足の怪我4
放課後になると、あの三人に絡まれないように急いで学校から出た。そのままバスに揺られて真悠のいる病院へ訪れる。

ガラリと病室のドアを開けた。

「あ、充希。こんにちは」

部屋の中は誰もいなかった。本当に自分だけしかこの病室に入れてもらえてないのだと、充希は思ってしまった。

「真悠、これ」
「これなに?開けてもいいの?」

真悠の元へ行き、今日竹下達から預かった封筒を渡す。白い封筒を受け取った真悠は不思議そうにこちらを見たが、俺は何も言わず、黙ってうなずいた。


「…真悠、陸上部の先輩面会拒否してるって本当?」

真悠の封筒を開ける手が止まった。
真悠がこちらを見上げる。

「これ先輩達からもらったの?」
「うん」
「ごめん、次からはもらわなくていいよ」

真悠はそう言って開きかけた封筒をテーブルの脇に置いた。中からは『予選大会リレー順番表』という文字が見えている。
そのまま封筒をゴミ箱へ入れようとする真悠を慌てて止めた。

「あ、待って。なんで先輩たちと会わないの?クラスメイトとか先生とも会ってないって…」
「そんなことまで教えられたの?すごいお節介だね」
「ま、真悠…」

真悠は昔のように穏やかそうな笑顔を見せてるが、言い方は突き放したような感じでとても冷たい。真悠の機嫌が少しだけ悪くなった。充希はそれに口すぼみながら話す。

「あの、真悠、その…先輩達は真悠に大会に出てほしいみたいだよ…。せめて話だけでも…」
「ううん、俺には必要ないよ。俺さ、陸上部辞めようと思って」
「え…?」


「その、なんで…?」

真悠の唐突な言葉に理解が追いつかない。
どうして。こんなに皆から信頼と希望を置かれていて辞めたいと言うなんて。リレーの候補まで入れられて、俺なんて3年やっても無理だったのに…。


動揺している充希に対し、真悠は何とでもないような様子をしている。

「俺が陸上やってると、充希といる時間減っちゃうだろ?この生活しててすごく思ったよ。俺今までこんなに時間無駄にしてたんだなぁって。だから、辞めてもいいかなと思って」
「え、そんな、勿体ないよ。あんなにいい成績残して、先輩たちも真悠には自分たち以上の実力があるって…先輩たちも真悠のこと必要としてるよ…」
「もしそうだとしても、『俺には』続ける理由ないよ。それに、こんな足じゃリレーなんて出れないと思うけど?」

真悠は自虐めいた言い方で足を指差す。
確かに今の真悠は走るなんて到底無理だった。
それでも足が治る見込みはある。治療を頑張れば大会にだって間に合うはずだ。

「真悠…」
「充希そんなに気にしないでよ。もともと俺は充希が陸上やってると思ったから入っただけだし。先輩たちがしつこいようなら、俺から断っておくから大丈夫だよ」

そう言った真悠は封筒をゴミ箱に放り捨ててしまった。そして、機嫌が変わったように話題をすっかり変えてしまう。
先ほどまでの怖い顔から一転して、ニコニコと楽しそうに読んだ本の内容を話している。しかし、充希は捨てられたリレーの順番表が気になって気になって仕方なかった。

人からの期待とか自分の実績とか、真悠にとってそんなものどうでもいいのか?俺の欲しいものをすべて真悠は持ってるのに。

真悠のやりたいことが本当にわからない。
頭がぐちゃぐちゃな状態で真悠の話に、充希は曖昧な相槌を打つばかりだった。


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bkm


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