雑踏の中で孤独死 | ナノ











かなり大昔の話だがそのころはまだ男として本当の恋愛に興味があったわけで。ノリで告白したら女の子にふられた経験がある。その悔しさは今でも嫌なくらい鮮明に覚えている。あれは今の三倍くらい暖かい日だった。今日は珍しく立向居に誘われて出かける約束をしていた。家を出発したのはいいが立向居が肝心の映画のチケットを忘れたらしく一人走って家まで取りに帰って云った。仕方なく時間つぶしに近くの公園のベンチに座り待つことにする(立向居の損な性格は一生治らないことは知ってる)自分がだした息が白い煙となって舞い上がる。ふと隣を見ると段ボールの中に小さな子犬をみつけた。つい反射的にひょいとその小さな体を抱き上げ自分の腕で包んだ。尻尾をふるふると左右に動かす姿はなんだかあいつみたいだなと綱海は笑った。

「遅くなってすみません」

立向居が息を切らして歩いてきた。どうやらもう走る気力はないようだ。恋人を待たせておいて罪悪感はないのだろうか。文句をいうまえに腕の中から毛糸のような丸くて柔らかそうな物が顔し立向居は「うわ、」と声をあげて目をまんまるにしてその子犬を凝視した。

「…子犬?」
「そこの段ボールの中にいた」
「俺の家では飼えませんよ」
「わかってるさ」

途中声が止まりそうになったのは俺の様子を心配しているからである。その横顔はどこか寂しかったが俺はその数倍寂しかった。手にある温もりをそっと離してあるべきだった場所に戻してあげた。最後に「ごめんな」と呟いて立向居の方をみたら急に腰辺りに抱きついてきて驚いた。衝撃で重心がずれて体が斜めになる。しばらくその場で停止していると気まずそうに立向居が「時間」と言ったので腕時計を見るとすでに上映時間を過ぎていて苦笑いした。そこら辺うろうろするか。思い浮かばなくて適当に提案したらまるであの子犬のように尻尾を振って喜んだ(ようにみえた)

「次は、」
「…ん?」
「寄り道せずに行きましょうね」
立向居の顔は表面こそ上手に笑っていたが手に持ったままだった二枚のチケットを握りしめていて。チケットがくしゃと悲鳴をあげた。その目が昔の自分に似ていて鼻の奥がつんと痛んだ。






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