ウェスカー's リポート


【1】

私の名前はアルバート・ウェスカー。
製薬会社ア ンブレラの研究員を目指していた私は、アメリカ 中西部の地方都市ラクーンシティにある幹部養成 所に籍を置いていたが、そこで同僚のウィリアム ・バーキンと出会い、その突出した才能の前に別 の道を歩むことを決めた。

やがて彼はアンブレラの中枢を担う科学者になり 、Gウィルスをさらに発展させたGウィルスの研究 を任され、私はアンブレラがラクーンシティのご 機嫌取りの為に創設した特殊部隊S.T.A.R.S.の隊長 を装いながら様々な諜報活動を行なっていた。

アンブレラの総帥であるオズウェル・E・スペンサ ー卿と密約を交わし、バーキンと共に当時の養成 所所長だった恩師マーカス博士を裏切った見返り がこんなものとは。
スペンサーは私の実力を見く びっている。

だが天罰は下った。
ラクーンシティ郊外にある洋 館であの事件が起き、アンブレラはその隠蔽工作 に奔走するようになったのだ。
その事件とは…

洋館付近の森で次々に猟奇殺人事件が発生。
原因 は洋館内にあるアンブレラの研究所でTウィルス が漏れ、バイオハザードを引き起こしたことにあ った。

当初、アンブレラは私にS.T.A.R.S.をこの事件に介 入させないように秘密理に指令して来たが、結局 市民感情が高まり、出動せざるを得なくなった。

それを知ったアンブレラは危機を感じた。
事件が 白日のもとにさらされるのを恐れたのだ。
そこで 、『S.T.A.R.S.を洋館におびき寄せ抹殺しろ。
そしてその状況をつぶさに本部を報告し、戦闘時にお けるB.O.W.の実戦データとして役立てよ』との指令を私に下してきたのだ。

そこで私は、まずブラヴォーチームをSポイントに 派遣した。
さすがS.T.A.R.S.の精鋭達だけあって、 彼らは自分たちの命を省みず、果敢に敵と戦い、 実戦データ採取に役立ってくれた。

続いて私は、戻らぬブラヴォーチーム捜索の為ア ルファチームを出動させた。
アルファチームの連 中も勇敢に戦い次々に死んで行った。
そして最後 に生き残ったのは、アルファチームのクリス、バ リー、ジルとブラヴォーチームのレベッカ、エンリコの5人だった。

今回の事件は私にとって千載一遇のチャンスだ。
事件の混乱に紛れて、タイラントを奪い以前から 誘いがあったアンブレラの対立企業に移る手土産 とすればいい。
だが対立企業に売り込むには、タ イラントの実戦データも必要だ。
生き残った5人は 高い能力を持ち、タイラントにぶつけるに、うってつけの存在だった。
実戦データの採取とS.T.A.R.S .の抹殺、まさに一石二鳥というわけだ。

そこで私はアルファチームにユダ(裏切り者)を 忍ばせ、タイラントまで誘導させて実戦データを 採取することにした。
ユダ(裏切り者)…その正 体はバリーだ。
奴は正義感が強く、人一倍情に厚 い男で家族を大事にしていた。
このタイプを操る のはたやすい。
そいつが大事に守っているものを 奪ってしまえばいいのだから。
クリスやジルが予 想以上のポテンシャルを秘めていたのは誤算だっ たが、バリーの裏切りで計画は順調に進んだ。

だが思わぬところで計画が狂った。
S.T.A.R.S.副隊 長兼ブラヴォーチーム隊長エンリコ。
その腕もさ る事ながら、鋭い観察力と正義感の強さで人望を 集めていた奴に、バリーとの会話を聞かれてしま ったのだ。
真相に気づいたエンリコを始末しなければならない。
私はバリーを使い、奴を追い詰め た。
だが後少しのところで邪魔が入ったのだ。

首尾よく邪魔者を始末した私はタイラントのいる部屋で、バリーが連れて来る筈の実験体の到着を 待っていた。
私はバーキンからもらったウィルス を事前に注入し、クリスが見ている前で、タイラ ントの封印を解き放ち、私自身を襲わせ、死んだと見せかけた。

対立企業に身売りするには、死んだと思わせたほ うが都合が良かったからだ。
バーキンの話では、 このウィルスの効果は絶大で、一度仮死状態にな った後、超人的な能力を身につけて蘇るというの だ。
タイラントに倒され、薄れゆく意識の中で、 私は計画の成功を確信していた。

だがまさかS.T.A.R.S.の手でタイラントが倒されよ うとは。
私は最大の手土産を失い、人間を捨てて まで立てた計画を台無しにされたのだ。
私の邪魔 をする者は、例えどんな手を使っても葬り去る。
今までそうやって生きてきた。
それはこれからも 変わることはないだろう。
必ずやS.T.A.R.S.を追い 詰め皆殺しにしてやる!

