報告とか取り留めのない一言。
▼14/07/09(18:25) |
おぷらちぇ小話 ひとりぼっちでもいいの。 軍医としての役割をもつ者は基本的に非戦闘員として扱われる。 医療技術に長けた機体はそれだけ他機よりも戦闘技術に劣るから、などという安易な理由からではない。それも全くないとは言わないが、物資に困窮した戦時で常に重要視される存在が"医者"だからだ。エネルゴンを始めとした物資は最悪、略奪を繰り返せば手に入れることができるだろう。より高性能な武器だって両軍の優秀な技術者によって開発され続けているはずだ。 だが、医者はどうだろうか。 あらゆる金属生命体には生まれながらにある程度の配役が与えられているものである。もちろん改造を施すこともできるが、そうした人工的な紛い物では生粋の医療従事者と比べ格段に質が劣ってしまう。だからラチェットを含む"医者"という配役を与えられた者は重宝されるのだ。"軍略の駒"として。 その事実を恨んだことも医者である自身を葬り去りたくなったことも、決してないわけではないが、それでも歩み続けてきた意味があるのだと今ならば笑顔で頷くことができた。絶望するにはラチェットの周囲には仲間という名の理解者が多く、彼らが医者としてではないラチェット個人を尊重してくれたから。 ブレインの奥で青と赤の機体が美しい輝きをもった目を細め微笑む。 『Untill we meet again, old friend.』 「…All was over. I'm alone, but I don't mind being alone.」 オプティックから溢れた冷却水が頬を濡らし、機体を包み、いっそこの感情ごと記憶も流れていけばいいのにと思考する意識とは反対に、嫌だと叫ぶ心がある。決して忘れたくないと、スパークが揺れ動く。無意識に紡いだ名はここではないどこかへ届くのだろうか。「I'll be thinking of you wherever you go. 」彼がどこへ行っても、何になっても、永久に隣に帰ってくることがないとしても。それでもきっと自分は彼が与えてくれた優しさと平等と仲間たちを享受し歩み続けるのだろう。 この調子じゃあお前さんを忘れるのはまだ当分無理そうだ、と涙の跡を拭った軍医は誰にともなく笑みを浮かべ、次いでかけられた仲間の呼び声に応えるためにゆっくりと泉の淵に背を向けた。 |