猫を飼うまでもない二人 あ、可愛い、猫可愛い、子猫可愛いねぇ、と五条と名前は、のんびりテレビを見ながら、夕飯の後に紅茶を飲んでいる。液晶の中でころころと転がっている毛玉を見ながら、可愛いねぇ、可愛いねぇ、とそれ以外の語彙が消えたのかというくらいに『可愛いねぇ』だけを言い合っている。 五条の体格でもゆったり座れるこの大きめのソファに、二人でゆったりと体を預けている。そうやってゆっくりしながら、五条は、名前が猫の可愛さにほっこりとしているのを、可愛いなぁ、と思いながら眺めていた。暫くそうした後、五条は彼女の肩に腕を回して抱き寄せると、その腕で彼女の頬をつついてみる。されるがままになっているかと思えば、彼女は、ある程度五条が触れると、イヤイヤ、と頭を振っている。猫のことを五条はよくわかっていないが、急に嫌がるところが、気まぐれで猫っぽく、もっと構いたくなってしまう。 この名前を相手にしていると、猫を飼う擬似体験が出来るから、本物を飼おうという気にはならない。まあ五条がそう思っているだけで、名前は違うかもしれないが。 「ねぇ、猫飼いたい?」 念のため五条が名前に聞くと、彼女はテレビに釘付けのまま、暫し思案顔をしだした。この顔は頭の中で飼ったときのシミュレーションをしているな、と五条は察してその面白い顔を指摘せずに眺めることにする。 「うぅん・・・可愛いけど、家あけがちだし可哀想だからいいかなあ」 そっか、と名前の言葉に五条はそうとだけ返した。そのすぐあとに、だって既に可哀想な猫みたいなのいるし、と名前がぼそっと呟いたことを五条は聞き逃さない。先程五条がつついていた彼女の頬を、彼は空いている方の手で鷲掴みして彼女の顔を彼に向かせる。 「はぁ?僕が寂しがりみたいな風に言うのやめてくれる?」 名前は、五条に聞こえるか聞こえないかぐらいの声で先程呟いた。それが五条のことを言っていて、更に聞こえるか聞こえないぐらいで呟いたとなれば、結局聞かせたくて言っているのだ。名前を構いたい五条は、これに乗らない手はない。五条が顰めっ面をして名前に目を合わせながら、ぐにぐにと頬を痛くない程に揉んでやる。さながら犬猫をぐりぐりと撫でような扱い方をして可愛がってやる。それが嫌ではないようで、名前は目の力を抜いてリラックスしている。 構われて嬉しいのだろう、と名前の様子を見て五条は解釈していた。 しかし、名前は五条が構ってきたのを見て、和んでいたので、五条の解釈は違っている。 定時から少し遅くなった名前より先に、久々に五条は早く部屋へ帰ってきたようで、彼は何の気なしにソファに座ってテレビのチャンネルを弄っていた。名前から見る五条は、彼女を待ちわびていたように、そわそわとしている気配を醸し出していた。彼は、対仕事となると何を考えているのかわからない神出鬼没なヤツであるのに、名前にだけは色んな感情がだだ漏れだった。誰がどう見たって『待っていません』という出で立ちで、彼はソファに座っていたが、そわそわとした気配を隠すことは出来ていなかった。完全に名前を待ってソワソワしていた。 そんな五条のツンを見せられた後の、存分に名前を構い倒そうとするこのデレである。 何がデレなのかなんて、名前を不機嫌そうに見つめてくるくせに、彼女の頬を掴んでいる手が思い切り優しいことだとか、不機嫌に反比例して距離がグッと近いこと、等々・・・ 五条は、構って!と全身で訴えているのに、表情も声もツンとしているのだから、名前には可愛く見えて仕方がない。まさに猫。 こんなに大きくて寂しがりな猫がいるのだから、他に目をやることなど出来ないだろう。 当分、いや、悟がいるなら猫はいらないな、と名前は改めて感じて満足げに笑う。 何笑ってんの、と不機嫌そうに言う五条からは全く威圧的なものは感じなかった。 (20220929) |