洋館事件から2ヶ月がたった。
私は加入した新しい 組織で、地に落ちた評価を取り戻すために、同じ 組織からアンブレラに送り込まれていたエイダと いう女スパイと手を組む事にした。
彼女からの情 報によると、アンブレラでは新たなGウィルスが 完成間近だが、開発した研究者がアンブレラに渡 すのを拒んでいるというのだ。

私は直感的に開発したのは、ウィリアム・バーキ ンだと確信した。
バーキンも無茶なことをする。
アンブレラの恐ろしさを知らないのだ。
恐らくこ のままではバーキンは殺され、Gウィルスはアン ブレラに回収されてしまうだろう。
バーキンには 借りもある。奴を助けGウィルスを手土産に、こ ちらの組織に引き込めばいい。

だが私の計画より先にハンク率いるアンブレラの 回収部隊が動き出し、Gウィルスを奪取しようと して、追い詰められたバーキンは自らGウィルス を注入してモンスター化し、回収部隊を全滅させ てしまった。

それから間もなくネズミを媒介にしたTウィルス の蔓延がラクーンシティを襲い、アンブレラは最 悪のシナリオを迎えた。
アンブレラはアメリカ政 府と協力し、事件の隠蔽に血眼になっている。
そ れはアンブレラヨーロッパが開発したネメシスと いう新型のB.O.W.をラクーンシティに投入した事 からも明らかだ。

我が組織もネメシスのデータ収集に乗り出さねば なるまい。

新事実が判明した。
バーキンは昔から研究結果を 娘のシェリーが持つペンダントに隠していたと言 うのだ。
Gウィルスも彼女のペンダントの中に違 いない。
ラクーンシティの混乱に乗じてアンブレ ラよりも先にシェリーを確保するのだ。
私はエイ ダを潜入させ、シェリーの居場所を探らせた。
死 人である私はあくまで影で動かなければならない 。

スパイというのは、感情を持たず、任務を忠実に遂行するマシンの筈だ。
ところがレオンと行動を 共にしるようになってからのエイダの中につまら ぬ感情が芽生えつつあった。
悪い予感がする。急 がねばなるまい。

予感は的中した。
エイダは、シェリーからペンダ ントを受け取ったレオンを追い詰めておきながら 、つまらぬ感情に流され自ら死を選んだ。
しかし 彼女にはまだやってもらわねばならない事がある 。
ここは命を助けねばなるまい。

私達はレオンが投げ捨てたペンダントの回収にあ たったが、アンブレラ回収部隊唯一の生き残りで あるハンクがいち早くペンダントを回収してしま った。
止むを得まい。残された手は、モンスター 化したバーキンを実験体として持ち帰る。
その際 、レオンやクレアをバーキンにぶつけ、実戦デー タを取ることも忘れてはいけない。

結局バーキンはレオンとクレアの前に敗れ去って しまったが、我々は残された遺体からGウィルスを 回収するのに成功した。
ウィルスの感染を防ぐ為 と偽り、アメリカ政府によってラクーンシティが 爆撃されたのは、その翌日の事だった。

その後クレアは兄クリスを探すために単身ヨーロ ッパに渡り、レオンは反アンブレラを掲げる地下 組織に入りバリーと共に戦っている。
そしてシェ リーは今我々の手にある。
バーキンの事だ、まだ 何かをこの娘に隠しているに違いない。




【2】

1978.7.31(mon)

「女の実験体」

そこを初めて訪れたのは、18歳の夏だった。
今か ら20年前の話だ。
降り立った時の、ヘリコプター のローターで掻き回された風の臭いは今でも憶え ている。
上空からは何の変哲もなく見えた洋館も 、地上では近寄りがたい何かがあった。
私より2つ 年下だったバーキンはいつもと変わらず、手にし た研究書類にしか興味はない様子だったが…。

私達2人がそこへの就任を告げられたのは、その2 日前、所属する幹部養成所の閉鎖が決まった日の 事だった。
全ては計画されていたようにも思えた し、単なる偶然とも考えられた。
真相を知るもの は、多分、スペンサーだけだろう。
そのスペンサ ーが、当時アメリカでの「t-ウィルス」の開発の拠 点としていたのがそこ、アークレイ研究所だった 。

ヘリコプターから降りるとすぐに、その施設を管 理する「所長」がエレベーターの前に立っていた 。
「そいつ」の事は名前すら憶えていない。
形式 上はどうあれ、アークレイ研究所は、その日から 私とバーキンのものだった。
私達は主任研究員と して、そこでの研究の全権を任されたのだ。
もち ろん、それはスペンサーの意志だ。
私達は選ばれ たのだ。

私達は「所長」を無視してエレベーターに乗り込 んだ。
私はその施設の構造を、前日に全て暗記し ていたし、バーキンは悪気などなく、他人の事は 目に入らない。
2人を相手にした人間は、最初の5 秒で憤慨するのが普通だ。

しかし、「所長」には何の反応もなかった。
当時 の私は慢心した若造だったので、その「所長」の 様子を気にも留めずにいた。
結局、そこにいた頃 の私はスペンサーの手の上で踊っていたに過ぎず 、「所長」はそんな私よりも自分達のボスである スペンサーの考えを理解していた訳だ。

