春の風に迷う・1




春の心地よい風が心を柔らかくする、とある休日。
ココの家の建つ切り立った崖の上。そこは今日も賑わっていた。

芝生の上で寛いでいるのは、ココほか男性2人。寝転がっているのはトリコ。少々手持ち無沙汰なのはサニー。
3人が眺めている先には、キッスと、その羽根にじゃれ合っている3人・・・ココとトリコの彼女たち、そしてサニーのお気に入りらしい女の子の姿が有った。

・・・と、不意にトリコが呟いた言葉がきっかけで、物語が展開する。




「めくれねーな」




「「・・・は?」」
「燈子のスカート。もちっとフワフワしたのだったらなーって」

ここは常に平地よりも強い風が吹き抜ける。それに加えて今日はやや強めの春の風が、幾度も崖下から上がっていた。
そんな春風にぱたぱたと揺れるのは、ココの彼女、蒼衣のロングスカートの裾のみ。
残念な事に燈子の本日の格好は、スカートではあったがデニム且つ膝丈の細身のスカート。キッカにいたってはショートパンツにハイソックスだ。

「こんな良い風なのにな〜」
「「・・・・・・」」
「あれ?何だよ二人して」
「マジありえん。下品だし」
「ホントだよね」
「何その反応?ココだってちょっとは期待してるんだろ?」
「期待してないって」
「嘘言うな。ずーーーーーっと見てるじゃねーか」
「それは蒼衣さんが可愛すぎるから目が離せないだけであって、めくれるのを期待している訳じゃない」
「おま・・・そこでいきなり惚気るか」
「惚気じゃない。事実だよ。」
「あ・・・そ。」
「サニーは、キッカがスカートじゃなくて残念だろ?」
「別に」
「何で」
「つーかアイツがスカートはいてんの見た事ねーし」
「マジで?」
「そう言われれば、彼女はいつもボーイッシュだね」
「そうだし。てか想像できねーし。クリクリのスカート」
「それはそれで切なくねぇのかよ」
「何が?」
「チャンスが皆無って事だよサニー」
「ちょ!端から期待してねーし!!」
「ホントか〜?!」
「ホントだし!」


と、強い風が通り抜け、蒼衣のロングスカートがバサリと大きく揺れた。


「あ。」
「お?」
「ほら!ほらココ!!」
「・・・」
「・・・・・・」
「期待しただろ?」
「してないって」
「いや、してたし!」
「してないってば!」
「オレ見たし」
「何を見たって?サニー?!」
「ちょ!毒出してんじゃねーし!」
「蒼衣さんの何を見たって?」
「レが見たのは、マエの目がでかくなったトコだって!」
「何だ・・・脅かすなよ」
「どっちが脅かしてんだっつーの!」
「で、ココはどうなんだ?」
「何が?」
「見えたのか?」
「もうちょっと翻らないと・・・ってトリコ!」
「ハハハハハ!」
「ココ、んな簡単に引っかかるな」
「うるさいよ」
「ところで蒼衣って何色が好きなの?」
「この変態!」
「ココ?誰も下着って言ってないし?」
「ハハハハハ!」
「マジだっさ。」
「・・・何かむかつくねお前たち」
「でもぶっちゃけ、見たいだろ?」
「ふん」


