夢子は倒れたまま動かない。
意識も朦朧としているようだった。


シュルク「誰かー!!」


【高鳴る鼓動を高温のせいにしちゃったり。4】



ドンドンドン!!バンバンバン!!


シュルクは扉を叩き必死に外の誰かに合図を送ろうとする。
しかしこのサウナ、何故か防音対策が取られて中からの音はシャットダウンされている。
それでもシュルクは扉をバンバンと叩く。
先ほど夢子が石に水を掛けたので室温がどんどん上がっていき
いよいよシュルクの意識も熱でヤバイ状態になってきた。


シュルク「夢子さん…」


扉を叩くのを止めたらいけない、誰かに気づいてもらわないと。
でも体力は熱さで削られていく。

等々シュルクもその場にしゃがみ込んでしまった。
視界に入るのは倒れてる夢子。
床を這うシュルク。
そして彼女の手を握る。

シュルク「まさか…こんな目に遭うなんて…僕が温泉なんて提案出したから…」

自然と目に涙が浮かぶシュルク。
すると、握った手を握り返す弱弱しい夢子の手。

シュルク「…まだだ、僕は諦めない…!!こんな場所で死んだら一生の恥だ!
     それに夢子さんともっと色んな場所にいって思い出作るんだ‥‥!!」

シュルクはもう一度立ち上がった。
そして扉から距離を取る。
深呼吸をして、扉を睨む。

シュルク「ふー‥‥よし、こうなったら…思い切り蹴り破る!!」

シュルクは勢いよく扉に蹴りを入れようとした。


その瞬間だった。


ガチャッ・・・



扉が開いた。

シュルク「え?」

目が点になるシュルク。
そして目の前にはマルスが居た。
後ろには剣士男子達。
喋りながらマルスが先陣を切って入ってくるところだった。

マルス「だからさーやっぱり夢子は何でも似合うから罪なんだよね、今度バニーガールの衣装とか…って

     …ん?」

シュルク「避けてくださいいいいい!!」


シュルクの蹴りが扉を開けたマルスに襲い掛かる。
思い切り力を入れていたので急ブレーキなど無理だった。
そのまま蹴りはマルスの腹部に直撃する。

ドカッ・・・・・・!!

マルス「ギャアアアアアア!!」



マルスが奥の通路に吹っ飛んだ。
謝って蹴りを入れてしまったシュルクが青ざめる。

シュルク「うわああああああ!!マルス!!ごごごご、ごめん!!」


アイク「シュルク…長い間居ないと思ったらこんなところにいたのか…?しかもマルスにあんな蹴り入れるとは‥」
リンク「日頃の恨みですか?見た限り相当怨念持ってるように見える…シュルクって意外と怖いタイプなんですね。」
シュルク「違う…違うって!!そうじゃないっ…そうじゃないって!!(涙)」
ピット「夢子!?ねぇみんな、サウナの中で夢子が倒れてる!!」
ルフレ「え!?夢子!?シュルク…これはどういう状況…!?(怒)」
シュルク「はあ…もう最悪だ…。と、兎に角今は夢子さんを…!うッ…あれ…眩暈が…」

そこれシュルクも倒れてしまった。

騒がしい声が段々遠ざかっていく。
少しだけ走馬灯みたいなものが見えた。
最後にマルスの喚き声が聞こえたがもうどうでもよかった。
そして意識は途切れた。












シュルク「ウッ・・・・」

次にシュルクが目を覚ましたのは病院だった。
白いカーテンが揺れる。

シュルク「此処は…病院…?」

院内独特の薬品の匂いがシーツからも漂ってくる。

シュルク「そうだ、夢子さんは!?」

直ぐに夢子の事を思い出すシュルク。
温泉のサウナでの出来事をはっきり思い出す。

シュルクは点滴につながれながらもフラフラと立ち上がる。
すると向かいのベッドに彼女が居た。
綺麗な顔で休んでいる。

シュルク「夢子さんっ‥‥!!」

直ぐに立ちあがって、フラ付きながら夢子の元へ行くシュルク。
ベッドの横の棚には目新しい花が花瓶に刺さっている。
誰かがお見舞いにきたのだろう。
でももうそんな事どうでもよかった。
シュルクは泣いていた。

