わたしをみて



私にぶつければいい。

おおよそ他機に押し倒され跨られている者の台詞とは思えないほど静かな声でそう囁いたウルトラマグナスに、ロディマスは熱の上がったブレインが一気に冷やされるような感覚を覚えた。無意識に排気が漏れる。眼下の青いバイザーから逃げるように顔を上げれば少し遠くに無造作に放られたマトリクスが目に入った。先程自分が投げ出したものだ。英知の結晶が宿す輝きがウルトラマグナスの機体色と重なって、尚更くらくらと目眩がする。

先程まで機体を包んでいた苛立ちをぶつけるようについ引き倒してしまった青い機体は驚いた素振りすら見せずこちらの動きをうかがっているようだった。静かな声は続く。

「あんたが抱える後悔も苦悩も憤りも全部ぜんぶ、私にぶつければいい。私のせいだと押しつければいい」

「マグナス…!」

「ロディマス司令官。あなたがそう望むだけ、どこまでも身勝手になればいいんです」

床に伸びる両腕が大人しいと分かっていてなお押さえ続けるこの寸足らずな機体を、マトリクスを有してもいない"ただのホットロディマス"に過ぎない自身をそれでも司令官と呼ぶ相手に対しロディマスが抱いたのは、間違えようもないほどの恐怖だった。まるでスパークの底から冷たい何かが侵食していくような感覚。強固な意思をもった声が恐ろしい。

ロディマスは歯噛みした。こんなのは不毛だ。ちがう、とようやっと告げた声の震えすら今の自分を嘲笑っているようでまともにウルトラマグナスの顔を見ることすらできない。何て情けないのだろう。

「すきなんだ」

ただ一言の好意の言葉すら気の迷いだと呑みこんではくれない相手に苛立っているのか、彼が自分から受け取るすべてが"好意"ではなく"命令"として認識され処理されていく事実に憤っているのかすら、ロディマスには分からなくなった。



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