★
(俺は、無力だ。)
結局、自分の手では、何一つとして、救えなかった。
何もかも、この手からすり抜けていく。
沢山死んだ。
仲間も、そうで無い人達も。
沢山、殺した。
かつて仲間であった者達も、そうでは無かった者達も。
戦わなければ、守れないから。
守る為に、かつては仲間であった者達も、この手で始末した。
一人頭を撃ち抜く度に、守るべきヨーコ達を思っていた。
ヨーコ達を守るという理由が無ければ、ケビンは戦う事すら出来なかった。
………助けられたのであろう人達がいた。
…………助ける事が出来なかった人がいた。
レイモンドが死んだ。
ゾンビ達から、ヨーコ達を守って。
ゾンビ達に襲われたレイモンドを、ケビンは助ける事が出来なかった。
エリオットとエリックが死んだ。
起爆装置を作っていて、バリケードを突破してきたゾンビ達の群れから逃げられずに。
ケビンは、その様子を歩道橋の上から見ている事しか出来なかった。
アーロンが、フレッドが、トニーが死んだ。
ケビンには誰も、助ける事が出来なかった。
沢山死んだ。
ラクーン市警の仲間達の大半は、もう居ない。
皆、死んでしまった。
ケビンがそれに関わる事すら出来ぬままに。
市民を守る為、職務を全うする為に、彼等は死んだ。
だが、ケビンにはそれすら出来なかった。
守るべき市民であるマークを犠牲にしてまで、生き延びてしまっている。
ケビンが、ゾンビと化したトニーを撃てていたら、マークが死ぬ事は無かった。
ケビンはマークに助けられ、………そのせいでマークは死んだ。
マークには、大切な家族がいた。
生きて帰らねばならない理由があった。
なのに、そんな彼は死に、彼を守るべきだったケビンは生きている。
この手は、何も守れない。
たった二人ですら、一人がこの手から零れ落ちてしまった。
何も守れない、何も出来ない。
ケビンの手には、何も残されていない。
虚しいだけの使命感の残骸だけが、そこにあった。
(何故、………………俺はまだ生きているんだ……?)
答えは出ない。
答えてくれる人などいない。
何もかもを喪い涙さえ枯れ果てたケビンに残されたのは、底の無い絶望と無力感だけだった。