3人を乗せたエレベーターが地下へと降りる間も、 バーキンは手にした書類から目を離すことはなか った。
その時、バーキンが目を通していたのは、2 年前アフリカで出現したフィロウィルスの新種「 エボラ」の記録だった。
今この瞬間も、「エボラ 」を研究している人間は世界中に大勢いるはずだ 。
だが、その目的は2通りに分かれる。
人を助ける ためと、人を殺すために。

知ってのとおり、「エボラ」が感染した場合の死 亡率は90%。
10日で人体組織を破壊する即効性を 持ち、今現在も予防法も治療法も確立されていな い。
兵器として使用されれば、恐るべき威力を発 揮する可能性がある。

もちろん、それ以前から既に「生物兵器禁止条約 」が発効されているため、我々がそれを兵器とし て研究することは違法だ。
しかし、我々ではなく とも、どこかの誰かがそれを兵器として使用しな いという保証はない。
そういった場合のために、 予め研究しておくことは合法である。
そして、そ の境界線は極めてあいまいだ。

なぜなら、使用された時の防衛策の研究には、ど う使用されるかも研究する必要がある。
治療法の 研究と、兵器の研究には、内容に何ら違いは無い 。
それはつまり、治療法の研究と偽って、兵器を 研究する事も可能という事だ。

しかし、この時のバーキンはどちらの理由にせよ 、「エボラ」そのものを研究するつもりでその記 録を見ている訳ではなかった。
そのウィルスには 余りにも欠点が多過ぎたのだ。

まず第1に、生体外では数日しか生きられず、太陽 光(紫外線)で簡単に死滅する。
第2に宿主となる 生体(人間)をあまりにも早く殺してしまうので 、次の宿主に移るまでの猶予がほとんど無い。
第 3に宿主から宿主への感染には直接的な接触が必 要で、比較的簡単に防護できる。

だが例えば、次の事を考えてみてほしい。

もし「エボラ」を発病した人間が、体内にウィル スが溢れたその状態で立って歩けたとしたら?
そ して、意識の薄れた状態でありながら、感染して いない人間へと自分から接触していくとしたら?

もし「エボラ」の遺伝子であるRNAが人間の遺伝 子に影響を与えるとしたら?
そして、それによっ て簡単には死なない怪物のような耐久力が人体に 授かるとしたら?

それは人としては死んだ状態でありながら体内の ウィルスを他の生体へと拡散させる「生体生物兵 器」となり得るのではないだろうか?

「エボラ」がそのような特性を持っていなかった 事は幸いだった。
これからも我々だけがその特性 を持ったウィルスを独占し続ける事ができるのだ から。

スペンサーを中心として設立されたアンブレラは 、まさに、その特性をもったウィルスを開発する ための組織だった。
表向きはウィルス治療の製薬 会社だが、実体は「生体生物兵器」の製造工場だ 。
生体の遺伝子を組み替える、「始祖ウィルス」 の発見が事の発端らしい。

「始祖ウィルス」から「生体生物兵器」を製造す るために、その特性を強化した「ウィルスの変異 株」を開発する。それが「t-ウィルス」計画だ。

RNAウィルスである「始祖ウィルス」は突然変異 を起こし易く、それによって特性を強化する事が できる。
バーキンが「エボラ」に興味を持ったの は、その遺伝子を「始祖ウィルス」に組み込む事 での特性強化だ。
「エボラ」のサンプルは、この 時既に、この研究所にも届いていたのだ。

私達は、何度かエレベーターを乗り換え、施設の 最高レベルに到着した。そこではバーキンですら 顔を上げた。
私達はそこで初めて、「彼女」と出 会ったのだ。

「彼女」については事前に何も知らされていなか った。
この研究所の最高機密であり、そのデータ は一切外には出されなかったのだ。
記録によると 、この研究所が創設された時からここにいる事に なる。

「彼女」はこの時25歳。
だが、名前も、何故ここ にいるのかも判らない。
「彼女」は「t-ウィルス」 開発のための実験体だった。
実験開始日は、1967 年11月10日。
「彼女」は11年もの間、ここでウィ ルスの投与実験を受けていたのだ。

バーキンが何かをつぶやいた。
それは呪いの言葉 だったのか、それとも賞賛の言葉だったのか。
私 達は既に、後戻りできない場所まで来てしまった のだ。
研究を成功へと導くのか、それとも、「彼 女」のように朽ち果てるのか。
もちろん、選択肢 は1つしかなかった。

パイプベッドに拘束された「彼女」の姿は、私達 の意識の中の何かを動かしたのだ。
これもスペン サーの計画した事の一部なのだろうか?

