30

クレイジーが招き入れたその名の人物は
正にいつの日か自分とルフレが捕らわれた時に居たあのルミレだったから。
長い髪を靡かせ濁った赤い瞳で夢子を見るルミレ。


ルミレ「夢子さん、お久しぶりですわね。」








【30=薔薇の棘】










夢子「貴女…生きてたの?!」
ルミレ「生きていたら悪いです?…最も私は最初から生きてはいませんけどね。」
夢子「あの日…貴女は‥。」
ルミレ「そうですわね、一度は壊れました。かなり損傷して。
    ‥‥でも、人形は修復できますの。人と違って。ね?ガラクタは便利でしょ?」
夢子「まさか貴女…またルフレに酷い事をしようとしてるんじゃ…」
クレイジー「ルミレはね、あれからお利巧になったのだよ。」
夢子「…!?」
ルミレ「マナーは嗜みましたわ。」
夢子「信じられない…。」

クレイジー「陽が昇る頃に私達は幻失国へ一度戻る。
      それまでルミレに君の世話を頼もうと思う。」
夢子「…それって見張りでしょ?」
ルミレ「流石夢子さん、話の呑み込みが早いですわね。」
クレイジー「君にはなるべく手荒な真似はしたくない。
      …傷でもついたら私の品格が問われる。」
夢子「人を…この世界の人間をこんな風に撃ち殺していて何を…」
クレイジー「いいか?君はもう私のモノだ。」
夢子「!!!」
クレイジー「私の理想郷はもうすぐ手に入る…
      この理不尽な世の中を今度は私が滅ぼす番だ。
      兄さんには悪いが私は自分の理想を現実にする。」
ルミレ「しかし、クレイジー様、戦力が減りましたわね。」

ルミレは転がる柄悪おじさんの死体を見る。

クレイジー「手下は幾らでもいる。ウジのように幾らでも…な。」

夢子「貴方…人の命を何だと思ってるの…!?」

クレイジー「さぁな。あちらの世界でもこちらの世界でも原理は一緒だ。」
夢子「頭が可笑しい…。」
ルミレ「貴女のほうこそ…いつまでその強気を維持できます?
    もう既に他の手下たちが活動を始めている…
    あ、そうそう、ルフレ様もこちらに向かっているようですし。」

夢子「ルフレが…!?」

ルミレ「ああ…彼に久々に会えるの楽しみなのです。
    今度こそ私とずっと戯れて貰いますわ。
    クレイジー様も目的を果たせますし、一石二鳥…フフフ!」

クレイジー「夢子、君の役目は…私の目的は、兄さんから聞いているのだろう?」


夢子(ゾクッ・・!!!)

クレイジー「怖がらなくていい。まだその時じゃない。
      まずは邪魔者を排除しなくては‥‥ね。」

夢子「ルフレ達に何かしたら私は貴方達を呪う…!」

ルミレ「構いませんわ。今頃ヒト一人の恨みを買ったとしても大して変わりませんわ。」


クレイジー「ルミレ、例の薬の調合は終わったか?」

ルミレ「もう少しですわ。」

夢子「薬…!?またルフレにやったような薬を…!?」

ルミレ「ルフレ様にもまたプレゼントしたいですけど
    
    それはルフレ様用ではなく、貴女用ですわ。」

夢子「!?」

クレイジー「こうでもしないと君は私の言う事を聞いてくれないだろう?
さあ、話を戻すが…君のスマホを大人しく渡してくれ。ロックも解いて、な。」

夢子「・・・。」

ルミレ「クレイジー様、余興をしてもいいです?」
クレイジー「何をする気だ?」
ルミレ「殿方が皆喜ぶことです。」


パチンッ!


ルミレは指を鳴らした。
すると夢子の周りから茨が生えてきたのだ。
蔓が伸びて夢子の身体を縛る。

夢子「…っ!」


クレイジー「ほう…。」
ルミレ「さあ、夢子さん。大人しく言う事を聞けばこれ以上酷い事しませんわ。
    どうします?ここで1度恥を晒します?フフフ。」


夢子は先ほど柄悪オジサンに襲われかけたので服が破けている上に
露出した肌に茨が食い込む。
小さい棘が夢子の白い肌に刺さり、所々流血する。
身体のラインが強調されていく。
夢子は涙を浮かべる。


夢子「いや‥‥!」

ルミレ「さあ、答えを。」

夢子「…わ、わかったから…やめて…!」

夢子の言葉が終わると茨の蔓は消えた。
解放される夢子。

夢子「ううっ…。」

クレイジー「泣かなくていいのだよ。これから毎日君に不自由な思いはさせないつもりだ。」
夢子「矛盾してる…やっぱり可笑しい…。」
ルミレ「クレイジー様の前でそんな姿晒せるのは寧ろ有難い事ですわよ?光栄に思ってほしいですわ。」
夢子「なんでこんな……。」






夢子は泣きながらスマホをポケットから取り出し画面のロックを解いた。
長時間縛られたからか手首には赤い痕がついている。
クレイジーは微笑む。


クレイジー「暫くの間君のスマホ、私が預かる。
      安心したまえ、奴等への疑似餌のつもりだ。中のデータを覗いたりはしない。」
ルミレ「流石クレイジー様、マナーを良くお分かりですわ!」
クレイジー「ルミレ、暫く夢子の世話を頼む。ああ…手荒な事はくれぐれもしないように。」
ルミレ「手加減できる程度に頑張りますわ。フフフ。」


クレイジーは不気味な笑みを浮かべるルミレと泣きじゃくる夢子を部屋に残し
夢子のスマホを持って去って行った。





ルミレ「さあ…夢子さん。久々に楽しい遊びをしましょう?」


ルミレは笑う。濁った紅い瞳で。







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