68


【68】



沙羅「夢子。」



夢子が起き上がると階段の横にある隙間から沙羅が姿を現した。
彼女の片足が上がっている。

夢子「沙羅…貴女が私を転ばせたの‥‥?」
沙羅「ふーん顔面が傷だらけになればって思ったんだけど。残念。
   …そしてようこそ、幻失国へ。
   恐怖と絶望しか生まれないこの国はどう?素敵でしょ?」
夢子「こんな場所で貴女は何を求めてるの…?」
沙羅「私が欲しいのは黒さんから与えられる愛だけよ?」
夢子「愛なら今までも沢山貰ってたじゃない‥!
     小さい頃ころからずっと3人で遊んで…勉強して…育って…」
沙羅「それだけじゃダメなの。私はそういうものを欲していない。」
夢子「沙羅…お願い…いつもの今ままでの沙羅に戻ってよ…」
沙羅「今までの私が偽りの私だったの。今が…これが本当の私。」
夢子「貴女は今邪竜の瘴気に…」
沙羅「例えそうだったとしても、黒さんを好きな気持ちは今も昔も変わらない。」
夢子「沙羅…。」
沙羅「クレイジー様には企みがあるみたいだけど、そんな事どうでもいいの。
   私は貴女を消す。今から私は貴女を消す。」
夢子「私は沙羅とはもう戦いたくない…。」
沙羅「そう?じゃあ大人しく死んでよ?」
沙羅はポケットからナイフを出した。
鋭利な刃は鈍く光る。

夢子「いや…やめて…沙羅…。」
沙羅「貴女が居なくなれば黒さんは私だけを視界に入れてくれる…」
夢子「ダークにぃはきっと私が死ねば悲しむわよ…?」
沙羅「その悲しみで開いた心の穴を私が埋めるの。
   暖かで揺るぎない愛情で…私は…



    夢子、さようなら。」

沙羅はナイフを勢いよく夢子に向かって刺す。

夢子「…!!」





おかしい。




―・・・痛みが全く無い。



夢子は唖然とした。そして沙羅は悲鳴をあげる。






黒が夢子を庇い沙羅の攻撃を受けていたから。



黒「クッ…!」
沙羅「い…いやああああ!黒さん…!!なんで…!」
夢子「ダークにぃ!?」
黒「‥夢子、怪我は…ないか…?
  沙羅…お前もまさかこんなに夢子の事嫌ってるなんて…
  昔のお前じゃあり得ないな…」
夢子「嗚呼、ダークにぃ…今止血を‥‥!」
沙羅「私は…黒さんを傷つけるつもりは‥‥!ううっ…!」
ダーク「誰にでも過ちはある…さ。俺にも…あるように…」
夢子は必死にダークを止血する。
沙羅は自分がした過ちにショックしその場で崩れる。


夢子「うう…血が止まらない…このままじゃダークにぃが死んじゃう…!!!」
ダーク「心配するな夢子、今の俺には治癒する力がある。
    …時間がたてばこのくらいの傷は直ぐふさがる…はずだ。
    …さっきはゴメンな…ダークに意識を乗っ取られたとはいえあんな事を…」
夢子「ダークにぃは何もしてないわ。直前で踏みとどまってくれた…
      私は信じてた、ダークにぃは強くて優しいから負けないって。」
ダーク「さあ、アイツ・・ルフレのとこに行ってくるんだ。助けてやれ。お前の大事な人なんだろ?」
夢子「うう…」
ダーク「泣くな、夢子。お前に涙は似合わない。
    沙羅、お前もだ。そんなに震えるな。このくらい俺は何ともないから。」
沙羅「ごめんなさい…ごめんなさい黒さん…私はついに貴方をこの手で傷つけてしまった…。
   こんな…ここまで醜くなってしまったの…私は…。」
ダーク「行け、夢子。俺はここで沙羅と話をしておく。早く行け。」
夢子「ルフレを取り戻したら絶対に二人を迎えに行くから…!」





夢子は駆け出した。
再び長い階段を下りる。
いろんな思いが葛藤する。
頭の中がパンクしそうなくらい混乱している。
でも―…足を止めない。
今はルフレのことだけを考えよう。
そう思いながら最後の階段を下りた。

すると次は長い廊下が現れる。
暗くて長い廊下。
夢子はそっと廊下を歩く。
すると人の気配を感じた。
夢子は辺りを見回す。
飾られてる大きな甲冑があった。
その後ろに隠れて気配を放つ人間を伺う。


ふたり。
二人の気配。
その二人は一対一で話している。




ルミレとアルフレだ。


【いいね!!】

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