シュルク「…何て情けないんだ僕は…」

声を殺して泣いていると夢子が目を覚ました。
ゆっくり起き上がるとオッドアイの瞳でシュルクを見つめる。

夢子「シュルク…?」
シュルク「うう…夢子さん…」
夢子「どうして泣いてるの?」
シュルク「僕が力を失ったばかりに…ビジョンさえ見えていればこんな事態にはならなかったのに…」
夢子「…そんなことないよ?シュルクと久々にふたりきりで話せて楽しかったもん。」
シュルク「でも、今回温泉行こうって提案出したのは僕だったんです‥言い出しっぺがこれとか‥‥情けなさすぎる…不甲斐ない‥」
夢子「そんなに自分を責めないで?私嬉しかったから。
        …泣かないで??ほら、もう大丈夫!!何時だってクレイジーと素手で戦えるくらい元気だよ、私!!」

夢子はシュルクの顔を撫でた。

夢子「今度は扉の壊れないサウナに一緒に入ろう?シュルクは1ミリも悪くないんだから!!」

彼女の笑顔は本当に全世界の男を虜にしてしまう。
シュルクは夢子を自然に抱きしめていた。

夢子「しゅる…く!?」
シュルク「…例えライバルが多くても、僕は絶対に諦めませんから。
     貴女の笑顔をいつか僕だけの物にしてみせる。」
夢子「‥私も自分磨き頑張らなきゃ?」
シュルク「これ以上可愛くなったら本当に周りが皆死んでしまいますよ?」
夢子「そうかな?あ、それで…ねえ、シュルク…」

夢子が急に青ざめた。
シュルクは夢子を依然強く抱きしめている。

シュルク「ああ…夢子さんとずっとこうしていたい…」

夢子が段々パニくってくる。

夢子「そろそろ…離れた方が…」
シュルク「嫌だって言ったらどうします?」
夢子「…あの…その…」
シュルク「ああ、夢子さんは何て柔らかいんだ…」

すると…
シュルクの背後からドスの利いた声が聞こえてくる。


マルス「この…僕に…ドロップキックをクリティカルヒットさせた挙句…

    この場に及んで夢子の事抱きしめて離さない…とか…柔らかい〜vだって??

    ‥‥君何考えてるの??っていうか随分元気そうだね…??

    それなら今度は僕の蹴りを掴み攻撃で100発喰らわせてやろうか??(イラッ)」

シュルク「…あ。(白目)」


この後お見舞いに来た激おこマルスと剣士男子達にボコられそうになったシュルクであった。


因みに・・・
シュルクと夢子は倒れた後すぐに温泉施設のスタッフに救急車を呼ばれてふたりとも病院に緊急搬送された。
熱中症で脱水症状が酷かったので暫く点滴を打たれて病院のベットで休まされていたのだ。
命に係わる様な重症ではないが特に夢子は脱水症状が重たかったので大量の点滴を投与されていた。
何日か寝ていたのだがその間剣士男子達が寝てる夢子に悪戯しようとやばかったらしい。
その間シュルクのベッドには誰も近寄らなかったとか。現実はこんなもんだ。


シュルク《世知辛い…。幸せな時間短すぎ…。》


抱きしめたことの野次を飛ばされながらシュルクは涙目になっていた。
でもシュルクの思い出の一つが増えた。
それは人から見て些細かもしれないが彼にとっては大切な思い出だ。
それに

先ほど抱きしめた夢子の体温は暫く忘れない。


忘れられない。









【高鳴る鼓動を高温のせいにしちゃったり。】【完】





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