起きてからの第一声はさいあくだ、だった。よりによってこの日に風邪で寝込むというのはあるのだろうか。いやむしろひかされたと言った方がいいのかもしれない。昨日は橋の上でぶつかってしまった女の子の落とし物を拾うため、勢いよく川へダイブした。あのとき、同時に自分のかばんごと落下しなければ俺はいまごろ学校で女子に囲まれていたのかもしれない。悪いのはあの女の子ではないとは思うのだけれども。考えればそれだけ嫌悪感に打ちひしがれた。 ワックスを使っていない髪が肌にへばりついた。このまま顔全体に髪の毛をくっつけてしまいたいとも思った(呼吸ができる程度に)時計を見ればまだ9時27分で、湿気の多い布団に全体を覆うと好都合なことに睡魔がやってきた。流れにまかせて瞼を閉じると、真っ白な彼を思い出した。 4回は鳴った、間違いない。次鳴ったら絶対起きる。そう思って携帯をじっと眺めた。しかし先ほどの頻度が高かった着信とは裏腹に5回目のコールはそれはもう遅かった。だから着信がきたらすぐに携帯を取ってしまったのだ。 「もしもし」 「わざと?」 「いや、さっき起きた」 「じゃあ4回目のあとかけ直してくれてもよかったのに」 絶対待ってたでしょ、と言われて汗が流れた。これはきっと暑いからだ。 「なにかあったのか?」 「ああ、キャプテンから。羨ましいやー!俺なんかその半分だぜ?だって」 「それは可哀相なことをした」 「うわー絶対ずる休みだぁ」 「まさか、なんなら確認しに来るか?」 ぴたり、と会話が止んだ。しまった、もうすこしかっこいい台詞は無かったのだろうかと自分へ訴えかけたが、答えは出てこなくてただ虚空がやってくるばかりだ。 「実はさ、前まできてるんだ」 「え?」 「でも、電話ぜんぜんでてくれないし、僕いま両手ふさがっててインターホン押せないし、あ、携帯は地面に置いてるんだ。それで迷惑かなっておもったりしたけど、みんなから預かってるやつだし渡さないといけないし」 どうしたらいいのかわからないや、と言われる前に玄関のドアを突き破るくらい開いた。驚いた顔の彼を横目で見て、その手に持ってる袋をその場に残し彼だけ強引に玄関へと引っ張り上げ戸を閉める。 そんなもの、そんな甘ったるい物なんて全て投げ捨ててしまえばいいのに、と叫んでみたが音にはならなかった。 「豪、炎寺くん?」 「つめたい」 赤くなった吹雪の手を擦り上げるとあっついという声が漏れた。 ------ ハッピーバレンタイン!このあと吹雪はちゃんとチョコを渡します。 |