72

カムウとユーシャがこの世界に参戦したその日の夜。
夢子は自分の部屋のベッドでスマホを弄りながらゴロゴロしていた。





【72=シナモンフレーバーに酔いしれて】




夢子「本当、こんな事ってあるもんなんだなぁ…」

夢子はカムウとユーシャを思い出していた。

夢子「でもきっとふたりとも強いだろうし戦力になるはず…
        私が弱いからだけど…頼もしいのは助かるなぁ。」

すると、スマホの通知音が鳴る。

夢子「ん?誰かなこんな時間に‥‥。


        ゲ。アルフレだ‥‥」


こんな事ならラインの画面を開かなければよかった。
既読無視したらそれこそあのサイコパスの事だ、何されるか分からない。

夢子「っていうか合鍵の手段使うの早すぎない?まだ1週間よ!?」

まあその辺はアルフレなので何でもアリだ。
部屋からそっと抜け出す夢子。

今日は皆早寝していて家の中は静まり返っている。

夢子「…行くしかないか。ああ、嫌だな…行きたくないな…」

夢子の視界にテーブルの上のある皿が目に入る。

夢子「…そうだ!お土産…持って行って気を紛らわす?」






ピンポーン‥‥

夢子は80階に上がりインターホンを鳴らしていた。
…反応はない。

夢子「くぅー!!アイツ…早速鍵使えって?マジ最低!!」

胸糞悪いが夢子は合鍵を使って部屋のロックを外した。
まさか渡されて半日で使う羽目になるとは。

夢子はゆっくりドアを開けて中に入る。

夢子「こんばんわー…アルフレ?せんせー?ブラピー?」

すると、家の中から言い争う声が聞こえてきた。
勿論ここの住民の怒鳴り声だ。



ベレト「お前は何故勝手なことをする!?」
アルフレ「別に良いでしょ。減るもんじゃないし。」
ベレト「良いも悪いも…それは俺が成すべき事だったんだ!」
アルフレ「要は役割奪われて悔しいんでしょ?大人の癖に恥ずかしいねー。」
ベレト「お前は…誰のおかげでここに居られると思ってる!?」
アルフレ「まあ、先生(笑)のお陰だけど?」
ベレト「お前は前から人を敬う精神に欠けているんだ…もっと反省しろ。」
アルフレ「あー。そろそろ僕の彼女今から来るから。…見てて?」


ブラピ「あ!!夢子ー!!俺を助けろ!!この二人マジ怖いんだよ!!
    さっきからこの調子で喧嘩しまくっててヤバイんだって…!!」



夢子「…あの…お邪魔でしたか?」

恐る恐る家の中に入ってきた夢子を見てベレトが驚く。

ベレト「夢子!?何故家の中に!?」
アルフレ「僕が呼んだんだよ。言ったでしょ。の彼女が今から来るって。」
ベレト「どういうことだ夢子…まさか本当にコイツと付き合ってるんじゃないだろな!?」
夢子「付き合う訳ないじゃないですか!!絶対、1000%あり得ません!!」
ベレト「…そうだよな。はあ、俺としたことが少々焦った…。疑ってすまなかった。」
アルフレ「一瞬でも僕に負けた気がして悔しかったんでしょ??」
ベレト「お前の腹にアラドヴァルぶち込みたいんだが。(イライラ)」
アルフレ「ヤメテ?この世界だとハンデ有みたいなもんだし死んじゃうでしょそれ。
     そもそもこんな事で英雄の遺産出す気?フフフ、大人げないね??」
ベレト「…掃除用のモップで喰らわせてやろう。」
アルフレ「なにそれ超弱そ。」
ベレト「いい加減にしろよ…?俺にも我慢の限度が…」

喧嘩の勢いがとどまらないベレトとアルフレを横目にブラピにとりあえず聞いてみる夢子。

夢子「…で、何で喧嘩してるの?」
ブラピ「ああ、アル兄が先生に《夢子に合鍵あげた〜v》って言ったらこのザマ。」
夢子「はぁ…その事か…やっぱり揉めると思ったんだよね。」
ブラピ「先生は自分が渡したかったってアル兄どついてたんだよ。
    鍵なんて誰が渡しても一緒だと思うんだけどな?」
アルフレ「ブラピ…これには深い意味も込めてるんだよ。」
ベレト「そうだ。一戦交わるかどうかの問題にもなりかねん。」
ブラピ「ん?大乱闘でもするのか?たのしそーじゃん?」
アルフレ「僕としては夜の大乱闘を夢子としたいんだけど。」
ベレト「戯言を…お前には1億光年早い。」

