Second To None



「正気なのか」

目の前の同型機と同様、鋭く突き刺さるような空気をまとった言葉はサンダークラッカーの頭を揺さぶった。分かっている。そんなものは錯覚だ。けれど一航空兵でしかない自分とは違い地位も、他者を惹きつける魅力も、科学者としての優秀な頭脳も、憧憬して止まないすべてをもったスタースクリームの言葉はそれだけで何かの価値があるような気さえした。

カラーリング以外ほとんど兄弟機といっても差し支えない相手なのだから、これも劣等感から起こる錯覚なのだろうとは思うが。


「…何のことだか分かんねぇな」

「誤魔化すんじゃねぇよ。こっちはとっくにお見通しなんだ」


爛々と光る赤い目が、俺をみる。同じ顔。
なのに吐きだされる言葉は俺を追い詰めていくようで、じわじわと押し潰されるような感覚を軽減するために意味もなく手を握ったり開いたりした。スタースクリームはその動作を咎めることはないし、かといって見なかったふりをするわけでもない。ただ眺めている。

こういった場合、サンダークラッカーは改めてスタースクリームとの違いを思い知るのだ。同じ顔。けれど一見すれば粗雑な印象さえあるこの同型機は実のところ慎重派である。元科学者なだけあって論理的思考のもとに動くことが多いスタースクリームは、やはり今も自分の真意を探らんばかりに見つめてくるだけだ。先程からスカイワープに叩きつけられた言葉たちがブレインに蘇る。兄弟機である紫のジェットロンの一連の言動が自分のためだということはサンダークラッカーにも十分に伝わっていた。彼が純粋な善意と意思によって行動したのだということも理解しているつもりだった。

たとえそれが自身が好意を寄せる情報参謀を批難し侮辱する類の言葉であったとしても。


「サンダークラッカー」

「…んだよ」

「俺にもワープにも背ぇ向けてたら、お前の相談相手なんか永久に見つからねぇぞ」

「……、」

「…あいつが何言おうが関係ないだろ」


てめぇのことはてめぇが決めりゃあいいだけの話だ。

そうとだけ呟いた音声には、確かに、どこまでも卑怯な俺を包みこんでくれるような温かさがあった。はっとして焦点の彷徨っていたオプティックを向けた時には、すでにスタースクリームは俺の肩を数度叩いて歩き去ったあとで。

やっぱりあいつは俺やスカイワープといった兄弟機にはとことん甘いのだと思う。甘すぎる。けれどそんな優しさを欲していたのもサンダークラッカー自身なのだから、結局のところすべてが自分の我が儘なんだろう。自身の矮小さにやるせない気持ちを抱えたまま立ちつくす。一人だけ取り残された廊下は静まり返り、少し遠くで響く誰かの笑い声や物音といった喧騒すら酷く現実離れしたもののように思えた。


それでも、サンダークラッカーには会いたい相手がいた。
会いに行こうと思っていた相手がいたのだ。


だから虚無感に蝕まれていくような感覚を引き摺ってでも自分の意思で歩きだしたし、ゆっくりと、けれど確実に歩調を強めていった。それはやがて急きたてられるように早足になり、ついに我慢できずに駆けだす。会いたかった。とにかく会って話がしたかった。きっと多忙な相手は今も忙殺されんばかりに仕事にかかりきりになっているはずだ。決して緊急の用件があるわけでもない、ただの一航空兵が何をしにきたのだと問われれば何もないと答えるしかない。とんだ愚行である。だが、それならそれでいいのだ、と誰にともなくサンダークラッカーは弁解した。別に話すことがないなら話さなくてもいい。ただあの強く加工された声が聴ければ、特徴的な青い機体が見られれば、それでいいのだから。



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