(俺は、無力だ。)



結局、自分の手では、何一つとして、救えなかった。


何もかも、この手からすり抜けていく。




沢山死んだ。

仲間も、そうで無い人達も。



沢山、殺した。


かつて仲間であった者達も、そうでは無かった者達も。

戦わなければ、守れないから。

守る為に、かつては仲間であった者達も、この手で始末した。
一人頭を撃ち抜く度に、守るべきヨーコ達を思っていた。
ヨーコ達を守るという理由が無ければ、ケビンは戦う事すら出来なかった。




………助けられたのであろう人達がいた。
…………助ける事が出来なかった人がいた。



レイモンドが死んだ。
ゾンビ達から、ヨーコ達を守って。
ゾンビ達に襲われたレイモンドを、ケビンは助ける事が出来なかった。

エリオットとエリックが死んだ。
起爆装置を作っていて、バリケードを突破してきたゾンビ達の群れから逃げられずに。
ケビンは、その様子を歩道橋の上から見ている事しか出来なかった。

アーロンが、フレッドが、トニーが死んだ。
ケビンには誰も、助ける事が出来なかった。


沢山死んだ。

ラクーン市警の仲間達の大半は、もう居ない。

皆、死んでしまった。

ケビンがそれに関わる事すら出来ぬままに。


市民を守る為、職務を全うする為に、彼等は死んだ。







だが、ケビンにはそれすら出来なかった。

守るべき市民であるマークを犠牲にしてまで、生き延びてしまっている。

ケビンが、ゾンビと化したトニーを撃てていたら、マークが死ぬ事は無かった。
ケビンはマークに助けられ、………そのせいでマークは死んだ。


マークには、大切な家族がいた。
生きて帰らねばならない理由があった。

なのに、そんな彼は死に、彼を守るべきだったケビンは生きている。



この手は、何も守れない。

たった二人ですら、一人がこの手から零れ落ちてしまった。

何も守れない、何も出来ない。


ケビンの手には、何も残されていない。


虚しいだけの使命感の残骸だけが、そこにあった。


(何故、………………俺はまだ生きているんだ……?)



答えは出ない。
答えてくれる人などいない。





何もかもを喪い涙さえ枯れ果てたケビンに残されたのは、底の無い絶望と無力感だけだった。


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