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体にずっしりと重みを感じた。
お腹の上で深く深く押し込まれる。
「なに…?」
掠れた自分の声がよく聞こえた。

「おはよう、光」
ぴとりと頬に暖かく濡れたものが這う。
違和感で目を開けば、甲賀の顔が間近にあった。驚いて体を後ろに引こうとするが手首や足首が重い力で引っ張られて頭だけが後ろに引いた状態になった。
(何これ…)
状況を把握しようとキョロキョロと頭を動かすが、首も同じように鈍い力で引っ張られ、ひやりとした金属の感触が首にぴったりとまとわりついた。


「よそ見しちゃダメでしょ?」
ニヤリといやらしく甲賀は笑った。
呆然とその顔を見てると、思いっきり首についた鎖で甲賀の方へ引き寄せられる。先ほどの比ではない力に首に激痛が走った。
「……っいたぁい!!」
「あ、ごめん。力の加減わからなくて…もうちょっと我慢して?俺もこれの扱い方わかってくると思うから」
ジャラジャラと鎖を手で遊ばせながら、甲賀はそう言い放った。
「鎖……?」
状況がやっと飲み込めた光はヒッと息を切った声を上げる。体を震わして無意識にそこから逃げようとするが、同様に手首も足首にも枷が嵌められてガチャガチャと音を鳴らしたままベッドの上から動けない。


腕を動かす余分もない長さの鎖によって大の字で寝かされた光。その上に乗っている甲賀はそのまま光の顎を器用に掴み、頬に優しくキスを落とした。あまりにも甘ったらしい行為だがそんなことをしてもこの状況下の光にはなんの気持ちも浮上しない。


光は精一杯の声で言う。
「や…やめて」
「なにが?」
もう一度右頬にキスを落とした甲賀が問うた。

Ωが逃げないよう自由を奪ったαのレイプ犯罪。そんな見出し山ほど見てきたから今この状況がどう言うことなのか嫌でもわかってしまう。
要は甲賀に騙された光はまんまと鎖に繋がれ逃げ道を絶たれてしまったのだ。
せめてまだ衣服が脱がされていないのが救いだった。


怯えを隠せない目で睨めば、甲賀はクスクスと笑った。
「なんでそんな怖い顔してるの?あ、もしかして睡眠薬飲ませたから?それは光が素直に俺の言うこと聞いてくれないからだよ。え?なに?それとも鎖をつけたこと?光さ、絶対恥ずかしくなって逃げちゃうもん。一応上質なやつだから暴れなければ傷はあまりつかないと思うよ。しかも、α御用達のΩ専用愛玩ショップで流通してるやつなんだ!皆やってることなんだよ。
………光、まだ怒ってるの?」
不可解だと甲賀は首を傾げた。
甲賀はなに一つ光が怒っている意味がわかっていなかった。そして、この鎖に繋げ続けられる限りαはΩのことを理解し得ない。



光は沈黙し、甲賀から目を背けた。もう限界だった。Ωとして扱われるのも、性的な対象として見られるのも、卑下な人間だと知らしめさられるのも。

甲賀は光の心を閉ざしたその様子が気に障ったのか、首の鎖を強く引っ張った。光の骨がギリリと軋む音がした。無理矢理持ち上げられた光の顔は痛みで一気に汗が吹き出る。
甲賀はそんなのどうでもいいように怒りをぶつけ始めた。

「光、なんでここまできて俺を拒むの?いつもそうだ。目すら合わしてくれないよね」
光はひやりと嫌な汗が垂れた。
動揺したのがバレたのかわからないが首の鎖は持ったまま甲賀は光の顔をもう片方の手で掴み逃さないよう冷たい声で言う。
「どうして見てくれないの。優しくしても冷たくしてもダメ。俺がこんなにやって、こんなに尽くしてあげてるのに何一つ満足しない。光は何が欲しいわけ?」

(…何も欲しいものなんて)
初めから甲賀との接点を持つことは光は全く望んでいなかった。番なんか作らずさっさと自殺し人に認知されないまま死んでいきたかった。
醜い自分を見られるのが知られていくのがとても恐怖だった。汚い汚いと周りが汚物を見る目でこちらを睨む。お前に生きてる価値はないんだと罵られる。誰からも俺は醜い穢らわしいΩだったと証明された。それでも俺は抗いたかった。彼らの瞳に映り込まなければその偏った像にはならないんじゃないかと思って。
αを受け入れてしまえば、その意味は真実と化し、俺をただのいやらしい獣へと陥れてしまう。だから、俺はもう目を合わせない、受け入れて欲しくない。誰にもその瞳で俺をうつしだしてほしくない。




ぐいっと顔を近くまで持ってこまれる。抵抗もできなかった光は甲賀の顔を間近に受けてしまった。
初めてタイガーアイの瞳を見た。キラキラと反射し濃茶と相対するように光る金が混ざり合って美しかった。それと同時に怯えきった自分の顔が瞳の中に映り込み、光は急に胃液が湧き上がる感覚を覚えた。

