31

ニーアとカイネとエミールが戦闘態勢に入った。
夢子は声を殺し、泣いていた。




【31】



戦い始めた3人。
異形のソレは大きくて長い腕を振り回す。
戦略など無い、海老の様な甲殻のソレは我武者羅に暴れていた。

夢子はニーアを見つめる。
先ほど傷めた腕のせいで上手く力が出せていない事に気が付く。
夢子は杖を構えた。


夢子「助けなきゃ…!助けなきゃ…!でも…怖い…!」

足が震える。
途端崩れてしまった。
今までの敵とは違う。

そう、


この敵は、強い。


戦い慣れてない夢子でもそれは察することが出来た。

上手く戦えないニーアをサポートするように
カイネとエミールが交互に攻撃をする。
ニーアは剣が上手く使えない事を自身でも解っていた。
ソレと距離を保ちながら白の書が弾丸を放つ。

少しずつだがソレに攻撃は効いていた。

しかし、攻撃が当たる都度、ソレの怒りは増していく。




夢子は感じた。

これは…







ソレは且つて…人だったのだと。




夢子は震える脚に力を入れる。
杖を支えにゆらゆらと立ち上がる。

夢子「ニーアさんは私の居場所を作ってくれた…
      私だって、ニーアさんの心の拠り所になりたい…
      大切な仲間を救いたい…!
      怖くない…怖くない…怖くない…」

夢子の目に光が宿った。
杖を掲げ詠唱を唱える。
緑色の光が杖に溜まる。

そして夢子はニーアの腕に向かって杖を向ける。


緑色の光はニーアの腕に集まる。
そして、傷を癒していくー・・・。


ニーア「…!?痛みが消えた…!?」

夢子は力を使い切り再び崩れてしまった。

夢子「ニーアさん、勝ってください…」



ニーアは治った腕の手のひらを握りしめる。


ニーア「これで本気が出せる。
    夢子、ありがとう・・・。
    カイネ、エミール、ふたりも援護ありがとう。
    後は…俺が殺る・・・!!!」











夢子はいつの間にか夢を見ていた。
気づくと目の前にヨナがいた。

夢子「ヨナちゃん…?」
ヨナ「夢子お姉ちゃん、久しぶり。」
夢子「私…役に立ててるのかな…
     いつも迷惑かけてばかりで…。」
ヨナ「十分だよ。夢子お姉ちゃんは十分戦ってる。
   お兄ちゃんだって、他の皆だって、わかってるよ。」
夢子「ヨナちゃんは、素敵なお兄さんがいて幸せだね?」
ヨナ「うん、ヨナの自慢のお兄ちゃんだから…!」
夢子「私、絶対いつかニーアさんと皆とヨナちゃんの事、助けるからね!」
ヨナ「夢子お姉ちゃん、強くなったね!」
夢子「え…?」
ヨナ「最初に会った時よりずっとずっと強くなってるよ。
   精神的にも、技量的にも…。
   それに、凄い良い笑顔が出せるようになった…!」
夢子「そうかな…?」
ヨナ「だから、これからもお兄ちゃんの側に居てね!ヨナとの‥‥約束…だよ‥‥?」



ヨナの姿がぼやけていく。
そして夢子の意識もぼやけて来て…






夢子は目を覚ました。
視界に入ってきたのは心配そうな顔をしてるニーア、カイネ、エミール、そして白の書だった。


ニーア「夢子!?良かった、目が覚めたんだな!?」
夢子「…あの怪物は…?!」
カイネ「私たちの勝利だ。ニーアがあの後ボコボコにしたからな。」
夢子「そっか…良かった…」
エミール「ごめんなさい…僕がワガママ言ったからこんなことに…。」
カイネ「承諾した私も悪い。攻めるなら私を攻めるんだ。」
ニーア「さっきのアイツは・・・なんだったんだ?」


エミールが答える。
普段より声のトーンを下げて。



エミール「あれは‥‥推測ですが…実験に失敗した者のなれの果てです。


…そう、僕と同じ実験された人だった者…」



夢子「‥‥!!」

やっぱりそうなんだ、と夢子は思った。
エミールは続ける。


エミール「実験されたのは僕と姉さんだけじゃなかったんだ…
     きっと、僕と同じくらい…いや、僕よりも辛い目に遭って…
     ずっと…千年も前からこの施設を彷徨っていたのでしょう。
不完全なままで、ずっとずっとずっと。」
夢子「だから…あんなに負の感情が伝わって…。」
エミール「でも、ニーアさんが倒してくれました。
     …きっと彼も救われたと思います。
     やっと安らかに慣れたんです。」
ニーア「それは良いとして…お前なんでこの洋館に戻ってきたんだ?
    街から出て居なくなってたから心配したんだぞ?」
エミール「…姉さんの形見が欲しくなって…此処になら何処かにあるはずって思って…。」
カイネ「結局何も見つからなかったな。」
エミール「しょうがないですよね、時が経ちすぎている…
     …気が遠くなるような年月ですから。」
夢子はエミールがとても悲しい気持ちなのを察した。
そして、エミールをそっと抱きしめる。

エミール「夢子さん…?」

夢子「エミール君は強いね…。でも、形見なら心の中にありますよ。
      今はハルアさんとひとつだもの。
      手元になくても心の中に生きている…。」
エミール「…こんなにも切ない気持ちなのに、涙が出ないなんて…僕は…こんなにも醜くて…」
夢子「エミール君はひとりじゃないよ。」
エミール「うううう‥‥!」


エミールは涙は流せないが、心の中で泣いていた。
何故神は私達にこんな過酷な運命を背負わせるのか。
夢子は神と言う存在を恨んだ。
いいや…神などもう既に…








私たちは普通に生きて居たい、ただそれだけなんだー・・・・



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