うさぎのりんごを剥く五+夏
悟林檎あるけど食べるかい、と夏油に言われて五条は、おー、と気のない返事をする。
食べたくないわけでもなく、食べたいというわけでもない。
少し小腹が空いたしな、と五条は何気なく返事をしていた。
林檎食べるか、と言われてから少し時間が経ったが、まだ五条の元に林檎は来ない。
どうしたものか、すっかり林檎の口になってしまった五条は、夏油の様子を窺うが、彼は鼻歌なんか歌っている。
それにしても遅くないか、と五条が台所にいる夏油のところへ行き、おもむろに近付いてゆっくり肩越しにその作業を見詰める。
「あ?なんだこれ?」
「うわっ、吃驚した!急に後ろに立たないでよ。」
包丁持っているんだから、と五条に夏油は注意すると、また夏油は手元に集中している。
うさぎが数匹お皿に並び、夏油の手元にも一匹収まっている。
よくある赤い皮を耳に見立てたものではなく、瞳の赤を残して皮は全て取り除かれ、果肉に筋を入れて林檎をうさぎに型どっている。
完全に見た目が可愛いうさぎだ。
残された赤い瞳の皮が可愛らしい。
ちゃんとアーモンド型の瞳になっているとこにこだわりを感じる。
「え?何これ。」
「うさぎの林檎だよ。ネットで見付けてやってみたくなって。」
「うへ〜器用だな〜・・・つーかやろうと思わねぇわ。」
皿に並べられたうさぎを1つ五条が手に取ると、可愛らしく再現されたうさぎは、愛らしい瞳で五条を見詰めてくる。
え可愛い何これ、と五条は食べるのが勿体なくなって、携帯を構えると写真を撮る。
これ凄く可愛い、と夏油に言おうと五条がはしゃぎながら顔を上げると、夏油が手に持った林檎を大口を開けて囓っていた。
「キャアアアアア!!」
「え、何吃驚したっ・・・」
シャクシャクシャクシャク、と夏油は情緒なく林檎を咀嚼している。
それに五条はこの世の終わりを思わせる叫びを響かせる。
夏油の手の中にあるうさぎは、可哀想に胴体だけが残っている。
「お前非道すぎるだろ!!」
「え?何が?」
「うさぎさんが!!」
「うさぎさん・・・」
五条の育ちの良さだろうか、うさぎに『さん』をつけることに夏油は戸惑いを隠せない。
「怖っ!非道!こんな可愛いのに頭から食べるとか・・・!もういっそ一思いに殺してやれよ!胴体だけ残しやがって!」
「悟が何言ってるのかわからないけど、林檎だよ?」
夏油は、訝しそうに顔を歪めている。
それを受けて五条は、恐ろしい犯罪者を見るような瞳で夏油に訴えかけている。
普通だよだったら硝子のとこ行こうよ、と夏油に言われて、可愛らしく皿に盛られたうさぎの林檎を家入のところへ持っていく。
いやあ御苦労御苦労、と言いながら戸惑いなくシャクシャクシャクシャクと胴体を残して咀嚼している家入に、キャアアアア、と五条はまた絶叫していた。
(20210920)