聖坡。
不思議なやつだ。


あれから1週間ほど経ち、俺は相変わらず美化係の雑用で草をむしっていた。

草むしりという単純作業では考え事をする時間が増えてしまいがちだ。
テストのことやら、そろそろ始まる球技大会の種目決め、最近出たゲームに。

それから、聖坡。

聖坡のことを思い出す回数がなぜか増えていた。
まあ、草むしりしてて初めて出会った人間が聖坡しかいないからだろう。勝手にそう思っていた。


「聖坡」
「なに?」
「えっ!?」

思わず呟いてしまった彼の名前。
それに召喚されたかのように、当の本人が目の前に立っていた。
今日は麦わら帽子をかぶっていたせいで視界がうまく開けない。

「聖坡、いたの?」
「うん、今来たところ。歌は歌わないの?」
「な、なんで俺が歌う前提なんだよ」
「なんだか前楽しそうだったから」

そう、なのか?
麦わら帽子のツバの隙間から聖坡の顔を見る。
相変わらず綺麗に整った顔と、ツルツルサラサラとした金髪が揺れていた。

「翠、俺持ってきたものがあるんだ」
「ん?」

聖坡は草むしりしている俺の背丈に合わすようにしゃがみ込むと、どこからか箱を取り出した。

「翠にあげる」

パカリ、と上箱を取ると、そこには小さな岩石のようなものが入っていた。

「これって…?」
「ほし、だよ。って言っても惑星の欠片みたいなものだけど。翠、星が欲しいって言ってたから。あげるよ」
「え?」

突然の展開に戸惑いしかない。
箱を無理矢理押し渡してくる聖坡に、俺は受け取るしかなかった。

もらったはいいものの…。
これ惑星?のカケラなのか?星って、よくわからないんだけど…。


「あ、ありがとう…」
「いいえ。これね、体温で温めると暗闇で光るんだ。今は昼間だから分かりづらいけど、寝る前にやってみて?」
「え、あ、うん」

俺は箱の中に入った星をじっと見つめる。
どこか変わったところもない、ただの石のようなものだった。




そして聖坡は石を押し付けるとそのまま、帰った。なんなんだ一体。

プレゼントだけ渡して消えてしまった彼に戸惑いつつも、結局家に持って帰ってきてしまった彼のプレゼントを垣間見る。

(本当に変わったところのない石だけど…)

俺はとりあえず言われたように、部屋中の電気を消し、カーテンを閉めて真っ暗闇にした。
あまり暗闇は好きでない。ちょっとしたトラウマではないが、暗いと不安になってしまうのだ。そのせいか、心臓が早って鼓動の音がバクバクと大きく聞こえる。

なんとか手の感覚で箱から「星」を取り出し、両手で包み込んでその石の感触を確かめてみる。
少し凸凹として、ひんやりしていた。
しかし冷たかった石は徐々に熱を持ち始めた。だんだんとあったかくなってきた感覚に、ゆっくりと手のひらのものを開けていくと、赤色の暖かい色味を持って『星』が瞬き出した。


うそ…いや、ほんとだ。

星が、星が輝いている。
暖かくて、激しくはなくて、でも少しばかり眩しくて、心地が良い。
綺麗な、綺麗な、光だった。
思わず光に見惚れてしまう。

星は次第に温度が冷えていくと、星の光は弱まり、暗闇へと沈んでいく。

真っ暗中ではいつも呼吸が切迫詰まっていた感覚が、なぜか今は安定して、それに反するように鼓動は高まっていた。




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