「承知いたしました。東城会会長殿直々のお願いとあらばお断りする理由はございませんわ。ですが。」


そこで、透子は素早く無駄のない動きで、
もう一つの愛銃であるデザートイーグルを構えると
この部屋の出入り口に当たる大きな扉に銃口を向ける。


「既に尻尾が見えておりますが、如何致しましょう?」


ニヤリ、と真島が口の端を上げ、大吾を見やる。

まだ試す必要あるか?、と顔に書いてある真島を一瞥してから大吾が再び口を開いた。


「今はまだよして下さい。蜥蜴の尻尾切りをするつもりは貴女もないはずだ。
この部屋の防音性と、それ故に何者かが聞き耳を立てている状況は理解しておられるでしょう。」


「勿論ですわ。」


まだ構えたままの姿勢で透子は笑った。


「それと、一点お断りしておきたい点が。」


Pussy cat, Pussy cat,
what have you there?



大吾が頷いて、透子に先の言葉を促す。


「会長殿は私を懐刀、と仰いましたけれどそれは大きな間違いですわ。」


何故ならば


「私はいつだって主の寝首を掻こうとしているのですから。そんな懐刀はとても恐ろしくて、忍ばせておけないでしょう。」


その言葉に、今度こそ大吾は目を丸くした。
冴島は破顔し、大きな笑い声を我慢できず
それに対して真島は顔を歪めた。

透子は尚も微笑みを崩さない。



高い防音性ではあるが完璧ではない扉の外にも、
この場にそぐわない些か豪快すぎる冴島の笑い声が届いたのだろう。
蜥蜴の尻尾の気配がなくなったことを感じて、透子は懐へ獲物をしまった。



その場は苦笑気味の大吾の、ではまた連絡します、という言葉で締めくくられた。





本部を後にした大吾以外のメンバーは、
特に示し合わせたわけではないけれど、
自然と韓来で落ち合い、それなりに上等な肉に舌鼓をうっていた。


「この高級すぎず、大衆的すぎない感じが好きなのよ。」


グビリとジョッキを飲み干した透子が店員におかわりを頼んだ。

貸切にしてもらっているせいで注文がなかなか通らないなんてことはなく、
頼んだそばからおかわりが運ばれてくる。

店長はだいぶ遠慮したのだが、
好みの濃さがあるから、と焼酎と水割りのセットは席に用意してもらって、馬場が冴島と真島の水割りを作っていた。


ポリポリと、ナムルを食みながら真島が透子を小突いた。


「しっかし、とんでもないやっちゃな自分は。東城会会長殿の前でくらいワシを敬わんかい。」


「あんた馬鹿ぁ?」


「またエヴァかいな。…て、オノレは誰に向かってそないな口聞いてんねん。弁えや。」


「失礼致しました。天下の東城会直系真島組組長様が舐められぬように、という配慮のつもりでしたけれど。お気に召さなかったのでしたら以後気を付けます。」


しれっと言ってのけて、真島が大切に育てていた肉を透子が攫う。
それに対して真島が喚くのを眺めながら、馬場が笑う。

そして先刻の真島の苦虫を噛み潰したような顔を思い出したのか、冴島もまた思い出し笑いに興じた。


「ったく。ここまで肝が座った女もなかなかおらんな。」


「もはや気持ちがいいですよね。真島さんにしても、紅月さんにしても、信頼しあっているからこそあそこまで言いあえるんでしょうし。」


冴島の焼いたホルモンを口に放りつつ、馬場が言うと
その言葉に冴島は不意に真顔に戻る。



「さあな。そこんとこは、どないなんやろな。」


言ってから、不思議そうな顔をこちらに向ける馬場には気づかないふりをして、焼酎を喉に流し込んだ。




【 Pussy Cats, Pussy Cat 】


I frighten'd a little mouse under the chair.







2016/04/09



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