68

夢子「はぁ…色々大変な事になってきたね…」
わたあめ「くぅん?」


夢子はまたわたあめを散歩させて歩いていた。





【68=俺だって生きるのに必死なんだッ!!】



なるべく一人で外に出るのは危険、とは言ったものの
たまには一人の時間も必要だ。
それに明るい時間帯に、ひと気のある場所ならばクレイジー達も迂闊には手を出してこないだろう。
夢子はいつもの運動公園に来ていた。
予想通りやはり人は沢山いる。これならば…

夢子「今度は逃げ出さないでよ?わたあめ。」
わたあめ「わん!!」
夢子「ちょっと疲れたから木陰で休もうか!」
わたあめ「わんわん!!」


夢子とわたあめは木陰のあるベンチへ向かった。
座ろうとすると、気が付いた。
そう…



見覚えのある汚い字で名前らしきものが書かれた水筒に。



夢子「あ…これって…もしかして…いや、そうに違いない。」

夢子が何かを察した途端、背後に気配を感じる。

ブラピ「…おい、またお前か。」

振り向くと案の定ブラピが立っていた。

夢子「あのね…君、お前とか止めてくれる?失礼すぎない?」
ブラピ「ああ、そうだったなブス。」
夢子「ブスはもっとイヤなんだけど?私は夢子。いい加減名前くらい覚えてよね。一応同じクラスでしょ?」
ブラピ「は?本当の事言ってるだけだろ?何で否定する?」
夢子(くー相変わらずムカツクわこの人…)
ブラピ「…お前いつもココに来るのか?」
夢子「そうだよ?このコの散歩にね。」
ブラピ「ふーん。」
夢子「…貴方こそココによく来るのね?またその水筒持ち歩いて…」
ブラピ「ああ、そうだよ。ココは俺の庭みたいなもんだから。」
夢子(この人日本に来て1か月って言わなかったっけ?何でこんな偉そうなの…?)
ブラピ「そうだ、お前さ折角だから手伝ってよ。」
夢子「…は?何を…?」

ブラピは夢子の腕を掴むと引っ張りながら進み始めた。

夢子「ちょ!」
ブラピ「目的地はすぐそこなんだ。…奴等がいる。」

ブラピは凄い真剣尚且つ怖い表情をしていた。
夢子はその顔を見て震える。
腕を引かれ連れてこられた場所は林だった。
夢子は息を飲む。

夢子「もしかして…敵がいるとか?」
ブラピ「ああ。しかも、大勢な。アイツ等はかなり手強い…」
夢子(ゾクッ…!!)
ブラピ「夜も勿論襲撃しやすいけど、今は油断する時間帯だからな。ここで奇襲をかけたら奴らも一溜りもないだろうな。」
夢子「わ、私まだ心の準備が…」
ブラピ「こんな事もあろうかと武器持ってきたんだ。お前にも貸してやるよ。俺のとっておきの神器を。」
夢子「武器だなんて…私は魔導書と短剣くらいしか触ったことが…」

ブラピ「は?何言ってんの?」

夢子「…え?」
ブラピ「はい、これ。」

そう言われブラピから手渡されたのは軍手と虫取り網だった。


夢子「…え?」
ブラピ「くっくっく…これで、奴らを根こそぎ捕まえるんだよ。」


絵に描いたように目が点になる夢子。
状況が全く理解できない。

夢子「…ねえブラピ。」
ブラピ「なんだ?」
夢子「一応聞くけど…これで何を捕るの?」
ブラピ「は?セミに決まってんだろ。」

夢子「…。」


夢子は黙り込む。
そんな彼女を見てブラピは騒ぐ。

ブラピ「お前さーもしかして《私女子だから虫触れませーん!キャー!》ってタイプか?ハッ、冗談は顔だけにしとけよ。」
夢子「いや…触れるし…。はあ、一瞬でも真剣になった私がバカだったなって。」
ブラピ「何言ってんだよ、これは真剣勝負だろ!!こっちだって命かけてんだよ!!」
夢子「そんな‥‥虫取りくらいで命かけるって…」
ブラピ「ああ、うるさい、折角俺が貸した神器《100均の虫取り網》があるんだからお前は黙って手伝えばいいんだよ!」
夢子「何で私がセミ捕らなきゃいけないのよ…」

グウウウウウ・・・・


すると、何処からかお腹の鳴る音が聞こえてくる。
夢子ではない。勿論わたあめでもない。

…目の前のこの黒髪ショタだ。

ブラピ「‥‥うう‥‥。」

腹の虫と共に一気に威勢が無くなり辛そうな表情になるブラピ。

夢子「…貴方、もしかしてお腹空いてるの?」
ブラピ「す、空いてねーよ!!3日前から何も食べてないとか死んでも言わねーから!!」

グウウウウウ‥‥

強気になってもやはりお腹の虫は素直に鳴いている。
しかもどんどん大きくなる。

夢子「はぁ…やっぱりお腹鳴ってるじゃない。そんな強がらなくてもいいんじゃないの?」
ブラピ「くそ…あの駄女神、こっちの世界に来る際は少しは金目の物渡してくれると思ったら無一文で放り出すだなんて…
    今はマスターには謁見できないし、お陰で俺はなけなしの金でネカフェ生活…。」
夢子「…意外と大変だったんだね?」
ブラピ「大変どころじゃねーよ!!おまけにやっと見つけたアル兄にも突き放されるし…俺は何か悪い事したか!?酷すぎる!!」
夢子「じゃあ聞くけど、貴方…セミ捕った後、どうするつもりなの?」




ブラピ「食うに決まってんだろ!!此処にいる奴等全部捕まえて素揚げにすんだよ!!」

夢子「・・・。」



ブラピは本気でセミを捕まえた後食べようとしていた。
それほどお腹が空いて困っている様だった。

夢子は散々酷い呼ばれ方をしていたが
大きなため息を付いてブラピを引っ張った。

ブラピ「おい!?なにすんだブス!!セミが逃げるだろうが!!」
夢子「セミなんて食べたらお腹壊すよ。」
ブラピ「昆虫食も知らないのか?これだからお前みたいな凡人は…」
夢子「その凡人が今から美味しいご飯のあるレストランに連れて行ってあげると言ったら、どうする?」


ブラピ「ーーー!!!」



夢子はブラピを見てて思ったのだ。
自分も昔ひとりぼっちだったとき、お腹を空かせてずっとベランダから空を見ていた時があった。
あの雲が食べれたらいいのに、と。
するとそこに半額になった弁当を買って持ってきてくれた黒がいて。
あの時仲良くふたりで半分こして食べた弁当はとても美味しかった。
立場は違えどブラピもまだ日本に来て1か月。
知らない土地で所持金も少なくひとり孤独にしているのかと思うと
この生意気な態度も少しはマシに見えてくる。


夢子「さあ、行こう。今回は奢ってあげるから。」

ブラピ「…こ、今回はついて行ってやる!!///」

ぶっきら棒に答えるブラピを見て夢子は笑った。
わたあめもブラピを見て尻尾を振っている。
やっぱり人間は食欲にか勝てない。
…いや、この人は天使だからそもそも人間ではないのかも?
…そんな事は今はどうでもいい。
とりあえずお腹を満たして貰おう。
夢子はそう考えていた。





【いいね!!】






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