【7】







ふたりと1冊の間にはしばらく沈黙が続いていた。
夢子は涙を浮かべ、白の書は黙り込み、ニーアの頬には赤い手形がついて腫れている。
沈黙を破ったのはニーアだった。


ニーア「なぁ…夢子。‥ごめん。頼むからこっち向いてくれ。」
夢子「ふんっ。」
ニーア「さっきのは俺が悪かった。許してほしい。」
夢子は涙目でぽつりとつぶやく。
夢子「私、男の人に触れられるのが怖いんです。
     だからさっきは高い所から突然飛び降りる怖さもあったけど
     ニーアさんが私を抱っこしてること自体も…怖かったんです。
     何も掴むものが無いから貴方を掴んでたけど…本当に恐怖しかなかった。
     それで、気を失って目が覚めたら…あれですよ?
     私の気持ち、少しは理解できましたか?」
ニーア「頼む、俺の事…嫌いにならないでくれ…。」
夢子「…今回は許しますよ。あの大きなトカゲから守ってくれたのは事実だし。」
ニーア「良かった、これでいつも通りでいいんだな!よし!」
夢子「いつも通りも何も今日出会ったばかりですが?」
ニーア「これからも夢子の事は守るから!」
夢子「…それは私の使命です。」
白の書「…とりあえず丸く収まったと捉えていいのか…?」
ニーア「当り前だ!夢子と俺の仲だぞ!?」
夢子「…だから今日出会ったばかりですからね?」
ニーア「そうだ、夢子には俺の事も、少し話そうか。」
夢子「?」










ニーア「俺も…人に髪を触られるのが嫌なんだ。」





ニーアは先ほどとは打って変わって暗い表情で言った。
夢子は驚く。
夢子(この人がこんな悲しい顔するだなんて…)
ニーアはハッと顔をあげ、また普段通りの表情に戻る。



ニーア「‥‥ああ、ごめん。この話また今度話すよ。」
夢子「理由はわからないけど、なんだか私と似てますね?」
ニーア「俺なんか汚れてるから…きっと夢子とは違う。君は純白だ。
    俺はもう身も心も俺は汚れ切ってるから。
    そして…これからもマモノの血を幾ら浴び続ける事やら…。」
夢子「ヨナちゃんを救えばそういう日々も終わりますよ。」
ニーア「…励ましてくれるのか?」
夢子「一応パーティーメンバーですからね、これからは。」
ニーア「…ありがとう。」
白の書「カイネとエミールはそろそろ戦い終わった頃合いではないか?」
ニーア「そうだな、静かになった気がする。カイネの家の方角に戻って見るか。」






ニーアと白の書、そして夢子は崖の村の来た道を戻る。
歩きながら夢子は思う。

夢子「それにしてもここの人達なんでこんな場所に住んでるんですかね?」
ニーア「さあな、物好きの集まりなんだろう。村長も変わってるし…」
白の書「閉鎖的だな。まあ、マモノが湧くのも関係あるのだろうが。」
夢子「物騒ですよね…それに高いし…奈落だし…生きた心地するのかな?」
ニーア「俺はここに来るの慣れてるからショートカットするけどな。」
夢子「‥‥あれはもう二度とごめんです。」
ニーア「そうなのか?楽しんでくれたと思ったんだが…。」
夢子「私軽く高所恐怖症なので。」
白の書「ニーアは今日は何処か抜けてるな…」


話ながら歩いてるうちに広場まで戻ってきた。
そこには膝をついて座ってるカイネと回復魔法を使うエミールがいた。



夢子「カイネさん!エミール君!」


夢子は二人に駆け寄る。
カイネもエミールも傷が目立つ。


カイネ「…ああ、夢子か。私たちは大丈夫だ。少々手こずったが、昔ほどではない。」
夢子「じゃああのトカゲみたいなマモノは‥‥」
カイネ「それがな…」
エミール「実は後もう少しでトドメ刺せるところまで行ったんですが、結局逃げられちゃいました…。」
夢子「そうなんだ…。」
カイネ「アイツはいつも都合悪くなると逃げやがる…トカゲの尻尾切りってやつか知らんが
    ‥‥次会ったら絶対切り刻んでぶっ殺す。
    そのために私はここにいる…。」
夢子「…私も、力はないけど…サポートしますから‥!」
カイネ「…ありがとう。助かる。」
ニーア「…俺もいたらトドメさせてたかもしれないな…すまないカイネ…。
    おばあさんの仇…取れてたかもしれないかったのにな‥‥。」
夢子「おばあさんの仇?」
ニーア「あ…。」

一同口ごもる。
そんな皆の表情を見てカイネが空を見上げ言う。

カイネ「…良いんだ。夢子には話しておこう。…仲間になったしな。」



【いいね!!】

[ 305/508 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]