小説 | ナノ

T.G.I.F.


※ジョニィが普通に歩いてます。

oh, f**k!!
これがぼくの第一声だった。だってありえないだろ、こんなこと。マジ最悪。
朝(いやもう昼かな?)、気づいたらベッドの上だった。これはオーケー。周りはどこか見覚えのある部屋(ピンクとか紫のド派手な趣味の悪いキラキラしたヤツが部屋中に散らかってる)。これもまだオーケー。ぼくは裸で、シーツを巻いてる。これも許容範囲。隣で、ディエゴが寝ている、しかもぼくと同じく、裸で。これはヤバイ。ありえない。

昨日の夜、ぼくら―――ぼくとジャイロとディエゴと、何故かマウンテン・ティム、それから前半はホット・パンツとルーシーもいた――はジャイロのアパートに集まって、メチャクチャに騒いだ。金曜日の夜だもん、って羽目を外して。持ち寄った缶ビールは早々になくなって、ウォッカをビンごとラッパ飲みしたり(それも何本も!)、甘ったるいパープルドリンクを浴びるように飲んだり、多分マリファナとかキメちゃったかも。バスソルトかな。どっちでもいいや、とにかくぼくらはすごい騒いだんだ。明け方くらいまで。サイコーに楽しかった、記憶がある限りでは。ジャイロが誰かの持って来たアメリカンハットを被って、ぼくらはそれを今世紀サイコーのケッサクだって大口開けて笑った。ついでにつばの上にでっかくGYROってマジックで書いて大笑いした。ネタにされたディエゴも横に広い口をでっかく開けてゲラゲラ笑ってた。でも、今考えたら全ッ然面白くない。
それから確か、ぼく、誰かの靴の中に吐いちゃった。飲みすぎて。ディエゴの靴かも。まあいいや、ぼくのじゃなければ。

