70



アルフレは自身の部屋へと行ってしまった。
夢子はブラピを見る。

ブラピは完全に浮かれモードだった。
先ほどまで怖がっていた窓際ではしゃいでいる。

夢子「はぁ…。」


夢子は深いため息を付く。




【70=君が条件を呑むのなら】





夢子「…何だか嫌な予感しかしない。アイツの渡すもの何てろくでもない物ばかりよ…
        何かのホルマリン漬けでも渡してきそうな感じがしてとても嫌だわ…」
ブラピ「俺の宿無し生活もやっと終わるー!!」
夢子「…人の気も知らないで嬉しそうね…」
ブラピ「いや、お前には感謝してるよ…一応。」
夢子「ほんと?」
ブラピ「ああ、恩はちゃんと有難く受け取るし、それに対しても敬意は払うぜ。」
夢子「急に素直になって来た…ほんと単純ね…」

まあ、実際ブラピは胃袋を掴まれたような物だが。文字通り。

1分ほどですぐ戻ってきたアルフレ。
その手にはホルマリン漬け…ではなく、
銀色の物が光っていた。

夢子「…何?」


アルフレ「合鍵だよv勿論、この家のね。」



夢子は再び青ざめる。
こんなもの貰っても非常に嬉しくないのだが…って言うか何故合鍵?それは家族や婚約者同士、カップルが持つものでは?
それをアルフレは平然と夢子に渡そうとしている。
…この人の頭の中は何を考えているのか分からない。

アルフレ「これを君が受け取ってくれるのなら、ブラピの事ぼくが匿ってあげていいよ。」

夢子「ッ!?貴方ねぇ…!?(怒)」
アルフレ「さあ、どうする?僕は気が長くないよ。勿論受け取ってくれるよね?」

夢子はブラピを見る。
今まで酷い態度もとられていたのも事実。
だが流石にホームレスにさせるのは心が痛む。

夢子は決意した。


夢子「…分った、受け取る。でも!!!絶ーーーーー対!!!使わないからね!?」
アルフレ「いや、君はその鍵を使うよ。使うって言うか使わせるって言うか?
     だからさ、これからは僕が呼んだら直ぐこの部屋に来てよ。フフフ。」
夢子「はぁ!?何言ってるの!?」
アルフレ「ブラピ、可哀そうなんだろ?君が助けてあげなきゃ。」
夢子「貴方は自分の思うつぼになってほしいだけでしょ?」
アルフレ「…まあそんな感じ。」
夢子「はぁ…ほんっと最悪。って言うかこんな勝手、ベレト先生に怒られるよ?」
アルフレ「怒らないよあの人は。だってあの人だって君が来るの大歓迎なはずだし。」
夢子「…やっぱり私の周りの人って感覚が可笑しい…」
ブラピ「アル兄!俺は何処で寝たら良いー!?」
アルフレ「‥‥ああ、君ね。何処でも良いよ。ぶっちゃけもう君の事はどうでもいいから好きにしな。リビングでも廊下でもトイレでも。
     …あ、僕の部屋以外でお願いね。自室に夢子以外の他人を入れたくないんだ。」
ブラピ「流石アル兄!心の広さがぱねぇ!!」
夢子(単に用済みで興味失っただけでは?ってかトイレは流石に‥‥)
アルフレ「ああ、夢子。もうひとりの僕には合鍵の事、内緒だよ。」
夢子「え、なんで…」
アルフレ「何でって‥‥ルフレなら鍵見た瞬間速攻窓から投げ捨てるでしょ。」
夢子「まあそうだろうけど。っていうか私はその方が良いのに。」
アルフレ「ダメだよ?そんな事されたらまたブラピが家無しになるよ?それでもいいのかい?」
夢子「…私を脅してるの?」
アルフレ「そんな怖い事はしてないつもりだよ?寧ろ好意だから。ちゃんと受け取ってね。フフフ。」
夢子「・・・。」


夢子はアルフレに合鍵を渡された。
こんなもの渡されても全く嬉しくない。
寧ろ恐怖しか感じない。
流石サイコパス…人に与える恐怖の圧が凄まじい。
でも、夢子は思った。


夢子(ブラピが此処に住むのならばいざと言うときはブラピに助けてもらえるのでは?)

夢子はブラピに目をやった。
ブラピはリビングのソファーの上で跳ねている。
…小学低学年の子供か?

夢子(アレ…ほんとに頼りに…なるのかな…いや、無理ゲーよね…)

期待が薄れていく。
アルフレは不気味に笑っている。
まるで彼の手のひらで踊らされている感じが否めない。

夢子は思った。
そして咄嗟にアルフレに言う。


夢子「ねぇ、まさか…こうなる事予想してブラピの事を突き放してたとか、そんなんじゃないよね?」

アルフレ「…さぁ?」


…確信犯だ。彼は遠かれ遅かれこうなる事を見越してた。
流石腐っても軍師と言ったところだ。


夢子「何度も言うけど…合鍵貰ったからってそんな頻繁に出入りしたりしないからね?」
アルフレ「なんで?」
夢子「なんでって…」

自身の身が危ないから、
に決まってる。
何を当たり前な事を言わさせようとしてるんだこの男。

アルフレ「大丈夫だよ、何もしないから。」

っていうかさっきも家に入った瞬間ハグしてきただろ、と夢子は疑いの目を向ける。

アルフレ「んー…僕ってそんなに信用されてない?フフフ、参ったなー。」
夢子「少しはルフレを見習ったら?」
アルフレ「試そうか?…ねぇブラピ、君に質問だけどさー
     …もし突然誰かが君に《ピットの事を見習え!!》って言われたら…素直に見習う?」

ブラピ「無理!!!」

アルフレ「…ね?実際白と黒ってこんなもんだよ。生理的に無理なものは無理なんだ。」
夢子「性格的な問題もあるんじゃないの‥‥?」
アルフレ「人は個性が大事だろ?僕は僕の魅力があって…そのうち君を虜にする予定だし。」
夢子「結構です。じゃあ、私そろそろ帰るから。」
ブラピ「あ…ちょっと待て!!」
夢子「…何?」



ブラピ「…今日はありがとう。夢子。」


夢子「‥‥!!!」

ブスではなく名前で呼んでくれた。
ちゃんと、正式に面と向かって名前を呼んでくれたのは初めてだった。
夢子は笑った。
笑った夢子はとても可愛い。
ブラピは少し照れくさそうな顔をしている。
アルフレはというと…

嫉妬でブラピに黒い笑みを向けていた。

ちょっと、どころか…大分危ないかもしれない。
とんでもない場所にブラピは住むことになったかもしれない。
大丈夫なのかホント。






夢子は50階の自分の家に戻った。
そして一連の話を剣士男子達に話す。
合鍵の事は伏せて。


夢子「…ってことで、ブラピは今日から80階に住むんだって。」
ピット「ええ…あのブラピが…!?っていうか夢子よく手名付けたね?アイツ結構手強いと思うんだけど。」
夢子「正直ブラピよりアルフレのほうが色々難しいんだけど。」
ルフレ「…もしかして、アイツに何かされた!?」
夢子「いや‥‥何も‥‥。」


スカートのポケットには銀色のそれが入っている。
剣士男子達にもだがルフレには絶対に言えない。

夢子(‥‥時間の問題かもしれないけど…どうにかやり過ごそう。)




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