ゆめしょ | ナノ 05


05



夜蛾への報告が終わってから家入の顔を見て帰る、という行動は、名前の無意識のルーティーンになっている。
今日は手土産無いなあ、なんて考えながら名前が医務室の扉を開けると、家入は不在でいないらしく、彼女とは違う見知った顔と目が合った。
あ、とお互いに声を上げたが、それと同時に名前は扉を閉める。
名前の目に入ってきた五条は、家入を待っているのか暇そうにスマホを弄っていた。
暇、とあからさまに表情にも座り方にも、何なら足や腕の角度にすらも表れていた。
そんな五条が名前を見た瞬間に顔を綻ばせたのだから、きゅんと名前の胸をときめかせるのは仕方がない。
しかし、最近の名前と五条の予定の合わな過ぎる背景を考えると危険だ。
昼間五条は高専教師として活動し、それと同時に夜は特級としての仕事もこなしていたし、名前は名前で深夜の仕事が続いていたため、会っていなかった。
医務室はベッドがある、家入がいない、鍵かけられる、五条悟に『時と場合を考える』という思考がない、と瞬時に考えて名前が扉を閉めて一歩さがると、それを上回る速さで扉の隙間から伸びた手に捕まえられて引きずり込まれた。
名前が瞬きした間に後ろの扉に押し付けられ、その扉がカチリと鍵をかけられたのを聞きながら、アイマスクを外した五条の顔が鼻先まで迫っていることにやっと彼女は慌てる。
何処へも逃げられやしないこの距離の中でも、名前は思わず後ろ足でぴったりと扉へすり寄るようにさがると、ただ扉がガタガタと音を立てるだけだった。
五条は名前の様子など気にした風はなく、唇を会わせると舌を絡ませてくる。
ん、と名前が鼻から抜ける様な声を上げると、気を良くして五条が舌を余計に絡ませて吸い付いてくる。
あ不味い気持ちいい、と名前が五条を押し退けずに彼の服の裾を握って誘うように口を開けると、五条が扉に押し付けていた腕を緩めて彼女の腰を抱き寄せてくる。

「さっき逃げてなかったっけ?」
「久しぶりで気持ち良いんだもん。お察しください。」

五条からからかうように言われて、名前は拗ねて膨れっ面をしている。
抱き寄せられていることが気持ち良くて、そのまま名前は五条の胸に頭を預けると、五条が名前の頭を撫でて指で髪をすいてくる。
うううそういうの好き、と名前がその優しい指使いに胸をときめかせていると、ベロリと耳の縁を生暖かいものが這っている。
五条の優しい掌に頭の中が蕩けていた名前は、すぐに反応出来ずに握ったままだった彼の服の裾を離して押し退けようとするが、今度は首筋に痛いぐらいに吸い付かれて舌を這わされている。
名前は、五条に頭を撫でられたと喜んでいたが、彼は彼女の首や耳にかかる髪を整えていただけだったらしい。
痛いこれは痕つけられてる、と首の痛みに名前が何とかやめさせようともがいても、ガッチリと捕まえられた腰を持って浮かされ、医務室備え付けのベッドへ乱暴に押し倒される。
名前はもがいているのに、五条は何の煩わしさもなさそうに綺麗にベッドの真ん中に倒してくる。

「きゃあ!ちょっと待って、ここ、学校!!」
「保健室とかってそそるよねぇ。」
「ダメダメ嘘でしょ?!きゃー!!」

かぷり、と五条は名前の首を食みながら、彼女のカットソーの中に手を入れて腹から鎖骨を撫でてブラジャーの縁を指でなぞってくる。
ひえ、と名前がカットソーを下げて、ぐいぐいと五条の腕を押し退けようとしても全くものともしていない。
いいじゃん鍵かけたし、と言いながら楽しそうにしている五条を横目に定位置にかかった鍵は室内にあるから確かに外からは開けられないが、倫理的にやめて欲しい。
AVやエロ本ではそういったことがあっても、これは現実だ。
医務室やら病室などで鍵をかけてセックスするなんて通常ではあり得ない。
馬鹿な男の妄想なのだ。
馬鹿が目の前にいるどうしたもんか、と考えても頭の中で家入が、あいつクズだから、と言っていた言葉しか思い出せない。

