光の粒子がふわふわと宙を泳いでいる。 ぽぅ、と淡く光を灯した両目でその光景を捉えたスペリオンはまず、眩いばかりのそれにかすかに目を細めた。酷く温かな心地がする。ふわふわと機体が漂う感覚に違和感を感じながらそっと頭を持ち上げると、どうやら自分が真っ白な空間に浮かんでいるのだということが分かった。 「ここは…」 周囲を見回した拍子に散った光の粒子に思わず動きを止める。目覚めた直後に視界に映った発光体の正体がこの無数の小さな球体であると察すると同時、頭から首や胴、両手足それぞれにと広範囲にスペリオンの機体を覆っていたそれがまるで意思をもっているかのように動き始めた。慌てて身を起こせば、前後左右不覚の空間でかすかに上下し浮かんでいるらしい自身の機体が目に入る。 ここはどこだろうか。たしかに私は普段通り寝台に横になったはずなのだが、と抱いたこの状況への戸惑いは目の前で繰り広げられる光景に遮られた。 スペリオンの目の前で急速に身を寄せ合い、形を成していく光の粒子。大まかな輪郭を表した次の瞬間には頭部や胴体、脚部などの細部をはっきりと露わにした一体のトランスフォーマーがスペリオンの前に佇んでいた。驚愕のあまり目を見開く。自身とほとんど配色の変わらぬ同型の機体。引き結ばれた口元の代わりに小さく細められた青いオプティックの輝きに、ふと懐古の念がスパークの底から湧き出してくるような気さえした。 「…兄、さん」 スペリオンは放っておけば何事かを叫びそうになる己の口を咄嗟に閉じた。吐き出したい言葉は山ほどある。もしも再び邂逅できたならばと叶うはずもない幻想に嘆いたこともある。だというのに、切望したそれがいざ自身の目の前に突きつけられた今、まるで四肢が消失したように機体が全ての動作を停止してしまった。スパークからじんわりと滲んでいく驚愕と歓喜と哀愁が次から次へと溢れていき、かすかに発声回路を震わせたようだったが、どうにも意味のある音にはならなかった。 白一面の空間に姿を見せたのは他の誰でもない、スペリオン自身の兄だったのだから。 『スペリオン』 ふと、それまで武人然と引き結ばれていた口元がほんの少しだけ緩み、親しみのこめられた微笑に変わる。自分と瓜二つのフェイスパーツであるはずなのに僅かの隙もない雰囲気と思慮深さを纏ったその表情は間違えようもなく兄のもので、ブレインでは処理できている事実に機体が取り残され、一瞬呆けた姿のまま立ち尽くしたあと。堪らずスペリオンは勢いよく兄の懐に飛び込んだ。 |