と、再び強い風が通り抜けた。
蒼衣は咄嗟にロングスカートを押さえたが、バサバサとたなびく裾は膝上から以下の素足を露わにした。


「・・・・・・」
「・・・ココ。」
「・・・ココ?」
「・・・・・・なに」
「見すぎだって」
「見すぎだし」
「・・・・・・うん」
「・・・良し!分かった!」
「え?」
「リコ?何だし?」
「面と向かって言えないだろうココさんに替わって、オレがお願いしてやるよ」
「・・・・・・何を?」
「妥当な所で風神かな!」
「だから何を?」
「風だよ風!蒼衣のスカートめくれますように〜。」
「はぁっ?!」
「出た!問題発言!!」
「ついでに燈子はしりもちつきますように〜。」
「マジでか!」
「子供か?!」
「子供じゃねーよ。チラ見えってのは男の永遠のロマンだろ!」
「・・・言ってて恥ずかしくないの?」
「つーかリコくらいアレだったら、直接『見ーせーて!』って言えるんじゃね?」
「それは違う。あくまでも偶然が良いんだ偶然が」
「本人に聞かせたいね。この男の発言」
「だな。で、燈子にぶっ飛ばされろ」
「言ったなサニー。じゃあキッカはズボンが破れますように〜」
「どんな強風なんだよ?!」
「やめろ!キショイ!!」
「遠慮するなよサニー。神様、勢いよくビリっと頼むぜ!何ならいっそのことズボンだけじゃなくてもう一枚余分に」
「つーか死ね!」
「同感!!」
「ちょ!毒やめろ!髪しまえって!!」


・・・と、今までにない程の突風が彼らの横を吹き抜けていった。










◇◇◇◇◇




数日後。


『もしもし?あぁ蒼衣ちゃん?どうしたのこんな時間に?』
「燈子さん、ちょっと相談したい事が・・・」




「トリコくん、ちょっと。」
「な、何だよ怖い顔して」
「この間の話なんだけど」
「うん?」
「ココさんちで、殿方は何を話してたのかしら?」
「え゛」



『・・・・・・蒼衣さん。蒼衣さんにプレゼントしたい物があるんだけど。・・・え、いやその、スカートなんだけどね。何て言うか、ボクと二人の時はともかく皆で集まる時にはもっと・・・いつもとは違った格好って言うのかな。つまりその、いつものロングスカートよりちょっと短めのさ?あ、違う違う!フワフワしてるのじゃなくて、どちらかと言うと隙間が無い方が良いんだ。でもそれでロングだと歩きづらいからきっと前なり横なりに切れ目・・・え、スリットって言うの?・・・そのスリットが必然的になる訳で、でもそれはそれでちょっとボク的に問題が有ると言うか・・・とにかくだから短くてピッタリでないとダメなんだ・・・あ、タイトスカートって名前なんだ?・・・そう。それ、そんな感じだよ。それこそ蒼衣さんのそのシルエット通りのさ?短いやつ。そう、短いの。腰から足のライン通りの短いやつ・・・・・・』


「・・・ってココさんに言われたって」
「マジか」
「マジです」
「(・・・もっと言い方考えろって・・・)」
「何故ココさんはそんなエロい発言を蒼衣ちゃんにするようになったのかしら?」
「いや、多分それはエロくない発言なんだと思う。・・・ココなりに」
「は?!」
「その、見えそうで見えなかった物がさ、ココ的には見たいんだろうけど見せたくないと言うか、チラ見えよりはいっそ見えてた方が覚悟もできるし・・・みたいな?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ちなみにさっきキッカちゃんからもメールが有ってね?『最近サニーが洋服売り場でスカート片手に悩んでる』って。『これどう思う?』って聞かれるそうよ?」
「・・・(悩んでないで買えって)・・・」
「『何か変な道に目覚めたっぽいのかな?』って言ってたけど?」
「へ、変な道っつーか、想像できないから実物を前に想像力を高めているんだよ・・・サニーなりに」
「え?!」
「いや、だから誰だって初めてって有る訳だし、そう言う記念すべき時の記念すべき物はやっぱ気合入れて選ばないといけないよなって・・・感じ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・でね?」
「はい?!」
「二人の意味不明な言動の発端は?トリコくん?!」
「・・・それは話すと長くなるんだが、長くなるから話したくないと言うか・・・オレなりに」
「で?」
「まぁ何つーか、ココもサニーも何だかんだ言ってあんな事やこんな事も考えてる訳で、何故だかそれが上手く噛み合っていないと言うか誤解を招くスキルが有ると言うか・・・季節が悪いと言うか自然の脅威と言うべきか」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・痛ってぇ!」







→あとがき





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