(記録は3年後へと続く)

(前回の記録内容から3年後)

この日、アンブレラの「南極研究所」に、10歳の 少女が主任研究員として配属された。
名前は「ア レクシア・アシュフォード」。私が21歳、バーキ ンが19歳の時だ。

忌々しい事に、私達のアークレイ研究所でも、「 南極でのアレクシア」の噂は研究員達の話題を独 占した。
古くからアンブレラにいた年寄り連中に とって、「アシュフォード家」の名前は伝説だった からだ。

以前から、研究が行き詰まると無能な老人達は決 まってこう言った。
『「エドワード博士」が、生き て居られれば。』
確かに「エドワード・アシュフ ォード」は「始祖ウィルス」発見者の1人であり、 「t-ウィルス」計画の基盤を創った偉大な科学者だ ったかもしれない。

しかしアンブレラが創設されて間もなく彼は死ん だのだ。
その死から既に13年が過ぎていた。

今更「アシュフォード家」に期待して何になる?
事実、「エドワード」の死後13年間、その息子の 設立した「南極研究所」は何の成果も上げてはい なかった。
孫である「アレクシア」の頭脳も高が 知れているではないか!

ところが、この日を境に、私達の部下である死に 損ないのクズ共がこう言い始めた。
『「アレクシ ア」様が、ここに居られれば。』
名家だの血筋だ のでしか人間を判断できない、愚民共が部下では 先が思いやられた。

奴等は、そういう考えだから、棺桶に片足を突っ 込んだ年齢になっても誰かの指示がないと動けな い下っ端なのだ!
…しかし、私にはまだ分別があっ た。

主任である私が、その時、熱くなっていたなら、 アークレイ研究所での「t-ウィルス」開発はもっと 遅れていた事だろう。
いかなる状況でも、冷静に 判断できねば成功は有り得ない。

その時、私は次のように考えた。
古い時代の御歴 々を上手く扱ってこそ研究成果も上げられる。
い つ死んでもおかしくない御老体ならば危険な実験 にも相応しい、と。
全ての人材を合理的に利用で きねば人の上には立てまい?

だが、問題はバーキンだ。
「アレクシア」の噂に 対する彼の反応は悲惨なものだった。
口にこそ出 さなかったが、バーキンにとって、それ以前では 最年少の16歳で主任になった事は自慢だったはず だ。

そのプライドが「10歳の少女」によって粉々に砕 かれたのだ。
天才として生まれて、初めて味わう 敗北感だったのだろう。
「年下」の、「名家」の、 「女」を、彼は容認できなかったのだ。

まだ何の研究成果も上がっていない遠い地での人 事に翻弄されるとは。
つまるところ彼はまだ子供 だったのだ。
しかし精神的に未熟であるにせよ、 バーキンには何としても立ち直ってもらう必要が あった。

私達の研究は、この3年間で第2段階まで入ってい たのだ。
この時点での「t-ウィルス」は、通称「ゾ ンビ」と言われた「生体生物兵器」の製造には、 安定してきた。

ただ、ウィルスによる遺伝子への影響に、100%と いう事は有り得ない。
人によって遺伝子には微妙 な違いがあり、相性というものがあるためだ。
「 ゾンビ」から感染しても、1割ほどの人間は発症を 免れる。
こればかりは遺伝子研究を続けてもどう にもならない。

9割の人間を発症させられるなら兵器としては十 分なはずだったが、スペンサーの考えは違ったよ うだ。
私達のボスは「それだけ」で100%の人間を 殲滅できる、独立した兵器を望んでいた。
だが、 一体何のために?

もともと生物兵器の取り柄は安価に開発できる事 だった。
ところが我々が研究する「生体生物兵器 」は、極めて高価なものになり始めた。
スペンサ ーも普通に金儲けがしたいだけなら、こんな道は 選ぶまい。

通常の兵器システムとの併用ならば十分採算が取 れるはずだった。
だが「独立した殲滅兵器」とし て研究を続けるのは割に合わない。
なぜ採算を度 外視してまでこの研究を続けるのだろうか?

戦争の概念を変える事で、「全軍需産業の独占」 でも狙っているのなら理解もできるが…。

スペンサーの真意は今でも判らない。

スペンサーの真の目的は別として、この時バーキ ンが考案していたのは戦闘能力を重視した「生体 生物兵器」だった。
「t-ウィルス」の遺伝子操作だ けでなく、他の生物の遺伝子情報をも組み込む事 で、「そいつ」を創り出そうというのだ。

武装、又は対ウィルス装備をした人間や、感染発 症を免れた人間をも殲滅する、「戦闘用の生体生 物兵器」、それは後に「ハンター」と呼ばれる事 になる。

だが、その実験はしばらく中断せざるを得なかっ た。
バーキンから実験体を守るためだ。
「アレク シア」に対して無意味な焦りを持ったバーキンは 、常軌を逸した行動をとるようになっていた。

彼は24時間、研究所に泊り込み、無計画な思い付 きで実験を繰り返した。
私は他の研究員も使って 、実験体が死ぬ前にできるだけ多くの生体サンプ ルを抽出したが、彼のスピードには追いつかなか った。

「所長」は何事も無かったかのように、新しい実 験体を補充し、それもあっという間に死んでいく 。
そこは地獄だった。
だが、その地獄の中で唯1人 、あの「女の実験体」だけは生き延びていた。「 彼女」は既に28歳。
もう14年をこの研究所で過ご した訳だ。

