23

枕を抱きしめてニーアの部屋へやってきた夢子。
その表情は何処か浮かない。
一方ニーアは…心底心臓がバクバクしていた。








【23】

※この章はニーア短編夢〜人で身も心も凍てついて〜を閲覧した後に読む事を推します。※

















夢子「ごめんなさい、寝るところでしたよね…?」
ニーア「い、いや!全然!寧ろ夢子の事考えてたから‥‥
夢子「…???私??」
ニーア「ほんと、大丈夫だから、気にしないでくれ…。」
夢子「なんか変な感じしますけど…まあいっか。」
ニーア「夢子も眠れないのか?」
夢子「はい…色んな事考えてて。‥‥私の昔の事とか。
      少しずつ思い出せてきたんです。」
ニーア「良かったじゃないか。」
夢子「それが…良い思い出じゃなくて。」
ニーア「‥前に言ってた【石を投げられた】とかの話か?」
夢子「‥‥はい。」




夢子は静かに、そして淡々と話し始めた。
自分の過去と向き合うために。
そしてニーア達に知ってもらいたいから。
もう一度…人を信じてみたかったから。














夢子「私は…このエリアからずっとずっと北の街に居ました。
     その時は毎日暮らすのが大変で。
     その街はお世辞でも豊とは言いにくい場所で…所謂スラム街です。
     仕事も食べるものもなくて、毎日苦しくて。
     私は廃墟に身を隠していました。一人でずっと。家族もいませんでしたから。
     それでも雨風は凌げない時もあって。寒くて…寒くて…ひもじくて。
     そんな時、その廃墟に見知らぬ男共がやってきました。
     何なのか、誰なのか…わかりませんでした。
     …彼らの目的は私の体でした。
     そして、彼らは無理矢理私と関係を持ちました。
     その日以来、そんな事が度々あって。
     私はもう身も心もズタズタで‥‥この街から逃げようと決心しました。
     すると、この男共の奥さんたちが言うのです。
     【あんたが私の男をとった】って。
     土砂降りの雨の日、私は遂に逃げました。
     でも皆に追いかけられて…石やゴミ、その辺に落ちてる物、凶器となるもの。
     全て私に投げつけてきました。
     私は傷だらけになりました。靴も履いてるはずもなく
     足も血だらけになりました。
     走って走って走り続けました。

     そして道に倒れ込んでいる時、とある男性に拾われました。
     その人は私に温かい食事と寝床をくれました。
     …私は嬉しかった。初めて人の優しさに触れた気がしました。
     でもその優しさには裏があった。
     ある日私は突然奴隷商人に売られました。
     …彼は私をお金を得るための道具として綺麗にしてただけでした。
     その後は散々です。
     綺麗な服は着れました。食べ物も美味しいものを食べれました。
     雨に濡れる事もありません。寒くもない。

     でも…夜は最悪でした。以前と何ら変わらない。
     相手は大体貴族の下品なオジサンで。
     財力を片手に下品なことばかりしてくる。痛くて痛くて気持ち悪くて。
     毎日夜が来てお風呂に入るたび鏡に映る自分の姿が醜くて。
     
     私がこんな格好しているのは・・・
     【醜い自分を忘れないため】なんです。
     私は人を不幸にする。私は醜い。私は汚れている。
     それを忘れないために。戒めなんです。
     …男の人は皆誘惑してるとしか言いませんけどね、
     ロボット山の弟の様な人がほとんどですし。
     
     そんな中、夢で声が聞こえたんです。
     それがヨナちゃんだったんでしょうね。
     私は再び逃げる事にしました。
     走って走って走って。
     一度も振り向かず走りました。
     そしたらいつの間にか見慣れない平原にいて、黒くて大きなマモノと対峙しました。
     もう、死んでもいい‥‥そう思いました。生きるのに疲れたから。
     …そんな中ニーアさん達に出会って救われました。


     …これが私の過去です。
男性が怖いのもこの事が原因です。
     ニーアさん、私の事もう嫌いになっていいですよ。
     私は汚れてる。身も心も汚い。汚れ切ってしまった…
     どうせ皆最後は嫌いになるんです。
     ニーアさんは昔の事話してた時に自分は汚れてるって言ってたけど
     ヨナちゃんの為だったし、私から見たら寧ろ綺麗ですよ。
     私は…真の芯から腐りきってますから。
     守るものも救うものも大切なものも何もない空っぽな私。
     それが【夢子】なんです。
     でも、私はもう一度だけ人を信じたくなってしまった…。
     私ってバカですよね。何回同じ過ちを繰り返すのかな。」





ニーア「・・・。」




夢子は全部話し切った後、強く後悔した。
やっぱり話すべき話じゃなかった、と。
やっと手に入れた安定した幸せを自分で壊す。
夢子は苦しさで息が詰まりそうだった。





ニーアは手をあげる。




夢子は…殴られると思った。
…結局それが定めなのだと。
強く目を瞑る夢子。


・・・。



・・・?



痛くない。




ニーアは夢子の頬にそっと手を当てていた。
そして優しい顔をして一言だけ。







ニーア「ひとりで今までよく頑張ったな。」







夢子「・・・・!!!」




夢子の瞳から自然と涙が溢れる。
ニーアはその涙を拭った。




彼女にとってこの一言は大きな一言だった。





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