った有効打が無いまま時間だけが進んでいった。
残り時間もあと僅か。このまま延長戦?長引くとココさんは不利なんじゃないかな。ココさん、トリコくんのスタミナには勝てないって、以前こぼしていた・・・
それに・・・
アタシは、さっき燈子から聞いたトリコくんとの『約束』を思い出して赤面した。
「ああっ!今の惜しい!!」
燈子が興奮した声で叫んだ。トリコくんの最後の攻めを、ココさんは紙一重で受け流したの。決定打にならなかったところでタイムアップの笛が鳴り、勝敗は延長戦に持ち越しに。
まだまだフルパワーなトリコくんと、少し疲れが見えているココさん。僅かな休憩時間で何処まで回復できるのかな。
溜め息をついたココさんとは対照的に、トリコくんは燈子との『約束』が有るからか、まだまだ気合は十分。アタシたちの方に顔を向けると、燈子に向かってニッと笑って見せた。
ゴメンねココさん。アタシ、ココさんの事ちっとも応援できてない・・・
でも、でも・・・アタシも、ココさんに約束するから!カミサマ。カミサマ聞いて下さい!アタシも、燈子がしたのと同じように、ココさんに約束します!!
不意に、ココさんと目が合った。
・・・だからココさんを勝たせて!!





「くっそーーーーーーっ!!」



一瞬だった。
電光石火ってこういうのを言うんだ。ってスピードで、ココさんがトリコくんに一撃。そのひるんだ隙を利用して、あの大きな身体をマットに沈めた。






「優勝おめでとう、ココさん」
「ありがとう。蒼衣ちゃんの応援のおかげだよ」
「ううん!ココさんの実力だよ」
「いや、蒼衣ちゃんがいてくれなかったら勝てなかったよ」
「違うって!」
「違わないよ」
・・・なんて言葉を交わしたアタシは、辺りをキョロキョロ・・・・・
「・・・あ、じゃあカミサマが願いを聞いてくれたのかな」
『カミサマ』と聞いて、アタシは丸い目で息を呑んだ。
「どうしたの?蒼衣ちゃん?!」
「え、あの・・・」
ココさんに愛想笑いをして、目はまたすぐに辺りをキョロキョロ・・・・・・・・・誰もいない。
「あのさ、」
「うん?」
「さ、さっきトリコくん達が約束してた事なんだけど・・・」
最後の方、聞こえたかも分からないくらい小声になってしまった。
「あぁ、あれ?」
「知ってるの?」
「トリコから聞いたよ。面白いよねあの二人・・・え?」
「・・・・・・」
「もしかして蒼衣ちゃん?」
アタシは思い切って大きく顔を上げた。
「う、うん。あっ・・・アタシもね、ココさんに」
驚くくらいひっくり返った声に加えて、緊張しすぎて冷や汗まで出てきてしまったアタシ。
「ホント?嬉しいな。良い記念になるよ」
そんなアタシに、ココさんはこれでもかって笑顔をくれた。
心臓がバクバクなアタシは、目の前のココさんの笑顔に半分気が遠くなる。
無理。真正面からなんて絶対無理。どうしよう。
「トリコ羨ましがるだろうな。勿論自慢するけどね」
そう言うとココさんが突然アタシの目の前で屈んだ。
「ココさん?」
「ちょっと待って。今出すから」
足元に置いていたバッグを開けるココさん。
そんなココさんの・・・横顔・・・・・・今だ!!


カシャ、ン。・・・・・・


「あ、あ、改めて。お・・・おめでとう。ココさん」
「・・・・・・・・」
「あ、トロフィー落ちたよ、ココさん?」
「・・・・・・・・・」
「ココさん?!」
「・・・・・・・・・・・・」
「ココさ〜ん?!」







「・・・何なの?トリコくんが言ってる『約束』って」
二人を見送った後、アタシはコッソリ燈子に聞いた。
「それがさ〜、元はこないだのスポーツニュースなんだけどね」
燈子は呆れ顔でサラリと答えた。
「『女神の祝福』が欲しいんだって」
「めがみの・・・・・・え?」
こう、と持っていたペットボトルにチュっと唇をつけた燈子。
「別に良いんだけどさ、何か気障ったらしいからどうしようかなって」
アタシは、ペットボトルに釘付けになっていた。
水滴が付いた胴体に一箇所、燈子の唇の跡・・・
「・・・そうなんだ。」
あの時は、そう答えるので一杯いっぱいだった。





「トっ・・・トロフィーにだったの?!」
「そーだよ。超かっこよくてさ〜」
・・・どこかの国のアスリートが、優勝のトロフィーを片手に恋人の元に歩み寄り・・・
・・・恋人はそのトロフィーに手を添えてキスをしたって・・・
「え?何を突然?!・・・って蒼衣?!」
アタシの顔が、一瞬で火を噴いた。
だって。だって・・・・・・


「なぁココ?何か蒼衣変じゃね?・・・ってココ?」
「え?あ、うん。別に何でもないよ・・・フフっ」
「何その勝ちましたって笑顔・・・」
「だって嬉しくて!あ、そうだ。これ」
「そうだこれって・・・トロフィーだけど?」
「うん。トリコにあげるよ。」
「え?」
「て言うか貰ってくれ。、いや違う、むしろトリコの物と言って過言は無いくらいトリコに相応しい。今日のMVPはトリコだ。負けだ。ボクの負け。完敗だ。お前は最高だよトリコ。今日までお前と親友で本当に良かった」
「・・・・・・あ゛?!」
「それと燈子ちゃん?トリコとの約束もかなえてあげて?ボクからもお願いするから!ね?!」
「え?あ、・・・はい?」
「ね?!」
「は、ハイ・・・」
「フフッ♪」
「・・・何?このココ?」
「・・・私に聞かないでよ」
「・・・やべぇ!ココの鼻歌初めて聞いた!!」
「な、何て似合わな・・・いやいや!そりゃ嬉しいよね蒼衣?・・・って蒼衣?!」





女神の祝福





「あれっ、トロフィーの飾り一個無いぞ!」
「あぁ、欠けたんだ。うっかり落としちゃって」
「うっかりって・・・」
「だって不意打ちだったから」
「不意打ち?」
「うん。・・・あ、そう考えると今日のMVPは蒼衣ちゃんだ!負けだ。ボクの負け。完敗」
「ってココさんのバカー!!」
「あははははは!」
「「ええっ!?何で??」」





→あとがき




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