14年前の「始祖ウィルス」投与によって人間とし ての思考能力は無いはずだが、もしも心が残って いるのなら「死」こそ「彼女」の望む結末だろう 。
だが、「彼女」は生き続けた。

なぜ「彼女」だけがこれほど生き続けられるのか ?
実験データは他の実験体と何ら変わらないとい うのに。
その謎が解けるまでにはまだ多くの時間 が必要だった。

(記録は2年後へと続く)


(前回の記録内容から2年後)

「アークレイ研究所」で迎えた6度目の冬。
この2 年間はろくな研究成果も上げられず停滞した時間 が過ぎ去っていったが、そこにようやく転機が訪 れた。
きっかけは、この日の朝に受けた1つの報告 からだった。

南極の「アレクシア」が死んだのだ。
死因は「ア レクシア」自身が開発した「t-ベロニカ-ウィルス 」の、感染事故だった。
この時「アレクシア」は1 2歳。
危険な研究を続けるには余りにも若すぎた ようだ。

噂の中には「アレクシア」は当初から計画して自 分自身に「t-ベロニカ」を投与した、という話も あったが、いくら何でもそんな事はあるまい。
た ぶん、1年前の父親の失踪の悲しみから立ち直れ ず、ミスを犯したのだろう。

その後「南極研究所」では、残された唯一の正当 な血縁者である「アレクシアの双子の兄」が研究 を引き継いだが、「この男」には誰も期待はして いなかった。
結局「アシュフォード家」は何の研 究結果も出せないまま、滅びたも同然だった。
私 の予想通り、所詮伝説は伝説に過ぎなかったのだ 。

「アレクシア」の死によってバーキンは変わった 。
いや、元に戻ったと言うべきか。
だが、何より も部下である研究員達が彼を認めざるを得なくな った事は大きい。
今となっては、彼を越える人間 はいないのだ。

ただ、それでも彼の前で「アレクシア」の話をす るのはタブーだった。
私が「t-ベロニカ」のサンプ ルを手に入れようと画策した時も、彼は猛反対し たものだ。
「アレクシアの研究」の真相を掴むの は、しばらく後回しにするしかなかった。

結局、取り巻く状況は好転したものの、バーキン 自身は何の成長もしなかった訳だ。
しかしその頃 の私は、そんな事よりももっと大きな疑問を抱え ていた。

私達の「アークレイ研究所」は深い森に囲まれて いる。
私はよくその中を散策したが、山岳地帯の 中心部に位置する「この研究所」の近くでは人と 出会う事は全くなかった。
そこへの交通手段はヘ リコプターしかなく、人が訪れるような場所では なかったのだ。

周りに人がいないという要素は、万が一ウィルス が流出した場合での被害を最小限に食い止める上 で、もちろん重要な事だ。
だが「生物兵器」はそ れほど単純なものではなかった。
「ウィルス」は 人だけに感染するものではないのだ。

どんなウィルスも、1つの種だけを宿主とする訳で はない。
例えば「インフルエンザ・ウィルス」は 確認されているだけでも、人間以外に鳥やブタ、 馬、アザラシまでも宿主とする。
ここで複雑なの は、その種の中の全てが宿主となる訳ではなく、 鳥の中でもカモやニワトリは宿主となるが別の鳥 はならなかったりする事だ。

しかも「同じウィルス」でも、「その変異株」に よって更に宿主は変わる。
「1つのウィルス」だけ を対象としても宿主となる生体を全て把握する事 は不可能なのだ。
そして問題は、「t-ウィルス」が 持つ種を越えた適応性の高さにある。

バーキンが使い物にならなかった頃 私は「t-ウィ ルス」の二次感染性を調べていた。
そこで判った 事は、「t-ウィルス」はほとんどあらゆる種の中に 宿主となる生体がいる、という事実だ。
動物だけ でなく、植物、虫、魚など、ほとんどの種が「t-ウ ィルス」を増幅拡散させ得る可能性を持っている 。

「研究所」を出て森の中を歩く時、私はいつも考 えた。
スペンサーはなぜ、ここを選んだのか?

森の中にはあらゆる生態系が集まっている。
もし ここで「ウィルス」の流出があり、宿主として合 致する生体がいた場合、どうなるのだろうか?

それが昆虫だった場合、元が小型なので単純な二 次感染だけならば大きな脅威にならないと感じる かもしれない。
だが昆虫は生物的に、爆発的な大 量発生をする可能性がある。
その場合「ウィルス 」はどこまで広がるのだろうか?

それが植物だった場合、自分からは移動しないの で汚染の可能性は少ないように思えるかもしれな い。
だが、その植物の出す花粉はどうなる?

この場所は、あまりにも危険だった。

考えてみれば、「アシュフォード家」が研究所の 設立場所を「南極」にしたのは至極当然の事だ。
それとは逆に、ここはまるでウィルスを拡散させ る目的で選んだ拠点のようではないか。
だが、ま さか、そんな事はあるのだろうか?
スペンサーは 私達に何をさせようとしているのだろうか?

