夢子宅の小さいベランダにひとつの植木鉢が置かれている。
その植木鉢に毎日水をかける一人の少年。
翼を失った少年は今日も植木鉢に水を与える。







【好きよりももっともっと大きい、いっぱいいっぱいの大好き。】









ピット「あ、やっと双葉が出た!順調だなー♪」

ベランダでジョウロを片手に気分のいいピット。
植木鉢には一つの芽が顔を出している。

ピット「この世界での生きがい、見付けられて良かった♪」
夢子「何してるの?ピット君。」


声をする方へと顔を向けるとそこには夢子が立っていた。

ピット「あ、夢子!見てよこれ!やっと芽が出たんだ!」

ピットは嬉しそうに植木鉢を夢子に見せる。

夢子「あ、ほんとだ!」
ピット「最近雨と雷ばっかで天気良くなかったからどうなるか心配だったんだけど…」
夢子「きっとピット君の愛情が伝わったんだよ!植物だって人間の感情解るみたいよ?」
ピット「そうなの?!」



夢子「うん。昔実験で人が植物に言葉を聞かせて育てるとどうなるか、実験あったの。」
      それで毎日綺麗だねって言い聞かせた花は長らく咲いて枯れるのが遅かったんだけど
      汚い、醜いって言い聞かせた花はすぐ枯れちゃったんだって。」



ピット「なるほど…植物も褒められた方が嬉しいんだね!
     あ、夢子も褒められたら嬉しいでしょ?」
夢子「けなされるよりはね…」
ピット「じゃあ僕この芽と夢子に毎日大好き、カワイイ、大好きって言い続けるね!」
夢子「ちょっと恥ずかしいかも…。嬉しくないわけじゃないけど…。
      あ、そういえばこの植物って何?」


ピット「それはね、マリーゴールドだよ!」


夢子「・・・・!!」





夢子は思い出した。
幻双国でピットと花壇に植えたマリーゴールドの事を。
考えてるうちに懐かしく、恋しく思えた。
ピットは笑顔で続ける。

ピット「日本にも種あるって聞いて買ってきたんだ!
    流石にあっちの世界から花の苗持ってくるわけにもいかないし
    ここで育てたらなんだか癒されるでしょ?
    だからね、僕ここでこの花を立派に咲かせて見せるんだ!」


夢子はピットの言葉を聞いて一滴の涙を流した。


ピット「え!?ご、ごめん夢子!僕何か悪い事言った!?」
夢子「ううん、嬉しくてつい…。
      私ね、幻双国で辛い時や悲しい時があったらあの花壇でいつも花を眺めていたの。
      …日本でもまた勇気貰えるなら嬉しい話よ。
      どんな困難も皆で乗り越えていける気がする。」
ピット「そうだよ!夢子には僕たちがついているから、安心して!
    マスターの言ってた見えない敵だって目じゃないよ!」
夢子「ピット君って人を励ますの上手いよね!皆その言葉に救われてるよ。」
ピット「僕は思ったことすぐ言っちゃう癖あって…」
夢子「その言葉に勇気づけられるんだよ!」
ピット「僕ね、いつか広い庭にお花沢山植えてお花畑作りたいんだ!
     そこで夢子とランチしたい♪」
夢子「素敵な夢ね!…いつかこの狭い家から出れたらいいけど。」
ピット「アルバイト?とか僕するよ!夢子に楽させてあげたいし!」
夢子「頼りにしてるよ!」
ピット「その前にまずはこの目の前のマリーゴールドを立派に咲かせる!
    肥料とかもこだわったほうがいいのかなー。」
夢子「そうだね…成長するにあたって工夫したほうがいいかも。」
ピット「空、晴れてくれないかなぁ…。」
夢子「祈りは絶対に届くよ!」




そして1時間後。
黒雲が広がっていた空はピットの願いが通じて見事に晴れ渡った。
ベランダに座りながらピットと夢子は会話をする。


ピット「夢子の言った通り晴れたね!」
夢子「ピット君天使だし、融通利いたのかもね?」
ピット「パルテナ様もしかして僕の願い聞いてくれたのかな?なんて…」
夢子「アハハ、それもあるかもね!」

するとピットは立ち上がった。

ピット「よし、マリーゴールドが立派に育つように肥料買いに行こうかな!」
夢子「私も一緒に行っていい?」
ピット「勿論!寧ろ一緒に来てほしいって言おうと思ってた♪」
夢子「園芸仲間でもあるわね、私達って!」
ピット「そーだね!」



ピットと夢子は肩を並べて部屋から出て行った。
植木鉢の芽から一滴の水が落ちた。




【いいね!!】

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