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ドン、と機体を押さえこんできた相手の手が妙に熱をもっていたことだけ、はっきりと分かった。

突然ブランカーの自室に連れこまれた事実に抗議する間もなく、身動きを制限するだけだったそれが痛いほどの力でこちらの体を掴んでくるのを感じる。放せ、と悪態をつきかけた言葉は何の前触れもなく重ねられた唇に吸いこまれた。部屋の扉に押しつけられ、無遠慮に唇を貪られる。荒い排気を繰り返しながら擦りあわせるように触れ合わされる互いのそれがとてもむず痒い。時折角度を変えて重ねられるブランカーの唇は随分前に触れ合った時よりも柔らかく熱っぽくて、普段の真面目一辺倒の男の様子からは程遠い情熱的なキスにただでさえ少ない余裕がガリガリと削り取られていくような心地だった。

はふはふと陸に打ち上げられた魚のように無意識に開閉するクロームドームの口にブランカーの舌が押し入ってくる。常時マスクで覆われているせいか生まれ持ったものなのか、腹立たしいことに手慣れた様子の相手よりも経験が少ないどころか皆無と言ってもいいほどなので判断がつきかねるが、兎にも角にもクロームドームは無遠慮に口内を荒らされるのが苦手だった。異常なくらい敏感に反応してしまうのである。その事実に気づいたのは、いつだったか目の前の男とこういった行為をする間柄になってからだった。

今でこそ脚部が震える程度で済むが当初は舌同士が触れ合うだけでも過敏に反応し腰が抜けてしまって、その度に子供扱いされたものだ。未だにどうしたって不慣れな自分を知っているくせにこうしてわざと執拗なほどの前戯を求めてくるのはそういう意図なのだろう、とクロームドームは考えていた。舌を絡み合わせたときのピリピリとした微弱なパルスの感触と粘ついた水音に頭の奥が熱を上げていく。顎を掴まれてさらに口をこじ開けられる。この野郎、と冷却水の滲んだ視界で揺らぐ青を睨みつけた。


「はっ……は、ぁ、…んんんッ!」


まるで獣みたいだ。体が火照って仕方がないというのに思考の端だけが妙に冷静に今の自分が置かれた状況を吟味していて気持ち悪い。少しでも機熱を逃がそうと突き出した軟金属の舌は大きく口を開いたブランカーの歯によって引っ張り出され、ぢゅう、とわざとらしい音をたてて腔内オイルごと啜られた。恥ずかしい。死にたい。息が苦しい。せめてもの意思表示にと震える拳で叩いた相手の胸元で小さな音が鳴る。ささやかな抵抗になどびくともしない逞しい機体が、どこか優しげに和んだ青いオプティックが、この上なく、憎たらしい。


「…クロームドーム」


不意に名前を呼ばれ霧散しそうになっていた意識を繋ぎとめれば、そろそろと持ち上げられたブランカーの手が首筋に触れてきて意思とは関係なく機体が震えた。この手に以前本気で掴まれ、排気が上手くできずにされるがままだった時のことを体が覚えているのかもしれない。そんなつもりなどないのに無意識に怯えすくむ腰は相手から逃れようとしてしまい、背後の扉にざりざりと背中を擦りつけるだけの意味のない行為を繰り返すはめになる。ほんの少しだけ相手を責める気持ちが湧いたが宥めるように腕や頭を撫でてくる掌の感触は思ったよりも心地よくて、結局飼い慣らされた動物のように安心しきった機体からは次第に力が抜けていった。そこで初めて自分が思わず体を強ばらせていたことに気づいて何とも言えない感情が胸に交錯する。

そんなクロームドームの心境を知ってか知らずか、おそらく前者だろう、酷く楽しげに弧を描いた青い両目が視界を埋めた。口内を蹂躙していたブランカーの舌が何の前触れもなく勢いよく引き抜かれる。ちゅ、と小さくリップ音が鳴った。名残惜しげに互いの間を結んだ銀の糸を切羽詰ったように舐めとった相手の排気の熱さが濡れた唇に触れて叫びだしそうだ。はぁ、と互いの間を行き来する荒い呼吸音がどちらのものかすら真っ白に塗りつぶされたブレインでは上手く判断できない。


「…ベッドへ行くぞ、」


あからさまな言葉にかぁぁあとフェイスパーツが熱を帯びる気配がした。柔く頬を滑り降りていくキスが気恥ずかしい。それを誤魔化すようにならあんたが運んでくれよ、と震えて使い物にならない脚部を責めるように恨みがましく見返せば相変わらず意地の悪い笑みを浮かべた相手にあっさりと機体を抱え上げられてしまった。これからされるだろう行為など簡単に予想がつくというのに、それでもなおさらに機熱をあげる体が疎ましい。

部屋の入り口から奥のベッドまでたった数歩、決して丁寧とは言えない運び方をしているくせにこちらの様子を見逃すまいとするような真っ直ぐな視線に堪え切れず殴りつけた拳は今度こそカコンと大きな音を鳴らした。



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