この問題は余りにも大きく、他の研究員達には漏 らせなかった。
この時私が相談できそうな相手は バーキンくらいだったが、彼に話しても意味のな い事は明白だった。

必要なのは情報だ。
この頃から私は、研究員とし ての自分の立場に限界を感じ始めていた。

スペンサーの真の目的を探るためには、もっとあ らゆる情報に近いポジションに就く必要がある。
そのためになら、それまでの地位を捨てる事にも 未練はなかった。

だが、急いではいけない。
スペンサーに感付かれ ては、全てが終わってしまう。
私は自分の考えを 誰にも悟られぬよう、バーキンと共に研究に没頭 した。

そんな中、あの「女の実験体」は研究所の片隅で 忘れられていった。
生き続けるだけの「デキソコ ナイ」。
意味のある実験データが採れない事から 、いつしか「彼女」はそう呼ばれるようになって いた。

5年後の、あの実験の時までは…。

(記録は5年後へと続く)


1988.7.1(fri)

「ネメシス」

(前回の記録内容から5年後)

私達にとって、「アークレイ研究所」での11年目 の夏が始まろうとしていた。

その頃は私も既に28歳。
バーキンに至っては2歳に なる娘の父親にもなっていた。
相手も「アークレ イ」の研究員だ。互いにそこでの研究を続けなが ら、結婚し子供まで育てる気になれた事は普通に 考えれば理解し難い。

だが、まともな神経の人間ではないからこそ「ア ークレイ」での研究を続けられたとも言える。
そ こで成功する者は、狂った人間だけだ。

そして10年という歳月の中で、私達の研究は遂に 第3段階に入っていた。
知能を持ちプログラムされ た命令を遵守し、兵士として行動するより高度な 「戦闘用の生体生物兵器」。
通称「タイラント」 と呼ばれたモンスターを創り出す事が、それだ。

しかし、その研究には当初から大きな障害があっ た。
「タイラント」の基となる、「生体」の入手 が困難だったのだ。
遺伝子的に「タイラント」と して適応する「人間」が、当時は極めて限られた 事が最大の問題だった。

それは「t-ウィルス」の性質が原因だった。
「ゾン ビ」や「ハンター」を製造する為の「t-ウィルス変 異株」はほとんどの「人間」に適応したのだが、 脳組織を衰退させる問題があった。
ある程度の知 能が維持できねば、「タイラント」には成り得な い。

バーキンはその問題を克服するべく、完全適応す れば脳への影響を最低限に抑える新しい「変異株 」の抽出を行なった。
だが「その変異株」に対し ては「適応する遺伝子を持った人間」が極めて少 なかった。
遺伝子解析班のシミュレートでは、「1 000万人に1人の人間」しか「タイラント」として 発症せず、他はただ「ゾンビ」となるだけだった のだ。

研究が進めばもっと多くの「人間」が「タイラン ト」として発症する別のタイプの「t-ウィルス」も 開発できるはずだった。しかし、その研究をする 為にも先ず「新しい変異株」に完全適応する「人 間」が必要とされた。

とは言え、アメリカ全土を探しても数十人しか存 在しないような「人間」が、「実験体」として連 れて来られる可能性は極めて低い。
実際その時は 、他の研究所からも無理矢理集めた上で近い遺伝 子のものが僅か数体用意できただけだった。
私達 は研究を始める前から暗礁に乗り上げていたのだ 。

ところがそんな時、ヨーロッパの「ある研究所」 では全く新しい発想で「第3段階の生体生物兵器」 を製造する計画があるという噂を耳にした。
それ が「ネメシス計画」だ。

私はその時の状況を変えるためにも「その計画」 の「サンプル」を入手するべく行動した。もちろ んバーキンは反対したが、この時は何とか彼を説 得できた。「適応する生体」が見つかるまで私達 の研究が進展しない事は彼も認めざるを得なかっ たのだ。

ヨーロッパからの「荷物」がいくつかの中継を経 て届けられたのは、それから数日が過ぎた深夜の 事だった。
ヘリポートに降ろされた「それ」はほ んの小さな箱に入っていた。

「ネメシス・プロトタイプ」。
「フランスの研究 所」で開発中だった「それ」を手に入れる為には かなり強引な手段も使ったが、結局はスペンサー の後ろ盾が大きかった。
バーキンだけは最後まで 「それ」に興味を示す事は無かったが、それでも 実験する事の意義は認めてくれた。

「そのサンプル」は全く新しい、画期的な構想の ために開発されたのだ。遺伝子操作によって人工 的に創られた「寄生生体」。
それが「ネメシス」 の正体だった。

「知能」だけを特化させた「生体」で単体では何 もできない。
しかし、「他の生体の脳」に「寄生 」する事によって「知能を支配」し、高度な戦闘 能力を発揮することができる。
「知能」を「戦闘 用の生体」とは別に用意し、その2つを複合する事 によって1つの「生体生物兵器」を構成しようとい うのだ。
確かにこれが完成すれば、「知能」の問 題を気にする事なく「戦闘用の生体」を創る事が できる。

