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@ゆりちゃん視点


「裕里、今から帰るのか?」
「あ、ヒコたん」

ヒコたんと俺の関係はあれから良好…というべきなのかわからないが、ごく一般的な友達の関係になっていた。

俺は形式上告白された身だったが、舞い上がらず、また幸との約束のために、ヒコたんとは友達という関係で割り切っていた。

だから、当たり障りない世間話から授業中のペアワーク、休憩時間や放課後時間もこうやって話したり、絡むことは自然と増え、不適切な関係になることなんてなかった。俺がヒコたんに依存するわけでもないし、ヒコたんが俺の行動にとやかく言うわけでもない。互いを尊重した友達関係だった。そう、これが本来は当たり前な関係だったのかもしれない。


「裕里、せっかくだから久しぶりに俺の家に来ないか?裕里がやりたいって言ってたゲーム、まだやったことないだろ?」
「あ、あれ?そうだったけー…あはは」

一つ不可解な点があるなら、最近、ヒコたんから遊びや家へ誘われる頻度が増えた。

(でも多分それ、誰かと勘違いしてるよ、ヒコたん…)

ただ、ヒコたんのこういう抜けてるところは変わってはいなかった。相変わらず勘違いさせるようなことを言ってきては俺の気持ちを掻き乱そうとしてくる。だからか、ただの気のせいなんじゃないかと思うときもある。

「でも、今日課題多くて、遊んでたら間に合わなさそうだから遠慮しとくね」
「そうか!裕里も最近、勉強熱心だな!そしたらまた今度やろう!」
「うん、ごめんね」

適当な言い訳をつけて断った俺。課題なんて俺が真面目にするはずがない。それでも嘘をつかなければ、ヒコたんに引き摺り込まれる。嘘をつく罪悪感に顔を伏せると、ヒコたんは断ったことの申し訳無さから落ち込んだと勘違いして、「全然構わないぞ、また誘うな」と頭を撫でてくる。ヒコたんの感触にゾワリと歓喜の波に襲われて体温が上がるが、しかしそれはだめだ、とグッと堪え、へへへと笑い返した。
それは下手な愛想笑いだったろう。しかし、それにヒコたんは何もいうことはなく、なんならさらに甘く微笑み返され、俺の胸はキューッと瞬時に勢いよく締め付けられた。

やばい。亡霊に取り憑かれてはダメなのに、未だに俺の身体はヒコたんにドキドキするし、昔よりもより甘い雰囲気に熱を上げてしまっている。

最近なんて、『ヒコたんは本当に俺のこと好きなんじゃない?』、そう勘違いしそうになるのを必死に堪える日々だ。俺の勘違いは当てになった覚えはない。だからあの告白も信じきってはだめだ。

しかし、それでも、またヒコたんのことで俺の頭の中はいっぱいになりつつあるのは真実で。近づこうとしても離れようとしてもヒコたんのことばかり考えさせられている自分に、とても歯痒かった。

「そうだ、せっかくだから帰り道だけでも一緒に帰らないか?」
「あ、うーん…家には帰らないっていうかー…」
「ん?どうした?何かあるのか?」

ヒコたんと一緒に帰れるのは嬉しい。だが、幸の家に入るのを見られるのはまずい。
そう思って、濁した言い方をしてしまったことで、ヒコたんが不思議そうに聞き返してくる。
ここで、カフェに行くだの、買い物があるだの、何か誤魔化せれば良かったのに、俺の脳みそはヒコたんに嘘をつくことなんてありえないという考えが染み付いていて馬鹿正直に答えてしまう。

「あー…うん、今ちょっと友達の家に泊まらせてもらってるから…」
「ああ、そうなのか?駿喜か?」
「あ、いや、ちがうけど…」
「へー…?」

そこで不自然な沈黙になってしまう。これ以上もう聞かないでほしいと思うが、ヒコたんは黙ってこちらの回答を待っている。

どうしたんだろう、空気が悪くなったらいままでは引いてくれたのに…。

ヒコたんの顔を見たらまた馬鹿正直に答えてしまいそうで、ヒコたんの顔を見ないように目を逸らし視線を下に送る。だからこそ、ギラギラとした眼差しでヒコたんがこちらを見ていたとは俺は知るわけもない。
結局、数十秒ぐらいだったろうか、しばらく沈黙が続いたあとに一言、ヒコたんが「そうか」と呟いたのだけが聞こえた。

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