02 それで誰が大怪我したって?と家入が凄みのある声を正座する1、2年に浴びせると、電話をしてきた虎杖が一番体を震わせる。 全員が全員今すぐ訓練をさせても問題なさそうな様子に、家入は呑んでいた酒を名前の部屋へ置いてこさせられたことに腹を立てて青筋を立てている。 「すみません!!!虎杖がとうしても聞きたいことがあるからって連絡を・・・!止めようとしたんです!!」 「え?!」 「すみません!宿儺の入ってる虎杖には皆逆らえなかったんです!!」 「は?!」 真希とパンダが口々に虎杖に罪を擦り付けていると、先輩がしろって言うから俺は!と虎杖が半泣きになりながら怒るという器用なことをして、なんとか家入の怒りが自分に向かないようにしている。 「何?メンドイ。言いたいことあるならさっさと話してよ。もう帰るよ。」 「待った!」 聞いてください俺ら考えたんです、と虎杖が真面目な顔で家入を見詰めている。 虎杖の後ろにいる生徒の顔も真剣そのものだ。 「俺ら帰るに帰れなくて、ちょっと離れたところからあの家観察してたんです。そうしたら、五条先生が来て・・・硝子さんはインターホンを押したのに、五条先生は押さなかった。つまり勝手に入ったんです。家に勝手に入ることが出来る、それを許されている、そんなことが出来る人物は嫁だあああ!!」 「五条独身ね。」 虎杖は確信を持って言ったのに、家入はスッパリと否定する。 虎杖らしからぬ推理めいた言い方のそれは明らかに言わされたのだろう。 虎杖がガッカリしている後ろで他の生徒が全員笑いを堪えているのだから、今日は虎杖で遊ぶ日にでもなっているのだろうか。 子どもの遊びに付き合わされて家入は腹の底から溜息が出る。 「あの性格で嫁いると思ってんの?恋人じゃないって言ってんのに何でその上を行くんだよ。」 「でも、女性の部屋に入るってことは、それなりの仲ですよね?私虎杖と伏黒が勝手に入ってきたら殴る蹴るの暴行では済まさないですよ。」 「入らねぇよ。」 「お前は女子の部屋に憧れろよ。」 家入の言葉をすぐに忘れて、釘崎と伏黒が睨み合っている。 子ども達のお遊びに付き合っていられないと、家入が帰ろうと踵を返すのに、待って!行かないで!あの人五条先生の何?と急に子ども達から引き留められた。 名前の家で目撃されたのが運の尽きだ。 家入はあの時は思いもよらなかった面倒事に、はあ、とまた一つ溜息をつくと、すぐに深呼吸をする。 「名字名前28歳、地方の呪術師の家系出身。家の方針で普通の小中高大を卒業。卒業後はそれまでの勉学中心の生活から除霊中心の生活となりそれを皮切りに力をつけて一級呪術師まですぐ上り詰め、腕を買われて東京に拠点を移す。拠点を移した際、慣れない都会暮らしの補助にたまたま手の空いていた指導係五条を宛がったがために彼女と間違われ、なんやかんやで多方面から狙われることになって保護目的で軟禁状態になった可哀想な女です。」 「硝子さんそのなんやかんやめっちゃ気になる。」 今回使われる側だった虎杖がやっと自主的に声を上げると、他の視線も一緒に家入に集中している。 「あれで五条もあの家の頭だから面倒臭いあれやこれやがあるんじゃない?」 だからあれやこれやとは一体なんなのか、肝心なところをぼやかす家入に子ども達は皆首を傾げている。 「これが表向きの話なんだけど実際どうかわかんないのよね。あの2人が恋人なのか、それとも、爛れた関係に興じているのか。私が帰ってから今、一体何をしているのやら・・・」 家入は、含みのある言い方で少しだけ色のある視線を流してやると、多感な子ども達は、ギャー!と何が何だかわからない雄叫びを上げている。 これで五条と名前に直接興味向いたかな、と家入はそそくさとその場を離れた。 ちょっと待って、と名前が五条の胸を押すと、そんなものに気を取られた様子もなく、彼は名前の腹を撫でて彼女の首を食んでいる。 「ちょっと!」 「今更何だよ。ここでクイズです。ここはどこでしょうか?」 「・・・私のベッドです。」 「正解!ヤることは一つでしょ?はい脱いで。」 情緒なく、ぐい、と五条が名前のカットソーの裾を胸の辺りまで捲り上げると、彼女はそれを戻している。 