見られた、汚い自分を、この世で価値のない自分を。

うぐっと嗚咽が漏れて、上がってきた胃液が口いっぱいに染み渡る。
生憎甲賀に捕まえられてて下を向くことはできず口の中にいっぱいになった胃液は口端からこぼれた。口は半開きになり、カタカタと光は震えはじめる。
急におかしくなった光の様子に甲賀は驚きで呆然としたが、光を掴んだ手に垂れてきた胃液に気づいて、なにを思ったのか突然ペロリと自身の舌でそれを舐めた。


「甘い…」
低い痺れた声が部屋に響いた。

吸い寄せられるように甲賀は光の口を舌で包み込んだ。胃液と嗚咽の口の中を目一杯弄られる。
光は何も見えない真っ暗な視界で、口へのぬめった感触をただ一言、気持ち悪いと思った。



どれくらいの間だったろうか。口はもう十分になったのか、唇を離した甲賀が光の耳元で顔を伏せると、肩を揺らしだし、ふふふ…と堪え切れないように笑い始めた。光は胸や腹の中で駆け回る不快感とぬれた口の違和感に思考を止めていたが、おかしいと笑い転げ始めた甲賀に不気味さを覚える。




甲賀は笑い済んだのか、もう一度こちらに顔を向けた。

「はぁ…やっぱり光、キミだ」
美しい顔が熱を孕んで光悦な表情を魅せる。甲賀はそのまま艶しく自身の上唇を舌でなぞりあげた。


ダンッと甲賀は光を再度上から抑えつけた。鎖の存在なんか忘れたように手をきつく握りしめる。
光は手の肌からくる痛さに顔をしかめるが、それと同時にやってきたあつい熱と甘美な感覚に身体が震え、ジワリと後部が緊張した。



「やめて…!!」

光は今日1番の大声を出した。
それに反して甲賀のフェロモンは熱をさらに増した。どんどん増満していく彼の匂いに身体が痺れをあげ始め、光は動かない手足をばたつかせて懸命に抵抗する。

犯される、おかされる、おかされる。
光は顔を真っ青にしながら、「助けてお願い、お願い」と甲賀に許しを請うた。涙は年柄にもなくボロボロとこぼれ、ジャラジャラと鎖がぶつかり合って音を立てる。
甲賀はそのあわてふためく光の様子が面白いと笑ったが、光の要求なんか耳を傾ける様子はない。自分の欲望のままシャツの隙間から光の肌へ直に触れた。
ジワリとした熱が肌に快感を響き渡らせると、光はついに絶望へと突き落とされてしまった。
甘く触れられた他人の体温の気持ち良さと反対に誰にでも気持ちなれる自分の淫乱さに怒りを超えて吐き気をもよおす。
身体は押し流されるまま甲賀を次第に受け入れ始め、心はひたすら彼を拒ばんでいるのに無力だった。





「光…ひかり、こっち見て」
光の体を舐め回しまさぐる甲賀がうわ言のように呟く。
光はもう言うことの聞かなくてしまった自分の体に希望を見出せず、ついに心ごとあけ離した。こんな体いらない。こんな自分いらない。こうなってしまうならもう…。

人形の光の顔が甲賀を見上げた。
甲賀は大人しく従う光の様子にうっそりと微笑んで、薄い唇をこじ開け、また深い口付けを施した。
甘い…甘い…光の全部が甘い。
甲賀は全て飲み干すように光の唾液を舐めとっていく。甲賀は思った通りだと身体をますます熱くさせた。
初めて見た時から、初めてあの匂いを嗅いだ時から、こうなるとわかっていた。
自分をこんなに貶めたのはこのΩだ。

甲賀は裸にした光の後部へ優しく触れる。手で触れた光の膣は甘い液が溢れ、甲賀の全てをドロドロに飲み込もうとしている。甲賀ははぁ…と甘く息をつき、濡れそぼった光の膣の入り口へ甲賀のものをすり寄せた。触れたただけで光の愛液が自身を覆う感覚に甲賀はクラクラとする。
早く挿れて、その子宮で甲賀の性を飲み込んで欲しい。
全部、全部俺を受け入れて。
汚くて淫らにΩに発情してしまうこのαの自分を、君の瞳に映しこんで。

「君にいっぱい俺を……」
その言葉に光は藍色の目をギュッと瞑った。

どろりと感情が一雫になって溢れる。
しかし、甲賀はもったいないと涙を舐め潰した。



甲賀は光の中へゆっくりと自身を沈み込めていく。狭くて暖かい中は甲賀を受け入れてぴったりと覆った。




「光、目を開けてこっちを向いて」

まどろんだ藍には、αが美しく微笑んで映っていた。




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