しらじらと明けていく夜



とてもとても綺麗だね君もそう思わないかいと囁くとそうだなと返されるそっけない声。たった一言だけ零して黙りこんでしまった爛々とした赤い単眼は今も遥か彼方の夜明けを凝視している。

元から普段吐き出す言葉の少ない彼は何かに意識を集中させている時さらに無口になる傾向があるからきっとここまでの会話で一瞥すらされない僕の存在は今のショックウェーブにとって明ける太陽と沈む月よりも軽いのだろう。
ただ、不思議と妬む気持ちが湧かないのは僕自身がこの景色に魅了されているからなのかも知れない。

ゆっくりと白みを帯びていく薄水色の空には少しばかり濁った灰色の雲が点在していて、まるで夜明けを歓迎するかのように長く延びている。ほんの微かに赤みがかかった街並みは太陽の光を反射して煌めいているのに物音ひとつしない。

「きれ「お前はおそらく黙っていた方がいい」

「…それはどういう意味だいそもそも僕の発言を遮るなんていつもならどんなにくだらない戯言でも一応は最後まで聞く几帳面な君にしては珍しいじゃないかいや僕は別にそれでも構わないがで「煩い」

面倒そうな声音で呟くショックウェーブの肩がふと上下する。あぁ溜め息をつくなんて酷いじゃないか。再び開きかけた口元には先手を打つように鋭い指が当てられ、遠くを眺めていた赤い目はようやく僕の方へと向けられていた。

何だか分からないけれど不躾に言葉を吐けばきっと彼の機嫌はあからさまに降下してしまうだろうから首を傾げてみせることで意思表示してみる。
少しばかり単眼を瞠った彼の姿は本当に一瞬だったけれどすごく無防備で、どんどん眩しさを増していく夜明けがその機体に反射する様にすら目が奪われてしまった。


「ブラ―」


優しい音が響く。口に触れる指の感触が消える。眩しい。とても至近距離に寄せられた単眼は普段よりちょっとだけ細められていてそこに映る自分の呆けた姿が見える。あぁもうまったく朝陽はなんて眩しいんだろうね、おかげで君の顔がよく見えないじゃないか。実際には見た目よりもさらに細い腰に腕を回した。

緩く引き寄せれば瞠目し瞬きを繰り返す瞳が視界を埋めた気がしたけれどやっぱり良く見えなくて、思わず眩しいねと囁けばあぁそうだなと何かを悟ったように強張っていた機体から力を抜いて僕に寄りかかってきたショックウェーブを反射的に受け止める。


その肩ごしにはやっぱり白んだ空を塗り変えていく太陽の光があって、胸の奥をそっと浸食していく奇妙な切なさと愛おしさに堪えきれず瞬いた両目から溢れ続けるものが彼への想いそのものなんじゃないかと思った。


(きみがあまりにうつくしすぎて なみだ)



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