「今ここでシたら悟とは一生シない!」
「えー・・・鍵かけたよ?」
「そういう問題じゃないの!硝子ちゃん帰ってきたら絶対おかしいって思うでしょ!」

名前の涙声にぴたりと五条の手が止まる。
残念そうな声を上げてつまらなさそうにしながらも、彼女の嫌がることを無理にする気はないらしく、それでも五条はこのまま引くのも面白くなくて彼女を押し倒したまま何かを考えている。

「じゃあ今日の夜は?」
「わかった。ちゃんと家にいるから今はやめて。」
「名前が夜が良いって強請るから仕方ないなぁ。」

強請ってないし寧ろ背に腹は代えられないからなんだけど、という言葉を飲み込んで名前はやり過ごした。
やっと解放されると名前が安堵していると、くん、と体を引かれてベッド脇に立たされ、ベッドに軽く腰かけた五条から腰を抱き締められている。

「じゃあさ、指切りの代わりに名前からキスしてよ。」
「え、嫌だけど、」
「そっかぁ・・・」
「わあ!待って待って、ごめんなさい!」

名前の腰に回った五条の腕に力が入り、またベッドに引き倒されそうな感触に慌てて名前は五条の首に腕を回す。
はいドウゾ、と座っているせいで名前より低い位置にある五条は軽く顔を上に上げて目を瞑っている。
名前は、綺麗な顔立ちに見惚れながら五条の頬を片手で撫でて、小さくリップ音をさせながら一つキスを落とすと、五条は不満そうに見つめてくる。
そんなんじゃダメ、と五条がまた引き倒しそうな雰囲気を出してくるから、名前は観念して深くしてやる。
名前から舌を絡ませにいくと、五条もそれに応えてくるからどうにも変な気分になってしまう。
シたくないわけじゃなくて場所がなあ、とキスに気持ちが昂って名前がそう思いながら五条に引っ付きたくなって身を寄せると、五条が応える様に腰にしっかり腕を回して抱き締め、片手を名前の後頭部に添えてくる。
カチリと鍵が回る音がして、え、と名前が扉に視線を送ると視界の端に家入が目に入った。
急なことに、ぐ、と名前は五条の肩を押すが、五条は離すつもりはないらしく、余計に名前の口内に舌を捩じ込んでくるから、息苦しさに名前は変に鼻にかかった声をもらしてしまう。
大きな音を立てて急いで閉められたらしい扉を名前がまた見ると、家入はいなかった。
名前が何度も肩を叩くから、仕方なく五条は名残惜しそうにゆっくりと舌を離してやる。

「ちょっと!鍵!閉めたんでしょ?!」
「ああ、鍵かけた覚えないのにかかってるからマスターキーとりに行ったんじゃない?」
「マスターキー・・・」

何も動じていない五条を見るに、彼はマスターキーだとかスペアキーで開けられることなどわかっていて事に及ぼうとしていたのだ。
もしくは、名前の『待った』があることがわかっていてこの過程を楽しんでいたのかもしれない。
なんだこの茶番は!と一人であたふたとしているこの状況の恥ずかしさに名前が五条の胸を何度か拳で殴っていると、何それ可愛いね、と全く効いていない彼は笑っている。
よく考えたら私が気を遣う必要ないな、と家入が戻ってくると、離れたそうにしている名前と、まだ名前の腰に腕を回して離そうとしない五条に近付いてくる。
2人で如何わしいことしてたの黙っててやるから何か奢れ、と家入が脅してくるから、いいけどじゃあ2時間ここ貸してよ名前付きでああ言い値でも良いよ、と軽口を叩く五条に、抱き締められていて腕が使えない名前は一つ頭突きをしてやった。
勿論全く五条は痛がらないから、名前の不満は増すばかりだ。

(20210627)





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