「待てって言ってんでしょ!悟の受持ちの子見たらそんな気になんないの!あの邪のないキラキラした瞳を思い出して!何か恥ずかしい!」 「名前の意味わかんない羞恥心に何で僕が付き合う必要あんの?」 名前がゴタゴタと言っているうちに、五条が名前の背中に指を滑らせてプツリとブラジャーのホックを外している。 急に圧迫のなくなった胸に心許なさを感じて名前が震えると、五条はその反応をニタニタと見詰めながら彼女の唇に噛みついてくる。 「んー・・・!」 ゴツッ、と名前が舌に吸い付いてくる五条を離そうと、本気で彼の肩を殴っているのに、全く痛くも痒くもなさそうに五条は名前を押さえ込んでいる。 逆に名前の拳が痛い。 「お酒呑んで余計暑くなるから嫌だ。」 「暑くなるとか余計色っぽくていいねぇ・・・」 「・・・今日はせめてイチャイチャで終わりませんか?」 「・・・名前は本当にわかってない。イチャイチャしたら男は勃っちゃうんだよ?」 五条が名前の頬を両手で優しく撫でて子どもに言い聞かせるようにもったりとした言い方で諭してくるが、五条のトーンは完全に名前を小馬鹿にしている。 「小さい子諭すような言い方止めて。良い大人なんだからそうなる手前でやめようよ。」 「嫌。今日喘ぐ名前は今日しか見られないし。明日喘ぐ名前は明日しか見られない。」 「悟の発言のせいでどんどん雰囲気遠ざかってるんだけど。」 「じゃあもう黙れ。」 名前にのし掛かって目を細めた五条の瞳が、情欲にまみれて焦れているから変に気圧されて、名前は観念して五条の首に腕を回してやる。 シたくないわけではない。 ただやはり制服姿の彼らを思い出すと何だかいやに恥ずかしかった。 指先で頭を弄ばれている感覚に、名前はうっすらと目を開ける。 朝、名前が眠さに目を顰めていると、身なりを整えて学校へ行くのだろう五条がベッドに腰かけて名前の頭を撫でている。 「・・・学校?」 「うん。いってきますのチュウする?」 「しません。」 名前が怠そうに寝返りを打って五条に背中を向けると、名前の怠そうな姿に気を良くした五条は彼女の蟀谷に軽くキスをして立ち上がった。 丁寧にキスをされて、名前はそれに急にふわふわとした感覚になって頬に熱が浮かび上がってくる。 そんな可愛らしいキスの方が名前をドキリとさせることなど五条はよく知っている。 駄目押しに耳元で行ってくるね、と囁かれると耳がゾワゾワするから余計に体が痺れてしまう。 いけない、と何だか変に堪らない気持ちになってきて、名前はゆっくりするのは止めて起き上がった。 昨日脱ぎ捨ててそのままになっている五条のワイシャツを拾い上げて羽織っていると、サイドテーブルにサングラスが置きっぱなしになっているのが目に入る。 いらないのかな、まだ玄関にいるかな、と名前がそれを掴んで早足で玄関へ行くと、丁度玄関が閉まりかけたところだから、名前は慌ててそこを少しだけ開ける。 「悟、忘れ物、」 少し扉から顔を覗かせると、手前にいる五条ではなくその奥にいる、虎杖、伏黒、釘崎と目が合い、お互いに目を見開いた。 何故いる、と名前がそれを聞くよりも自分の格好を思い出して、身を扉に隠して腕だけを五条に突き出した。 早く受け取ってくれ、と思いながら待っているとサングラスごと手を取られて、手の甲に軽くキスをしてくる。 「風邪引くからちゃんと服着るんだよ?」 「わかったからっ、いってらっしゃい!」 子どもの前で何してるんだ何言ってんだ離してくれ、と名前が真っ赤になっていると、五条はそれを見て喉の奥で笑っている。 手が引っ込んで扉が閉まると、一連の流れに呆けていた虎杖達は、やっぱ恋人だ、とボソボソと話している。 「恋人?付き合ってないけど?」 虎杖達の話に首を傾げて五条が何でもなさそうに言うと、彼の生徒達は酷く嫌なものを見るように白い目を向けている。 「うわ、やベェ奴だ。」 「最低!」 「五条先生が爛れた恋愛してる!」 「ブッ飛ばすぞ、お前ら。」 先生も大人の男なんですー子どもには刺激が強すぎたかなー、と少しおどけた言い方をしながら罵ってくる子ども達をいなしていた。 (20210614) ← : → |