第3章【温もりと優しさ】




夢子「はっ…!?」
リンク「あ、起きちゃいましたか?」
夢子が目を覚ますとそこには弓を構えたリンクが立っていた。
それを見た夢子は血相を変えてリンクに聞いた。
夢子「アイツ等が…アイツ等が来たんですか…!?」
リンク「どうしたんですか?急に…」
夢子「その弓…」
夢子はリンクの左手に握られてる弓を指差し、続けて言った。
夢子「その弓でさっき何か…射りませんでした…?」
リンク「ああ、これですか。」
ほら、とリンクは夢子に右手に握ってたものを見せた。
夢子「と…鳥!?」
リンク「そう、朝ご飯の材料捕ってたんですよー。
朝から肉料理って…女性にはやっぱりキツイですよね…。
でも材料無くて…」
夢子「(…朝…?)」
空を見上げると朝日が昇り始めたのが見えた。
ホッとした表情で夢子は首を振った。
夢子「いや…そうじゃなくて…
てっきりアイツ等が来たのかと思って…よかったです。でも…」
リンク「でも?」
夢子はリンクの手に握られている鳥から目を逸らしながら言った。
夢子「その…これからご飯になるお肉だとしても
その姿…ちょっと……可哀そうというか…グロいというか…。」
しまったと顔をしかめリンクが誤る。
リンク「ああああ、す、すいません!
普通なら狩りで仕留めた鳥なんて見ませんからね…
俺、普段は一人旅してるんで
うっかり常識を忘れてました…。」
さっと持っている鳥を背後に隠し苦笑するリンク。
リンク「俺達似た者同士ですね。」
夢子「私なんかとは比べものにならないほど
立派な方だと思いますけど…。」
リンク「なぜ?」
夢子「なぜって…リンクさんには帰る場所があるし、
故郷に家族とか待ってくれる人が…」
リンク「家族はいませんよ。」
リンクの発言に夢子は一瞬固まった。
夢子「…え…?」
リンク「物心ついた時から一人で…
そのころはいつも寂しかったです。
でも、村の人達の支えと優しさのおかげで乗り越えられました。
そして今の俺がいる…だからー…」
リンクはそう言うと夢子の頭にポンと手を置いた。
リンク「夢子さんも周りの人を頼ってください。
一人で抱え込まないでくださいね。
…言いたいことがうまく言えませんが。」
夢子「ごめんなさいっ…何も知らないで辛い過去思い出させてしまって…。」
リンク「過去は過去ですからね。いつまでも束縛されたら先が見えなくなります。
だから気にしないでください。
…さて!急いで朝ごはん作りますね。」
夢子「あ、私も手伝います!いろいろと迷惑かけてばかりだし、
少しでもお礼を…」
リンクは夢子の頭から手を離すと
人差し指で夢子の額を軽く押した。
リンク「ったく、自分が病人ってこと忘れたんですか?」
夢子「でも…」
リンク「お礼は夢子さんが元気になる事ですよ。
…あー無理されて悪化したら困るなー」
そっぽを向きワザとらしくリンクは言う。
夢子「わ、わかりましたっ!」
リンク「そうそう。女の子は素直が一番ですよ。」
夢子「…む。」
少々顔をふくらます夢子を見てリンクは笑う。
そして自然に笑ってる自分がいることに夢子は気づいた。