だが問題は、「それ」による「寄生」が全く安定 していない事だった。
「サンプル」に添付された 書類にも、失敗による「生体」の死亡例だけが羅 列されていた。
「ネメシス」の「知能支配」から5 分と持たずに、「寄生された生体」が死亡してし まうのだ。

しかし、未完成の「プロトタイプ」が危険な事は 承知の上だった。
何とか「寄生時間」を延ばす事 だけでも成功すれば、「ネメシス計画」の主導権 はこちらが握れる。
それが私の狙いだった。

もちろん、あの「女の実験体」を使うのだ。
「彼 女」の異常な生命力ならば、「ネメシス・プロト タイプ」の「寄生」にも長い間耐えられるだろう 。
たとえ失敗しても、こちらは何も失わない。

ところがその実験は、私の予想に反して全く別の 結果を引き起こした。
「彼女」の脳に侵入しよう とした「ネメシス」が、消えてしまったのだ。

最初は何が起こったのかすら判らなかった。
まさ か「彼女」の方が「寄生生物」を取り込んでしま うとは思ってもみなかったのだ。
それが始まりだ った。

それまではただ死なないというだけの存在だった 「彼女」の中で、何かが覚醒しようとしていた。
私達は「彼女」をもう1度、最初から調べ直さねば ならなかった。

それまでに10年間で「彼女」の事は調べ尽くされ ていたが、敢えて過去のデータは無視した。
私達 がこの研究所に配属される前の時間も併せて21年 間、誰も掴めなかった何かが見えようとしていた のだ。

更に長い時間を費やした時、バーキンだけがその 何かに気が付いた。
確かに「彼女」の中には何か が存在した。

しかし、それは「t-ウィルス計画」からは逸脱した ものだった。
それは全く新しい、別の構想を生み 出す事になる。
私達の運命を変えた「G-ウィルス 計画」の始まりだった。

(記録は7年後へと続く)



1995.7.31(mon)

「G-ウィルス」

(前回の記録内容から7年後)

私が再び「そこ」に降り立ったのは、そこを初め て訪れた「あの日」から17年が過ぎた夏の事だっ た。
「そこ」に来るといつも、「あの日」の風の 臭いを思い出す。
周りの風景も建物も、あれから 何も変わってはいなかった。

ヘリポートの上には、先に到着していたバーキン の姿も見えた。
彼と会う事すら、既に久しい。
私が「アークレイ研究所」を離れてから、もう4年が 過ぎていたのだ。

4年前バーキンの立案した「G-ウィルス計画」が承 認された時、私は情報部への転属を希望し、それ はあっさり受理された。
私が研究員としての道を 断念し転機を図るというのは、誰から見ても自然 な成り行きに見えたはずだ。

実際のところ、「G」の構想は最早私などがつい て行けるレベルを越えていた。
例えスペンサーの 真意を探るという目的が無かったとしても、その 時研究員としての自分の能力に限界を見出したの は確かな事だった。

ヘリの風が舞い上がる中、バーキンは相変わらず 手にした書類から目を離す事はなかった。
彼は定 期的に、「アークレイ」には来ているようだった が、その彼ももう、そこの所属ではない。
しばら く前に、同じラクーン市内の巨大地下研究施設に 転属していたのだ。
そこが、彼による「G-ウィル ス」開発の拠点となっている。

だが正直なところ、4年前の私は「G」がスペンサ ーに承認されるとは思ってもいなかった。
何故な ら「それ」は、兵器としての概念からも逸脱した 、余りにも未知なる構想の上に成り立っていたの だ。

「G」がそれまでの「t-ウィルス」とは一線を画し た理由は、それに感染した生体自体が自発的な突 然変異を続ける事にある。
もちろんウィルスは遺 伝子が剥き出しの状態である事から、突然変異を 起こし易い。
だがそれはウィルス単体での話であ って、生体内の遺伝子は違う。
たとえウィルスに よって構造変化したものであっても、生体内の遺 伝子が突然変異を起こす事は非常に稀だ。
放射線 を浴びるなどの外的要因があれば、話は別だが。

ところが「G」がに感染した生体はそんな外的要 因を全く必要とせず、死ぬまで突然変異を繰り返 してしまうのだ。

これに近い特性ならば、「t-ウィルス」にも少なか らず存在する。
特殊な環境に置かれた「生体生物 兵器」が、体内のウィルスの活性化によって遺伝 子構造に再変化を起こす事は既に確認されていた 。
だがその為にはあくまでも外的要因による引き 金が必要であり、再変化にもある程度の予測の範 疇にあった。

しかし「G生体」にはそんな法則は無い。
その変 化の行き着く先は誰にも予測できず、どんな対抗 手段を考えようとも、それを無効化するべく変異 していくのだ。

7年前バーキンは、あの「女の実験体」にこの作用 の片鱗を見出した。
「彼女」は外見的には何の変 化も起こしていなかったが、その深層部は常に変 化しあらゆる実験用ウィルスを融合共存しながら 生き続けていたのだ。
そして21年間続いた内部変 異は、「寄生生体ネメシス」すら取り込んでしま うだけの変化を遂げた。

「G-ウィルス計画」は、その特性を究極まで推し 進めようとしている。
しかし、その先にあるもの は「最終生体」への進化かもしれないし、崩壊に よる終焉かもしれない。
…それが兵器と言えるの だろうか?

