どこにもない楽園



※妄想捏造ご都合主義にて注意。


「いいかよく聞け。私はお前が誰に劣情を催そうが私に誰を重ねて何を思おうが知ったことではないし、そんなくだらない思考に割く時間など落ち合わせてはいない」

腔内に溜まったオイルを吐き捨てる。べちゃりと音をたてて床に潰れ落ちた液体を一蹴するよう、ゆっくりと地に伏していた機体を起こす。先程までこちらの頭部を踏みつけていた相手は何かを期待するよう至極楽しげに笑っていた。


「ただ、今この瞬間だけはお前の良いように欲求を満たしてやろうと言っているんだ。勘違いするな。貴様らディセプティコンが掲げる破壊の精神に屈したわけでもお前の大好きな破壊大帝に忠誠を誓うわけでも、ましてやお前の暴力に膝を折ったわけでもない」

「私が、私の意思で、この瞬間だけ、お前に心を分け与えてやるだけだ」


かつてより自分が師のように敬愛した友人から与えられ育ててきた柔らかな部分を、ディセプティコンの、それもオーバーロードなどにくれてやるつもりなのだと知ったらラチェットは怒りにフェイスパーツを歪めるだろうか。それとも、与え与えられることこそ医者の本質だと言ってくれるだろうか。

「…ドクター」

値踏みするように見下ろしてきた機体の影にほんの僅かに極寒の惑星で心身ともに自分を凌辱した奴らの顔が浮かんだが、オーバーロードの憐れみを滲ませた声音に思わず笑みがこぼれた。虚勢も意地も何もない、ただただ純粋にスパークの根源から湧き上がった感情。自然とつり上がった口許が嘲笑をかたどることすら察していたかのように細められたオプティックが一瞬だけ、本当に一瞬だけ、とても愛おしいもののように感じられた。

巨躯が片膝をつく。僅かばかり近くなった赤いオプティックが爛々と光を放つ様をぼんやりと見つめ、あぁ、と一つ息を吐いてゆっくりと立ち上がった。先程まで殴られていたせいか、妙に視界にノイズが混じる。震えそうになる膝を悟られないよう顔を歪めた。美人が台無しだと小さく笑う言葉を相手の膝に乗り上げることで黙らせ、ついと指でなぞった目の前の唇はまるでそうすることが暗黙の了解であるかのようにファルマの指先に口付けた。繊細な器具を扱う医者の手に破壊者が服従の意を示す図に目を細める。確固たる嫌悪と同情と愉悦と、ほんのひと握りの愛おしさを生むこのスパークはやはりオーバーロードと何も変わらず同一のものでしかないのだとファルマは何度でも思い知らされる。

そうして何度でも師と仰いだ友人が恋しくなる。

「……お前は可哀相な奴だな」

「だがドクターには理解できるだろう」

「破壊大帝に陶酔する神経など理解したくもないが」

指先から手の甲、腕へと這う唇がゆっくりと弧を描いて笑う様に腹立たしさを感じる。何がおかしい、と低く睨め付ければオーバーロードは楽しそうにこちらを眺めたあと、いや、と否定の言葉を漏らした。

「手が届かない存在に憧憬する感情なら誰よりも理解しているだろうにと思っただけだ」

あぁ、あぁ、うるさい。無駄なお喋りを遮るように噛み付いた唇は思っていたよりも温かく、あっけないほど無抵抗にファルマからの口付けを受け入れた相手の腕はどこにもいくことのできない哀れな鳥の翼を撫でた。


(不幸せな堕落がふたつ揃ってかたちをとれるようなそんな幸福も、ある)





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