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夢子は魅惑の赤い花を森の中で追いかけていた。






【60】






夢子はいつの間にか森の最深部へと踏み入れてしまった。
ここはファイター達とも入った事のない未知の領域。
木々が生い茂り影が重なり日差しが入らない程。
まだ午前中のはずなのに、とても暗い。

赤い花は夢子を導くように咲いては消えた。
そして、消えるのをやめたその先に一人の女性が立っていた。
その女性の手にあの赤い花が咲いている。


夢子「…誰?!」
???「あら?彼から私の話聞いてないんですか?」
夢子「…なんの話?」
ルミレ「ああ、彼はシャイなのね。じゃあ私から自己紹介しますわ。
    私は【ルミレ】。クレイジー様の側近です。以後お見知りおきを。」
夢子「クレイジー…!?ってことはアルフレの仲間?!」
ルミレ「あんな方と一括りにされるのは少々不満ですが…まあいいですわ。
    今日は2度目の挨拶を、ね。1度目は昨日ルフレ様にしたのですが…
    凄く警戒されてしまって。フフ…切ないですわ。」
夢子「そう…ルフレの様子がおかしかったのは全部貴女のせいね!?」
ルミレ「そんな怖い顔しないでください。ルフレ様も貴女みたいに怖い顔してましたわ。
    …なぜ皆私にその様な顔をするのでしょう?」
夢子「目的は何?ただ私を誘導したわけじゃないでしょう?」
ルミレ「貴女が追ってきた赤い花。綺麗だったでしょう?」
夢子「…貴女の仕業ね?…確かに綺麗だったわ。初めて見る花だったから…。」
ルミレ「これは私が造り出した造花なの。精気も細胞もないわ。」
夢子「…!!!」
ルミレ「造り物でも美しいでしょ?手に取って触れたいと思うでしょ?」
夢子「…それがなんなの?」
ルミレ「私もそういう存在なの。美しい造り物。愛でるための玩具。」
夢子「どういうこと…?確かに貴女はとても美しいけど…何が関係あるの?」
ルミレ「言ったでしょ?造り物なの。私はドール(人形)。
    クレイジー様によって造られた完璧な人形…のはずだった。」
夢子「人形!?」
ルミレ「ええ、血の通った人間に見えるでしょ?でもね…」
ルミレは手にナイフを持つ。
そして突然自分の首を斬りつけた。

ザクッ!!

夢子「!?」

その斬られた傷口から血液は出てこない。

ルミレ「ね…?私には貴女達みたいに赤い体液は流れてないの。ドールだから。…完璧というのは嘘ね。」
夢子「そんな…そんな事があるなんて…」
ルミレ「沙羅さんはいつもこうして毎日真っ赤になってるけど。」
夢子「沙羅…!?沙羅は元気なの?真っ赤って…どういう意味よ!?
ルミレ「そのままの意味ですわ。…なぜ彼女が毎日あんなことしてるのか
    私には痛みも気持ちも理解できないです。」
夢子「酷い…沙羅をこっちに返して…!」
ルミレ「彼女は幻失国側に自ら来たのです。…止める以前の問題ですわ。」
    そういえば黒さんが貴女の事心配してましたよ?」
夢子「ダークにぃが…!」
ルミレ「それにアルフレも。ふたりとも貴女に夢中ね。…そして私にも彼らの様に欲しいものがある。」
夢子「…何を…?」




ルミレ「ルフレ様よ。」



夢子「!!!」



ルミレは頬に手を当て顔を赤くする。

ルミレ「昨日村を焼いたのは私。そして彼を見つけてしまった。
    悲鳴と怒号が入り乱れ村が赤い炎に包まれる中、
    彼は的確な指示で皆を誘導していた。
    その瞳には一切の迷いが無かった。
    空っぽな私に初めて感情が生まれた気がしたの。
    【愛】とは?‥彼となら分かり合える気がする。
     そして私は教えてもらうの。彼から本物の【愛】を。」
夢子「言っとくけどルフレが好きなのはー・・・」
ルミレ「ええ、夢子さん、貴女なんでしょ?わかってるわ。今はね。
    だから私は貴女から彼を奪うの。良い案でしょ?」
夢子「私の事傷つけたくないって…この事だったんだ…ごめんね、ルフレ。」
ルミレ「さあ、夢子さん。本当に貴女の事を心から愛してくれる義兄、もしくは
    もうひとりの…アルフレのとこに行きましょう?」
夢子「いやよ…!アルフレの事は兎も角ダークにぃには合わせる顔がない…。」
ルミレ「貴女の事本気で考えてるのよ?」
夢子「正直ダークにぃが私に向けてる感情がなんなのか‥なんなのかわからないの。」
ルミレ「私にはわかりませんが、これも変わった形の【愛】なのでしょう?」
夢子「理解したくない…わかる気もしない…私は誰を本気で好きになれば良いの?」
ルミレ「手っ取り早く言うと全ての支配を統べるのならばクレイジー様のモノになることね。」
夢子「それが一番意味わからないんだけど。」
ルミレ「クレイジー様の事、お嫌い?あのお方も素晴らしく整った顔立ちだと思いますわよ?
    …まあ、そうですね、ルフレ様には劣りますか。」
夢子「そういう問題では…。」
ルミレ「さあ、夢子さん。貴女が誰のモノになろうが関係ないですが…
    一緒に幻失国に来て、ルフレ様も一緒に連れて来てくれませんか。」
夢子「そんな選択迫られても…。」
ルミレ「貴女とルフレ様の命で大勢の民が救われるのですよ?
    そして、大事なお仲間も。何もかも平和じゃないですか?
    貴女にとっても光の民にとっても良い事尽くめ。」
夢子「私は皆を守りたい…でも皆とずっと一緒に居たい…
      それはもちろんルフレともずっと一緒にー・・・」









夢子が言葉を言いかけた瞬間、後ろから聞き慣れた声が響いた。
優しくて、いつも側にいてくれた・・・




ルフレ「夢子、僕は君を愛して本当に良かった。」



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