とりあえず、水を飲んでシャワーを借りよう。胃と胸がムカムカするし、頭もガンガンする。体もべとべとしてて気持ち悪い。
ぼくはベッドから滑り落ちるようにして脱出した。ぼくの靴…靴、どれだ?どこいった?探すの面倒くさいな。これかな…。適当にひっつかんで(勿論、中にゲロ吐いてないか確認したさ!)足を突っ込んだ。素っ裸なのは仕方ない、どうせシャワー浴びるし、女の子も帰っちゃっていない筈。とりあえずシーツを巻いておく。
うわ、スゲぇ頭痛い…壁伝いに行かないと歩くのも大変。フラフラするし。
ジャイロの部屋には何回か来たことがあるから、部屋の間取りはだいたいわかる。ぼくはなんとか、フラフラする足を引きずって重い頭を叱咤して、そこらじゅうに散らばったお酒の缶とかビンとか、どピンクの羽とかそんなものを避けながら水浸しのキッチンまで辿り着いた。なんで水浸しなんだろう。昨日、水遊びでもしたっけ?
冷蔵庫から最後の一本になったミネラルウォーターを出して、口をつけて全部飲んでしまう。ジャイロには申し訳ないけど。後で買ってこよう。
冷えた水を飲んだことによって、グラグラガンガンしていた頭は少しよくなった。ほんの少しだけど。
ぼくはミネラルウォーターのペットボトルを置いて、ため息をついた…ウワッ酒くさッ!確かウォッカを目に直接流し込んだりもしたんだけど、その時は既に皆ベロベロに酔ってたから、息が酒臭いのも仕方が無い。仕方ないんだけど、でもちょっと臭すぎ。自分でもヒクくらい。
そういえば、ジャイロはどこ行ったんだろ?それと、マウンテン・ティムも。リビングには見当たらないし、まさか水浸しのキッチンにもいるわけない。
ぼくはバスルームに向かう。ちょっぴりスッキリした頭で、今度はべたべたした体を洗いたい。冷たいシャワーを浴びたい。頭から冷たいシャワーを浴びたら気持ちいいに違いない。
でも、また苦労して辿り着いたバスルームは既に満員だった。狭っ苦しいそこには、折り重なるようにジャイロとマウンテン・ティムが潰れている。見当たらないと思ったらこんなところにいたらしい。
はーあ、ぼくはまたため息をついた。シャワーは諦めよう。もうベッドに戻って二度寝でもしよう。
ぼくはため息をついたらぶり返した酷い頭痛と肩を組んでベッドルームに向かった。途中、ずり落ちたシーツに足を取られて転んだ。面倒になって、シーツは取っ払った。ウォッカのビンにも躓いて脛を打った、めちゃくちゃ痛い。脛が、っていうより、頭が。悪態をついたら、自分の声がガラガラだった。そういえば、ガラガラヘビってなんでガラガラヘビっていうんだろう。声がガラガラなのかな。
ベッドに戻って、ああそうだコイツがいるんだった。ほんっと最悪。ぼくはディエゴが大ッ嫌いだし、ディエゴだって多分そうだ。なのに、酔った勢いでこんな…ありえない。昨日のぼく、どうしてたんだろう。タイミング良く、誰かタイムマシンを開発したりしないかな。そしたらぼくは昨日に戻って、自分を引っ叩いてやれるのに。
現実逃避気味にベランダを見たら、フラミンゴが2羽、狭いそこに押し込められてた。そうか、あの散らかったピンクの羽はフラミンゴのか。ディエゴが鳥にでもなったのかと思ってた。でもディエゴが鳥になったら、気持ち悪いゲロみたいな緑色になりそうだな。いやいや、それ以前になんでフラミンゴがジャイロの部屋のベランダにいるんだ。意味わかんない。
ベッドのそばに転がってるiPhoneを拾う。青地に黄色い星が散るケースだから、ぼくのだ。どうでもいいけど、ジャイロのiPhoneケースはモコモコのクマちゃんのヤツ。夏に見ると暑苦しいし、ポケットに入らないだろうし、ホント意味わかんないよね、ジャイロって。ディエゴのは…忘れた。多分緑じゃなかったかな。ディエゴの持ち物って緑って感じするし。マウンテン・ティムは有名なディズニーアニメのカウボーイのヤツ。あいつもよくわかんない。
液晶にヒビが入ってないかどうか、ちゃんと動くかどうかを確認して、ぼくは少しだけ安心した。もしかしてお酒とかかかっちゃって動かないかもって思ってたから。でも、電源をつけた途端に表示された通知を見て頭を抱えたくなった。ツイッターの通知と、fbの通知…主にツイッターの通知で埋まってるけど。
ぼくは恐る恐るツイッターを開いて、自分のホーム画面を見て今度こそしゃがみこんで頭を抱えた。ウソだろ。信じらんない、最悪どころじゃない。死にたい。
ツイッターには昨日のぼくたちの様子がアップされてた。いつ撮ったんだか覚えてない写真もビデオも、ぼくのホーム画面にある…つまりぼくが投稿したってことだ。一番最悪だったのは、昨日のぼくが酒の勢いでディエゴにキスしてる――しかもベロチューかましてたんだぜ!オエッ――写真をアップしてたこと。このツイートがリツイートされまくって通知欄がすごいことになってた。タイムラインを見たらジャイロが(ジャイロはぼくもフォローしてるけど、誰かのリツイートでタイムラインに反映されてた)ぼくとディエゴのビデオを投稿してて、見てみたら地獄だった。ぼくとディエゴがキスをして、それからお互い脱がせあってたんだ。ぼくらがベッドに倒れこんだところでビデオは終わってたんだけど、このあと確実にヤった気がする。その上、このビデオのツイートがリツイート数がすごい。22.7Kだって…どんな顔して外歩けばいいんだよ。
ルーシーから、"昨日私たちが帰った後なにがあったの!?"とか"今すぐ写真とビデオを消した方がいいわ、もう遅いかもしれないけど…"とかDMが来てたけど、ごめんルーシー、もう手遅れだ。ぼくのアカウントをハッキングして、昨日のツイートを全部消してくれればよかったのに。無理か。ホット・パンツも一応心配してくれたみたいで、DMで一言、"早く起きた方がいいぞ"って言ってくれてた。うーん、そう言われてもぼく、このDMを見るの起きてからだからさあ…。

ぼくはなんだか、もうどうでもよくなっちゃって、iPhoneをほっぽり投げてベッドに横になった。隣にはディエゴの顔。まだ何も知らないでぐーすか寝てる。フン、起きたら地獄だからな。きっとお前は発狂するだろうね。ぼくはディエゴが起きて、全てに気づいた時の反応を想像して笑ってしまう。
静かなディエゴの寝顔を見ていたら、意外にコイツは整った顔をしてるんだなって改めて気づかされる。ツンと尖った鼻とか長いまつ毛とか真っ白なきめ細かい肌とか。ふっくらとした唇なんか、食べたら美味しそうだもの。黙ってたらカワイイのに。
そこまで考えて、ぼくは顔をしかめた。ディエゴがカワイイだって?ないない…。まだ酔ったまま、ぼくの頭はおかしくなったに違いない。ディエゴの唇にキスしたいって思うとか、マジにありえない。
ごろんと寝返りを打って目を閉じた。頭が痛い。
目覚めて早々、最悪だった。起きたら全部が夢でありますように。床に散らばったぼくらの服も飲み終えたお酒のビンやカンも、ベランダのフラミンゴも、ネットに出回った写真やビデオも、ディエゴにキスしたいって思ったことも。全部ぜんぶ、次に目が覚めたら夢だったらいい。
ぼくは、かんがえるのをやめて、その代わりゆめをみることにした。




140614 こまち
Katy PerryのLast Friday Night(T.G.I.F.)より






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -