沙羅「ねぇ夢子。ちょっと屋上から確認してくれない?」






【この距離感を保つべきか、それとも傷ついても近づくべきか。】






沙羅は夢子に言う。
今いるのは学校のグラウンド。
沙羅と他の同級生たちはグラウンドの砂に石灰で線を引いている。
沙羅は夢子にその線が正確に描かれているか、確認を頼んだ。





夢子「うん、わかった!屋上に行ってくるね!」



夢子は元気よく学校に戻り階段を駆け上がる。
1階…2階…3階…4階…



あっという間に屋上に来た。
夢子は屋上への入口の扉を力強く開く。



ぶわっと一気に吹いてきた風が夢子の全身を通り抜ける。




夢子「ふー、やっぱり今日はいい天気だなぁ!」


夢子は太陽の眩しさに手をかざしながら先へと進む。
そして柵の下のグラウンドを見る。
沙羅が手を振っている。


夢子「線は…よし、イイ感じね!」

夢子も下にいるメンバー達に手を振る。

これで体育系の部活も捗るだろう。


夢子は沙羅達の元へもどろうとした。

と・・・

奥の高台に誰かの気配を感じた。
スースーと寝息が聞こえる。
夢子はそっと近づいてみた。



・・・。


そこにはアイクがいた。
教科書を顔にのせて気持ちよさそうに寝ている。


夢子「アイク…見かけないと思ったらこんな場所で寝てたのね。」

夢子はクスクスと笑った。
と、その声でアイクがぴくりと動いた。
そして本を顔から退けて夢子を見る。

夢子「ぁ…ごめん、起こしちゃった…?」
アイク「…夢子か…。いいや、そろそろ起きようと思ってた所だ。」
夢子「ここ寝心地いいの?」
アイク「ああ。少しだけ日差しが眩しいが、心地いい。」
夢子「へーそうなんだ…!」
アイク「…夢子はどうしてここに来たんだ?」
夢子「いや…運動部のお手伝い!グラウンド確認するために屋上に来たのよ!」
アイク「そうか…。お前良く動くな。」
夢子「それって褒めてるのよね?」
アイク「好きに捉えて良い。」
夢子「前から思ってたけど‥アイクってほんと不思議な人だね?」
アイク「今度は逆に問うが、それって褒めてるのか?」
夢子「そりゃ勿論前向きに捉えてもらって結構よ?」
アイク「…ありがとう。」



ふと二人が見上げた空に数匹の鳥が舞っていた。
二人の頭上をぐるぐるまわると暫くして飛び去ってしまった。


アイク「夢子。」
夢子「何?」
アイク「自分の気持ちに素直になるって、簡単で難しい事なんだな。」
夢子「…そうかもしれないね。」
アイク「俺、時々わからなくなるんだ。
    周りが素直にぶつかって砕けていくのを見ていて時々恐ろしくなる。」
夢子「…?」
アイク「臆病ってこういう事なんだろうな。」
夢子「皆…人間誰しもそんなもんだと私は思うよ?それが生きてる、存在してるって事なんじゃないかな。
      人と人が生きるってぶつかる事も離れる事もあるし。」
アイク「生きている印か。」
夢子「誰でも怖いものはあるよ。」




アイク「俺は・・・」









夢子「あ、沙羅達が呼んでる…!じゃあまたあとでね!アイク!」



夢子は慌てて屋上から去って行ってしまった。

アイクはそんな夢子の後ろ姿を静かに見つめる。
そして、静かに言葉を漏らした。





アイク「俺は、お前を失うのが怖い。」



【いいね!!】



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