13


開いた壁の穴から自爆ロボットを大量に抱えて立っているニーアの姿が夢子の目に入る。








【13】




夢子は涙を流してニーアを見つめる。


まだ恐怖とパニックで声は出ない。
しかし夢子の瞳から溢れる涙が声を表していた。



ニーアの顔に笑みはない。
真顔でもないその顔は






殺気に満ち溢れていた。






ニーアは素早く夢子を襲う寸前の弟を引きはがす。
そして壁に弟を叩きつけ、素早く駆け寄り首を絞め持ちあげる。

弟「ぐっ…!」
ニーア「お前は…夢子に一体何を…」
弟「フ・・・フフ、あの状態見てわからないんですか…ヒヒ。」
ニーアはさらに強く弟の首を絞める。
それはもう器官を潰し首の骨を折る勢いで。
白の書が止めに入る。
白の書「ニーア、こやつのしたことは許されない事だが…一旦落ち着け…。」
ニーア「落ち着く…?この状態で誰が落ち着ける?!」
ニーアの顔には今まで夢子に向けていた柔らかい表情は一切ない。
眉間にシワが寄り眼光が開いて歯を食いしばっている。
ー・・・殺す寸前だ。今の彼には殺意しかない。
カイネが言う。
カイネ「ニーア、このクズの事は詳しくないがコイツがいないと他の人間が困るのだろう?
    それにクズでも一般人だ。‥‥今殺める事は‥‥。」
エミールも言う。
エミール「冷静になったほうがいいかもしれませんね。一応彼の言い分も聞いてみます?」
弟の首を絞めていたニーアの手が少し緩んだ。
それでも殺意は収まりそうにない。

弟「ゲホッ…!ゲホッ…!

弟は首を抑え酸素を吸う。
ニーア「何故あんなことをした?」
弟は殺されかけた後なのにまだ薄笑いをしている。

弟「‥‥寂しかったから…。」
ニーア「お前は寂しいって理由だけで女性を襲うのか?!」
弟「だってこんな場所に来る女性なんていないでしょ。
  だから…夢子ちゃん見た時超絶カワイイって思って…
  …だから…彼女にしたくて。」


ドカッ!!!

ニーアが弟の顔を思い切りぶん殴る。



ニーア「彼女!?誰に許可を得た!?お前にに夢子を彼女にする権利などない!いや、俺が許さん!
    寧ろ彼女にする権利があるのはこの俺だ!」


白の書「いや…突っ込み所が多いのだが。」


ニーアの後方ではカイネは泣いて震える夢子をそっと抱きしめている。
夢子の恐怖は収まらない。

ニーア「大体彼女にしたいから襲うだと…?順番逆だろ!?お前はそこまで頭可笑しくなったのか?
    何かが欠落してても一般常識はそれなりに心得てるとは思ってたんだが…失望した。」
弟「…じゃあ…今回の品のお代、いらないから…夢子ちゃん貸してよ。」


ニーア「はぁ!?お前本当に殺すぞ?!」


弟はモジモジする。
弟「べ…別にイヤらしい意味じゃないよ…夢子ちゃんと少しだけデートさせてほしい…フヒ。」


ニーア「断る。それだけは許さん。デートは俺がするからお前はダメだ。」

弟「…そう。」
ニーア「今回の件があったからお前宛ての依頼は今後は受け付けない事にした。
    世の中探せばお前より良い腕の武器職人もいる。
    …ロボット山には用事があって来ることはあるかもしれないが…
  




    
     俺たちを見かけても接触するな。特に夢子には。
     守れなかったら‥‥その時は本当に殺す。」

        

弟「そんなに怒ることなの?アンタって夢子ちゃんの何?」
ニーア「将来の嫁さんだ。」
エミール「あー!僕がニーアさんお嫁さんにしようと思ってるのに!」
白の書「いやいや会話の内容がおかしい。」


ニーアはカイネに抱きしめられた夢子の元にそっと近づく。
夢子は青ざめ冬の雨に濡れた子犬のようだった。
カイネ「…そっとしておいてやれ。暫くはな‥‥。
    この子にも深い闇がある。私たちにもあるように。」
エミール「夢子さん…。」
ニーア「兎に角今日はもう村に戻ろう。コイツ(弟)は…自分一人でも戻れるだろう。」
ニーアは最後の最後に弟を睨みつける。
弟はうつむいて不気味な顔で笑っている。




ニーア達はロボット山から足を遠ざけることにした。
外に出るころには夕陽が空にあがっていた。
辺りはオレンジ色の光に照らされる。


【いいね!!】

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