小鳥の囀りが響き、眩しい太陽の光が森全体を照らす。
食事も終わりリンクは何やら身支度をし、荷物をエポナに積んでいた。
その様子を見ていた夢子はあることに気づく。
夢子「リンクさん…それは剣ですか?」
リンク「そうですよ。」
荷物の半分以上が武器。
そしてリンク自身も背に剣と盾らしきものを背負っている。
夢子「職業は商売人とかなんですか?」
リンク「…これが珍しいのですか?」
うんうんと頷く夢子を見てリンクは続ける。
リンク「これは神器の内のひとつ。
神々の依代…退魔の剣『マスターソード』。」
夢子「退…魔…?」
リンク「―悪しき心を持つ者は触れることべからず。
神々に選ばれし者が再び剣の鞘を手にとる時
世界の平安への道を開く鍵となりて…」
夢子「リンクさん…?」
リンク「昔の言い伝え…伝説として残る言葉です。
…たく、神様も無責任ですよね。
自分達の過ちを一人の人間に背をわせるなんて。」
夢子「……」
リンク「…なーんてね。」
夢子「…え・・・ええ!?今の嘘だったんですか…?!」
あっさりした表情でリンクは言う。
リンク「信じたんですか?」
夢子「…信じてましたよ!だって真剣な顔して話してたし…
…あー!またからかったんですか!?」
リンク「…あはは。」
夢子「わ…笑わないで下さいよ!」
リンク「すいません…夢子さんが純粋なんでつい…
ちょっかい出したくなると言うか…。」
夢子「…もしかしたら…その選ばれし者が…
リンクさんなんじゃないかな…
責任感もありそうだし…
―なんて思った私がバカでした…。」
リンク「そう思ってくれたんですか…あはは、嬉しいです。」
夢子「本当は面白がってるくせに…」
エポナに荷物を載せ終えたリンクは
座っている夢子に手を差し伸べ言う。
リンク「さぁ、行きましょう。」
その手を取り立ち上がる夢子。
少々足元がフラつくが昨日よりは大分良くなったほうだった。
夢子「行くって…どこへ…」
リンク「とある場所に向かいます。
元々その場所へ向かう途中でしたし…
そこには腕の優れたお医者さんもいますから
丁度夢子さんも診てもらえますよ。」
夢子「そんな…!もう大丈夫ですよ!」
リンク「いいえ、ちゃんと診てもらいます。」
そういうとリンクひょいっと軽く夢子を抱き上げる。
リンク「夢子さんって軽いですねー。
今までちゃんと食事摂ってなかったんでしょう?」
夢子「重いって言われるよりはマシですけど…
って、何してるんですか!?」
リンク「何って…こうでもしないと夢子さん逃げそうですから…。」
夢子「私に拒否権は無しですか…。」
何かを言い返そうと夢子はリンクを見上げる。
リンクはいつも通りの笑顔。
エポナは勢いよく大地を蹴り駆ける。
夢子は振り落とされないようにとリンクの背にしがみついていた。
森を抜けるとそこには違う別の景色が広がっていた。
リンク「あれですよ。」
リンクの指差した場所には茂みに隠れるかのように
大きな白い建物があった。
普通の建物にしてはかなり壮大だ。
夢子「…お城…?」
リンク「あれが目的地です。」
夢子「なんだか凄い所に用事あるんですね!
まさかお城に向かってるなんて…
でも本当にあそこにお医者さんいるんですか?」
リンク「はい。あの場所は特別な場所で色々な方がいるんですよ。
…あ…そういえば……。」
言葉を止め溜息をつくリンク。
その様子を見て夢子は心配してリンクに聞く。
夢子「…どうしたんですか?」
リンク「いえ、別に大したこと無いんですけどね。
…あの方達と久々に対面するとなるとなぜか複雑な心境に…。」
夢子「?」
リンク「今回は夢子さんもいますし…
危険…いえ、少々物騒な所なので…
あ、夢子さんは安心してください。」
夢子「…なんだか安心出来なくなってきたんですけど…!」
しばらく進みやがて城の門の前へリンクと夢子は到着した。
夢子「さっき見た時も大きいと思ったんですけど
近くでみると凄いですね…!」
リンクはエポナから荷物を降ろしながら言う。
リンク「そうですか?俺は普通な気がしますが…。」
夢子「ふ…普通!?だってこんなに大きなお城ですよ?
まるでお姫様が出てきそうな…」
夢子がそう言いかけたその時だった。



ギイイイイイイッ・・・!!



突然目の前の門が大きな音を響かせゆっくりと開き始めた。


【いいね!!】

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