スペンサーは何を考えこの計画を承認したのだろ うか?
情報部に移って4年という歳月が過ぎたにも かかわらず、私はスペンサーの真意を掴めずにい た。
そして今やスペンサーは、アークレイにすら 姿を見せなくなっている。
まるで、やがてそこで 始まるであろう何かを予測しているかのように… 。
スペンサーの姿は砂漠に浮かぶ蜃気楼のように 、私から遠ざかって行く。

だがチャンスはいつか巡ってくるはずだ。
それま で私が生き延びられればの話だが。
エレベーター は私とバーキンを乗せ、研究所の最高レベルへと 降りていった。
「彼女」と初めて出会ったあの場 所へ。

そこでは、バーキンの後任である「ジョン」とい う名の新しい主任研究員が待っていた。
こいつは シカゴの研究所からきた男で、科学者としては優 秀らしかったが、この研究所で働くには人として まとも過ぎたようだ。
ここでの研究の残虐性に疑 問を持ち、それを是正するよう、上層部に意見を 提出していたのだ。

それは私のいる情報部でも噂になっていた。
『外 部に情報が漏れるとすれば先ずはこいつからだろ う』というのが皆の意見だった。
私達はそのまま ジョンを無視して、「彼女」に対する最終処理を 始めた。
「彼女」を殺すのだ。

「ネメシス」を取り込んだ「彼女」は僅かながら 知性を取り戻したのだが、それは奇怪な行動を生 んだだけだった。
その行動は次第にエスカレート し、今では「他の女」の顔を剥ぎ、それを被るよ うになってしまった。
記録によれば最初の「始祖 ウィルス」投与の時も、同様の行動を示したよう だ。

「彼女」が何を考え、そういった行動に出るのか は判らなかったが、最近3人の研究員が犠牲になっ た事から「彼女」の処分が決定された。
「G」の研 究が軌道に乗った以上、実験体としての「彼女」 には最早、何の利用価値も無かったのだ。

「彼女」の生命反応停止の確認がそれから3日間に 渡って繰り返された後、「死体」は所長の指示で どこかへと運ばれて行った。

結局、「彼女」が何者で、なぜ「ここ」に連れて 来られたのかは今も判らない。
もちろんそれは他 の実験体も同じだ。
だが、もしも「彼女」がいな かったら「G計画」は無かったかもしれない。
その 場合、私とバーキンの現在は今とは違っていただ ろう。
私はその事を考えながら「アークレイ研究 所」を後にした。

スペンサーは、どこまで計算しているのだろうか ?

(それから3年後、「事件」は始まる)

























【エクストラ】

興味深い事件だ…

ロシア、コーカサス地方の寒村で猟奇殺人事件が 連続発生している。
村人は伝説の怪物「アルマス 」が蘇ったのだと騒いでいるが…その惨状はラク ーンフォレストでの最初の猟奇事件を簡単に連想 させる。

その村の3キロ先にはソビエト時代に作られた古 い化学工場があり、調査によれば、現在所有権は ヨーロッパの名門貴族の元に移っている。

5年前には外資を投入して大規模な地下開発を行 なったらしい。
地質調査を見れば固い岩盤があり 、ある種の施設を作るには申し分ない。

どうやらクロスワードが揃ったようだ。

ラクーン消滅から5年、アンブレラは図太く、生き 延びてきた。
ウィルス漏洩の責を問われ、株価暴 落にも関わらず、すべてはアメリカ政府の陰謀で あるという裁判とキャンペーンを展開、最終的な 死刑宣告までの時間稼ぎに成功してきた。

元々政府と癒着してきたのがアンブレラにとって は幸いだった。
当然国にも叩けば埃がでる機密が あり、それを法廷とマスコミに切り売りすること で民衆の疑念を煙に巻く生き残り戦術だ。

人や組織や国家にさえ、多かれ少なかれ狂気とい うものが潜んでいる。
しかし、あの事件で最も狂 っていたのはアンブレラにほかならない。

愚かなアンブレラに再興の兆しが見える。
紛争地 でB.O.W.が跋扈し始めている。
兵器としてB.O.W.が 供給されているのだ。
アンブレラは水面下で、体 制を整え生物兵器を生産し、輸送する船舶が運航 しているという情報も入ってきている。

潮時だ。
t-ウィルスを捏ね繰り回し、変異体を作 り、販売する。
それに一定の成果が出ようとも、 ウィルスを生体兵器の製造媒体にしか扱えない想 像力ではいずれまたつまらないボロを出す。

"賢者の石"は真にふさわしい錬金術師の手へ。
ふさ わしくない者は、静粛に退場願おう。

ここが必ずアンブレラ終焉の地になる…




7/10


栞を挟む
[back]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -