ヨーコの目には時間が無限大に引き延ばされている様に見えた。


デビットが、自分を切り裂く筈だったメスライオンの鋭く凶悪な爪に引き裂かれるその瞬間を。





いや、そうなる筈だった瞬間を。





ライオンの鋭い爪がデビットの身体に触れるギリギリに、不意にメスライオンのバランスが崩れた。


爪はデビットの身体に擦る事すら無く宙を薙ぐ。



「デビットっ!これを使って…!」


本当に一瞬の判断だった。


普段からトロい事に定評と自覚のあるヨーコにしたら、将に奇跡とも呼べる程に。


きっとこの先何十年と生きても、もう二度とは訪れないであろう奇跡。


ヨーコは見事にそれを掴まえた。



ヨーコは手にしていたリボルバーをデビットへと投げる。

デビットはそれをしっかりと掴み、まだ体勢を立て直せていないメスライオンに突き付けた。


「覚悟しろ。」


デビットはリボルバーの引き金を素早く連続的に引く。


5発もの銃弾を身体に受けたメスライオンは、最後に低く吼え、動かなくなった。





「倒せた、の?」

思わず座り込んでしまいたくなったが、ヨーコは思いとどまる。


「デビットっ!大丈夫……?怪我は無い……?」


デビットには幸い怪我は無かった様で、彼は静かに頷いた。


「どうして、わざわざ飛び込んで来たの?」



本当に恐かったのだ。


自分が切り裂かれそうになった事よりも、デビットが切り裂かれそうになった事が。



奇跡的にデビットは無事だが、もしあのままデビットがライオンに殺されていたらと思うと、身体の血流すら止まってしまいそうな恐怖を覚える。



「理由など分からん。気が付けば身体が勝手に動いていた。」




ふとデビットは何かを思い出した様にポケットに手をやった。




「ヨーコ…これを。」




デビットがツナギのポケットから大切そうに何かを取り出して、ヨーコに差し出してくる。


ヨーコが受け取ると、それは御守りだった。


「これって……私の御守り?」


肌身離さず持っていた筈なのに……。
何処かで落としてしまっていたのだ。


それをデビットが拾って大切に持っていてくれた……。


ヨーコの胸の内に、溢れんばかりの喜びが満ちた。




「それに助けて貰ったのかもな。」

「そうね。きっと……。」


ヨーコは大切な、デビットを守ってくれた御守りをぎゅっと握り締める。


(ありがとう……。デビットを……守ってくれて……本当に……ありがとう……。)




「ねえ、デビット……。私…あなたの力になれているかしら?」

「ああ。お前には、助けられてばかりだ。」



まだ闇は深く、出口は遠い。
それでも、温かな光の様な希望がヨーコの胸に芽生えた。


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