□人で身も心も凍てついていたのに、人の優しさで何もかもが溶けていく…そんな気がした。1【番外編】



雨粒は叩きつけるように身に当たり
雷鳴は恐ろしい音で轟く。








【人で身も心も凍てついていたのに、人の優しさで何もかもが溶けていく…そんな気がした。1】





ニーア達は東街道で薬草を採取した帰りだった。
数時間前までとても晴々としていた空が今は黒雲が広がる。


ニーア「雨脚がこんな激しくなるなんて予想外だったな…。」
白の書「う…ページが濡れそうだ。」
カイネ「ボロ本が更にボロくなりそうだな?」
白の書「うるさいぞ…少しは黙らんか。」
エミール「夢子さん、大丈夫ですか?僕らはこういうの慣れてるけど…」
夢子「…大丈夫です。前は一人で濡れたけど…今は賑やかで…
     なんだか楽しいです!」
白の書「うむ…つくづく変わった少女だな。…む?なんだあれは…。」




目の前に急に現れたのは巨大なマモノだった。
大きな大剣のようなものを天に翳す。
落ちてきた落雷を吸収しはじめる。
そしてこちらを見据える。




ニーア「マモノがこんな芸当見せびらかしてくるとはな…。」
カイネ「この辺でこんなマモノ出現するって…聞いたことないぞ?」
エミール「新種のマモノかもしれませんね…なんか最近そういうの増えてません?」
カイネ「新種だろうがなんだろうがそれでも私らには敵ではない。」
白の書「…来るぞ…!」

マモノが突進してきた。
全員軽々とその技を避けて見せる。

ニーア「コイツ、パワーはあるがその分動きが鈍い。」
カイネ「ふふ、私の好物だ。」
エミール「カイネさんは素早いですからね!」
マモノは夢子をじっと見る。
その様子を見たニーアが機嫌を悪くする。


ニーア「なんでマモノは夢子ばかりを見る…?夢子を見つめていいのは俺だけだ!」
エミール「…ニーアさんマモノに嫉妬してる…。」
カイネ「もう突っ込むところ多すぎるが…あえて言わない。」
白の書「夢子のこととなると可笑しくなるからな。」



大剣のマモノは夢子に突進してきた。
思い切り大剣を振り回し夢子に当てようとしてくる。
夢子は水たまりに足を取られ滑って転んでしまう。


夢子「キャッ!」


大剣のマモノはニヤリと笑みを浮かべたように見えた。
そして夢子に目掛け大剣を振りかざす。


夢子(…殺される…!)





ギィンッ!!!


辛うじてニーアが槍でマモノのその剣を受け止める。
しかし今は雨。
濡れた槍からマモノが吸収した雷の電撃がニーアに伝わる。


ビリビリビリ!!!



ニーア「クッ…!」


ニーアは痺れて地面に膝をつく。
感電して動けないのだ。
夢子はすぐにニーアに近寄る。

夢子「ニーアさん!」
ニーア「だめだ、夢子。今、俺に触れないほうがいい…。」

カイネは当たりを見回す。
そして微笑むと突然走り出す。
エミールが戸惑う。

エミール「ちょ、カイネさん!どこ行くんですか!?」
カイネ「エミール、少しの間辛抱してくれ。」
エミール「えええ!?僕一人で戦うんですかー?ひどい!」

エミールは戸惑いながらも杖を構える。

エミール「普段は遠くからちまちま攻撃してる僕だけど…本当はすごいんですからね!
     …実験兵器7号としての本気、見せましょう…!!」



夢子は痺れているニーアの傍から離れない。
心配そうに隣に座り込む。

夢子「私の不注意でこんな麻痺状態に…ごめんなさい…。」
ニーア「…大丈夫だ、あと数分も立てば動け…」


その時だった。


足音が聞こえる。

その足音は段々と近づいてきて…
四足歩行?…人の足音ではない。



カイネがイノシシに乗って走ってきたのだ。

カイネはイノシシをニーアと夢子の横で急ブレーキを掛ける。
夢子「カイネさん…この子は…。」
カイネ「私らが普段乗り回してる野生のイノシシだ。
    こういう時便利でな…よし、夢子、ニーアのこと見てくれるか?」
夢子「はい…!」
カイネ「では…」


ドサッ!!!


カイネはニーアを蹴り上げてイノシシに無理やり乗せた。
そして夢子も後ろ側に乗る。

ニーア「カイネ…一体何を…」
カイネ「コイツが安全地帯まで運んでくれるだろう。」
夢子「カイネさんとエミール君は…!?」
カイネ「私たちなら大丈夫だ。この電撃バカマモノの首獲らんと気が済まん。な、エミール。」
エミール「はい!…ニーアさんをビリビリにした罪は重い…」
カイネ「…だ、そうだ。…頼んだぞ。」


カイネはイノシシのケツを叩く。
イノシシは勢いよく走り出す。



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