夢子は笑顔で銀色の鍵を手のひらに乗せて喧嘩するふたりに言い放ち
深々とお辞儀をする。

夢子「…ああ、鍵なら返してもいいんですよ?てか返させてほしいです。返却受け入れお願いします。(ペコリ)」



アルフレ・ベレト「「!!!」」



夢子「良く解んないけどやっぱり私が持ってても意味無さそうだし…」


鍵を返そうとする夢子ヲ見て妙な焦り方をするベレトとアルフレ。

ベレト「いや、意味はある!!大いにある!!」
アルフレ「そうだよ、僕と君とのエンゲージメントだから?」
ベレト「お前はさっさと部屋に戻れ。俺はこれから夢子と1対1で特別授業をする。」
アルフレ「は?良い子は寝る時間でしょ。寝言は寝てから言えば?
     勿論僕は悪い子だから、これから夢子と楽しーくチョメチョメするから。」
ベレト「貴様…!!(怒)」

ブラピ「…俺、とんでもない家に居候することになってしまった…。この1週間で良く解ったよ…最上階恐ろしい。(青ざめ)」
夢子「…ブラピ、これは運命だと思って受け入れるしかないよ。
        あ、そうそう。お土産持ってきたんだった。
        喧嘩してるからすっかり渡しそびれてた。はいどうぞ!」

ベレト「…何だこれは?」
夢子「アップルパイです!!私が作ったんですよ?まあ…殆どルフレに手伝って貰ったけど。」
アルフレ「…アイツといつもこんなことしてるの?」
夢子「いつもって言うか、うーんそだね?料理については色々教えてもらってるけど。」
アルフレ「…。(黒い笑み)」
夢子「ルフレは親切で優しいから手捕り足取り教えてくれるんだよ。えへへ、優しいでしょ?」
アルフレ「……。(更に黒くなる笑み)」
夢子「貴方と大違いね?」
アルフレ「じゃあさ、今度僕と一緒に料理してみる?」
夢子「…は!?」
ベレト「やめてくれ、台所が汚れるだけだ。寧ろ破壊しかねん。」
アルフレ「こう見えて…僕だって料理、出来るんだよ?」
夢子「ほんと…?(疑いの目)」
アルフレ「ああ。勿論だよ。もうひとりの僕に出来て僕に出来ない事なんて無いからね。」
ブラピ「あ!!そういえばアル兄、あっちの世界に居たとき何か作ってたって言うか…調合してた??
    紫色のネバネバした…黒煙を吹き出す何かを…」
夢子「…それって料理下手な人特有の…っていうか何作ったの…?」
アルフレ「ん?ああ、あれはカレーライスだよ。急に食べたくなったから適当に作ってみたんだよね。」
夢子「カレーライスはそもそも紫色じゃなくない!?何入れたらそうなるの!?私でもそんなんにならないよ!?」
アルフレ「…しょうがないだろ。勝手にそんな色になったんだから。」
ベレト「その後姉さんに手厚く世話になったがな??」
アルフレ「あれは…作ったカレーライスの美味しそうな匂い思い切り嗅いだら
     あまりにも良い匂いで急に意識飛んだんだよ。
     気がついたらベッドの上で管に繋がれてただけ。」
夢子「それは…っていうか管って…よっぽど身体にダメージ入ってない!?寧ろ死にかけてるじゃない!?」
アルフレ「だから、夢子。僕とお料理デートしない?」
夢子「この流れで《ハイ、喜んで★》って言える人居ないと思うんだけど!?」
アルフレ「君なら喜んで返事すると思ったんだけど?だって君…メシマズ女なんだろ。」
夢子「なっ!!!失礼ね!?(顔真っ赤)」
ベレト「夢子はこれから俺と将来的に色んなレシピを試すからそれでいいんだ。
    そうだ、夢子、これから先生と一緒に焦らずゆっくりメシウマ嫁になろう。」
アルフレ「何ちゃっかり嫁ポジにしてるの?きっしょ。」



ブラピ「うおおおー!!このアップルパイ‥‥!!めっちゃ美味しいぞ!!今まで食べたアップルパイの中で一番旨い!!」



喧嘩してるベレトとアルフレの後ろでブラピがどさくさに紛れて
夢子の持ってきた手作りアップルパイを食べて目を輝かせていた。
ブラピは物凄く幸せそうな表情でモグモグ食べている。

ベレト「待て、ひとりで食うな…!?」
アルフレ「あれー?せんせー甘いの嫌いじゃなかった?」
ベレト「時と場合による。今は食す時だ。」
アルフレ「まぁ、夢子の手作り…逃す訳にはいかないよね?」

夢子「はあ…沢山あるので落ち着いて仲良く食べてください。」



今夜の最上階はシナモンの香りが広がる。
何だかんだ言って3人は美味しそうにアップルパイを食べてくれた。
そして夢子はすっかり忘れていた。

ココに上がってきた理由。




アルフレに呼び出されたと言う事をー・・・・・



アップルパイを美味しそうに頬張る3人を見て夢子は自慢げに微笑んでいたが
アルフレも別の意味で微笑んで彼女を横目で見ていた。
そして不敵な笑みを浮かべる。

夢子…彼女はやはり危機感に欠けている。
目の前の危機を全く察していない。
アルフレには好都合だった。



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